今日の内閣委員会の最後で、少しだけトランプ政権(というか共和党指導部)がやろうとしている「国境税・国境調整措置」を取り上げました。短時間でしたが映像はココです。

 

 特定の国からの輸入に課税をする「国境税」については、さすがに米共和党も筋悪だと思ったのでしょう。今、共和党指導部が提示しているのは「国境調整措置」です。これはよく見てみると「とてつもなくどうしようもないもの」とまでは言えないような気がしています。国境税の文脈よりも、むしろ税制のあり方として捉えていく必要があります。

 

 アメリカは昔から他国がやっている輸出に際しての付加価値税の還付に不満を持ってきました。日本の消費税は、輸出するものについては消費税を還付します。これは何故かと言うと、「付加価値税は消費される場所で課すのが適当」とする仕向け地主義を世界的に採っているからです。しかし、米国は州毎の付加価値税はありますが、国レベルでの付加価値税がありませんのでそういう還付はしません。

 

 そうすると、例えば、第三国のマーケットで、輸出段階で消費税の還付を受けた日本車と、そうでないアメリカ車では競争力に差が出るという不満になるわけです。勿論、これに対する日本側の対応は「国レベルで付加価値税を設けて、それに仕向け地主義を採用すればいいではないか。」となるわけですが、連邦政府と州との関係を根本から見直さなくてはならず、そう簡単には行きません。

 

 そこで今回、共和党指導部が、トランプ大統領の国境税の議論を引き取る形で、法人税にこの仕向け地主義を導入するアイデアを持ち込んできたという事です。まだ、はっきりとした事は分かっていないのですけども、漏れ聞こえてくる限りにおいては、輸出する際には輸出収入を法人税の課税対象から外す、輸入する際にはその製品は米国外で発生した費用なので損金扱いせずに法人税の課税対象とする、そういう発想です。

 

 ただ、このアイデアについては、輸出についてはWTO補助金協定、輸入についてはGATTが伸し掛かります。武井外務大臣政務官が答弁してくれています(最近、同政務官とのやり取りが増えております。)。

 

【WTO補助金協定】

第三条 禁止
3.1 農業に関する協定に定める場合を除くほか、第一条に規定する補助金のうち次のものについては、禁止する。
(a) 法令上又は事実上、輸出が行われることに基づいて(唯一の条件としてであるか二以上の条件のうち一の条件としてであるかを問わない。)交付される補助金(附属書1に掲げるものを含む。)

(略)


附属書1 輸出補助金の例示表

(略)

(e) 商工業を営む企業が支払う又は支払うべき直接税又は社会保障負担金につき、輸出に関連させてその額の全部又は一部の免除、軽減又は繰延べを認めること。

(略)
(g) 輸出される産品の生産及び流通に関し、同種の産品が国内消費向けに販売される場合にその生産及び流通に関して課される間接税の額を超える額の間接税の免除又は軽減を認めること。

(略)

【引用終了】

 

 つまりですね、直接税の免除は輸出補助金で禁止、間接税については「生産及び流通に関して課される間接税の額を超え」なければ輸出補助金として禁止されないのです。なので、仕向け地主義を間接税でやれば◎、法人税でやれば×という事になるわけです。

 

 また、輸入において仕向け地主義を導入して、輸入品は損金扱いせず法人税課税してしまうと、何故、輸入品だけ課税されるのかという視点からGATT第3条の内国民待遇に反する可能性が高いのです。

 

【GATT】

第三条 内国の課税及び規則に関する内国民待遇

(略)

2. いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、同種の国内産品に直接又は間接に課せられるいかなる種類の内国税その他の内国課徴金をこえる内国税その他の内国課徴金も、直接であると間接であるとを問わず、課せられることはない。(略)

 

 こういう条約上のルールがあるので、上記の国境調整措置はそうそう上手くは行きません。しかし、よくよく考えてみると、特に輸出の部分では、何故法人税の仕向け地主義が輸出補助金に当たり、間接税の仕向け地主義が輸出補助金に当たらないのかという、税理論上(条約上ではない)の論理的な説明をする事は簡単ではないように思います。一つ確実に言えるのは、付加価値税では仕向け地主義が世界的にスタンダードになっているという事なのだと思いますけども、そんな事はアメリカには関係のない事でしょう。

 

 最後に三木財務大臣政務官はなかなか面白い答弁をしています。法人税への仕向け地主義を導入する事の意味合いを以下のように言っています。

 

● 企業立地に中立な税制となり得る可能性がある。

● 輸出超過国にとっては税収減。

● 輸入品の値段が上がるので消費者の実質所得減となる。

● 輸入企業の競争力が下がる。

 

 その他にも多くの論点があるので、今日はキックオフという事でやらせてもらいました。まだ、国会議員で関心を持っている人は僅かですが、この件は絶対に今後、日本において大きくなってくるテーマです。