ちょっと前のブログで、共謀罪に関する論点として「テロの定義がおかしい」という事を書きました。内容は引用ブログを見ていただければ分かりますが、これだとテロリズムが何を指すのかが分からなくなります。

 

【ここまでの私の質問に対する答弁】
「テロリズム」 ⇒ 一般には、特定の主義主張に基づき、国家等にその受入れ等を強要し、又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等をいうと承知している。

「特定の主義主張」⇒ 一般的な意味としてのテロリズムに係る集団が行う殺傷行為等のよりどころとなる主義主張をいい、(以下略)

 

 もう一度説明をすると、「特定の主義主張」という言葉をテロリズムの定義に代入すると、テロリズムを定義するのにテロリズムという言葉が入ってきます。これは意味を成しません。「主義主張」の所はトートロジーによって事実上、無効化されています。

 

 ここから、ちょっと気になったので、既存の法律で同じ表現を持つものを探して、色々と聞いてみました。以下に出てくる法令は「テロリズム」と明示的に定義してあるもの、そうでないものがそれぞれ含まれます。

 

【「特定の主義主張」という表現が出てくる法令】

・ 防衛省職員の災害補償に関する政令

 

【「政治上その他の主義主張」という表現が出てくる法令】

・ 国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律
・ 特定秘密の保護に関する法律
・ 海上保安庁組織規則
・ 自衛隊法
・ 警察庁組織令

 

 これらの「特定の主義主張」、 「政治上の主義主張」という言葉の意味について、質問主意書で聞いてみました。

 

【「特定の主義主張」に関する質問に対する答弁書】

お尋ねの防衛省職員の災害補償に関する政令(昭和四十一年政令第三百十二号)第二条第一項第四号に規定する「特定の主義主張」とは、同号に規定する多数の人の殺傷行為等のよりどころとなる主義主張を意味している。

 

【「政治上その他の主義主張」に関する質問に対する答弁書】 

国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律(平成二十八年法律第九号)第六条第一項、特定秘密の保護に関する法律(平成二十五年法律第百八号)第十二条第二項第一号、海上保安庁組織規則(平成十三年国土交通省令第四号)第二十一条第二号及び第四十六条第二項第二号、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第八十一条の二第一項並びに警察庁組織令(昭和二十九年政令第百八十号)第三十九条第四号の「政治上その他の主義主張」とは、それぞれの規定に規定する人の殺傷、物の破壊、暴力主義的破壊活動等の行為のよりどころとなる主義主張を意味している。

 

 今回の共謀罪におけるテロリズムの定義の中でトートロジーを採用したために、それ以外の法令でも同様の表現はすべてトートロジーにして、無効化しないと辻褄が合わなくなってきました。しかも、性質が悪いのは、後者において「政治上」という言葉が入っているにもかかわらず、それすら無効化しています(定義に入ってこないので。)。

 

 私は共謀罪や上記の法令で述べられている行われる行為を正当化しようとするつもりは毛頭ありません。殺傷行為、物の破壊、暴力的破壊活動、すべて厳しく取り締まるべきものです。であるからこそ、その基礎となる法令の一部分を無効化するようなアプローチには極めて批判的です。

 

 何故、そんなトートロジーと無効化の答弁をして既存の法体系を崩さなくてはならなかったのか。それは「テロ」という名前を無理をして共謀罪法案に入れようとしたからです。無理な事をやろうとすると、どうしても歪みが出てしまいます。この部分はその典型的な表れではないかと思っています。