さて、フランス大統領選挙が近付いてみました。それなりに平素からフランスの報道に接している身として、ちょっと変わった視点から「フランス大統領選挙の見方」を提示したいと思います。

 

1. 全体像

 数字を入れた予想を当初書いたのですが、さすがに止めました。定性的な評価に止めておきます。

 

【第一回投票】

マリーヌ・ル・ペン国民戦線党首(極右) : 若干下げのトレンドに見えるが底堅いはず。

エマニュエル・マクロン元経済相(中道) : 当初の期待感が冷め、若干下げのトレンド。踏みとどまれるか。

ジャン・リュック・メランション元職業教育相(左派中の左派) : 赤丸ついて急上昇中。

フランソワ・フィヨン元首相(右派) : 組織力で猛追。しかし、伸び悩み。

ブノワ・アモン元教育相(左派) : 完全に埋没。メランションに良い所を持っていかれている。

 

【第二回投票】 → 何か書こうかと思いましたが、複雑すぎて止めました。普通に考えれば、マクロン元経済相のはずですが...。

 

2.第一回投票:「おしおき票」の存在

 フランス大統領選挙の第一回投票では「おしおき票」が出ます。第二回投票(決選投票)は最終的大統領を選ぶのだからそれなりに抑制するけど、第一回投票は「おしおき」的意味を込めて投票する人が多いのです。似たような感じになるのが、欧州議会選挙と地方議会選挙です。いずれも「あまり日々の生活に関係していないように見える」からです。

 

 これが如実に働いたのが、2002年フランス大統領選挙。1997年~2002年までは保革共存政権で、右派のシラク大統領、左派のジョスパン首相という布陣でした。そういう中、第一回投票で「おしおき票」が効き過ぎて、1位シラク大統領、2位ル・ペン国民戦線党首(マリーヌの父)、3位ジョスパン首相になってしまいました。この時、5位から9位までは左派系候補が4~6%の票を取っていました。「こういう結果になるのなら、ジョスパンに入れておけばよかった。」、そんな声が左派側から選挙後に出て来ました。これらの候補に対する票の一部は、正に「(現職首相に対する)おしおき票」だったのです。

 

 そういう観点から、既存政党のアウトサイダーであるル・ペン、メランションあたりに票が集まるような気がするのです。皆、「どうせ第二回投票では当選しないのだから。」と思いながら投票するわけです。更にル・ペン候補については、トランプ現象と同じで「世論調査で表に出て来ない隠れル・ペン支持者」が結構出てくるような気がしています。なので、世論調査では少し下げ気味ですが、25%超えが見えてくるような気がします。逆にマクロン候補は真新しさで伸ばしていましたが、ここに来て政策の具体性等で評価に陰りが見えてきています。それを猛追しているのが、これまた、アウトサイダー的な色彩の強いメランション候補です。なお、メランション候補はSNSの活用がかなり効果を見せています。

 

 これらを踏まえれば、直感的には、ル・ペン、マクロン、メランションの順ではないかと見ていますが、2位争いはかなり熾烈だと思います。

 

3.第二回投票:ル・ペン勝利は考えにくい。ただ、それでも驚異的な数字。

 第二回投票は、第一回と異なり、結構本気度が出てくる投票行動になります。もはや「おしおき票」はありません。オランダの総選挙で下馬評ではかなり伸ばしていた極右自由党のウィルダース候補が最後の伸びを欠いたのと同じような感じでしょう。さすがに「ルッテ首相に不満はあるけど、かといってウィルダースじゃないだろう?」という思いが多くのオランダ人の心の中に去来したのだと思います。

 

 最近の各種選挙を見ていると、相手が誰かによっても異なりますが、ル・ペン候補は40%を若干下回る数字を窺ってくるでしょう。2002年の時はル・ペン(父)候補は、第一回から第二回に掛けて殆ど得票を伸ばせませんでしたが、今回は伸ばすでしょう。特にフィヨン候補支持者の一部は間違いなくル・ペン候補に行くでしょうから。

 

 それでも50%を超える事は想像しにくいですが、もう一度頭をフラットにして考えてみれば30~40%を狙える所までの勢力になっている事自体が本来脅威なのです。「極右の陳腐化」という現象を正直に受け止めなくてはなりません。

 

4.既存政党の不人気: 左右二大勢力の時代は終わったか?

 ここで気付くのが、ル・ペン、メランションは政界のアウトサイダー、マクロンも既存政党の枠組みにはない候補です。右派共和党のフィヨン元首相は妻等への不正給与汚職疑惑で伸び悩んでいますし、社会党候補のアモン元教育相はさっぱりです。

 

 本来、フランスにおける選挙の二回投票制というのは「(大まかに)左派・右派の二大勢力による競争を促す」と見られてきました。フランスの政界は、元々は共産党、社会党、中道右派、右派の4勢力で戦う中で、どの選挙でも第一回投票で左派内(共産党、社会党)、右派内(中道右派、右派)でそれぞれ上位だった候補が第二回投票に出てきて、最後は左派連合 vs 右派連合で戦うという構図でした。第五共和制はそれで長らく回ってきました。

 

 しかし、それらの既存政党で取り込めない勢力が伸長してきているのが現状です。もはや、フランス共産党は自力で大統領選挙に候補を立てる事が出来ず、メランション候補を応援する一勢力になっています。本来、国政の最前線に居るはずの共和党、社会党は、今回、いずれも第二回投票に残れない可能性が極めて高いです。マクロン候補は中道色がしていますが、かといって既存の中道政党の枠には全く嵌まらず、何処かアウトサイダー的です。

 

5.エッジの効いた主張 : 「生ぬるい主張など聞きたくない」?

 極右のル・ペン、左派(極左とまでは言わないがかなり左)のメランションは、いずれも主張が極めてエッジが効いています。それだけではありません。共和党のフィヨン候補とてその主張はル・ペンに引っ張られてなのか、右派のかなり右の方です。一方、社会党のアモン候補は社会党最左派であり、その主張はあまりメランション候補と変わりません。共和党の党内候補者選びで中道右派のジュペ候補が負け、社会党の党内候補者選びで社会党最右派のヴァルス前首相が負けたのも併せ示唆的です。

 

 それ以外の候補の中にも極めてエッジの効いた主張をする方がいます(というか得票率5%を下回る候補は大半がそういう方々)。そうすると、第一回投票だけを見てみると、国民の支持の行き先の大半は「実現可能性はともかくとして、聞こえのいいエッジの効いた主張をしている候補」です。昔からフランス大統領選挙ではそういう傾向はあったのですが、今回は特にそれが目立ちます。

 

 では、中道と言われるマクロン候補はと言うと、「雰囲気優先」でこれまた主張がよく分からないのです。終盤に差し掛かってきて、実現可能性があるのかどうかもよく分からない政策が掲げられています。

 

6.結局、すべてモヤモヤの中

 となると、投票に際しての判断基準がよく分からないのではないかな、と私には思えてなりません。「政策そのもの」、「実現可能性」、「ステレオタイプ」、色々な可能性がありますが、今回程、「何を基準に選ぶんだろうか?」という事が分かりにくい選挙はありません。すべては五里霧中な感じがして、誰が当選しようとも先行きが極めて見えにくいというのが正直なところです。2012年のオランド大統領、2007年のサルコジ大統領、2002年のシラク大統領の時はそういう感じはありませんでした。

 

 私はこんな感じで見ています。しつこいですが、あくまでも「一つの見方」として捉えていただければと思います。