【要旨】

 本日、医療ビッグデータ法案の審議、採決で質疑立ち。事前の法案修正(+附帯決議)の協議で東奔西走し、我が方の問題意識を取り込む修正を実現。感慨深いものがある。この法案で医療ビッグデータをめぐってどういう情報の流れ、対価(おカネ)の流れが出来るのかはちょっと見えにくいところがあるが、いずれにせよ、今後、医療ビッグデータを活用した最新の医療研究が進むことを希望。

 

【本文】

 今日、内閣官房作成の「医療分野の研究開発に資するための匿名加⼯医療情報に関する法律案」の審議が行われました。私も質疑に立ちましたが、質疑よりもむしろここに至るまでの方が長かったので少し経緯も含めて説明します。

 

 法案は通称「医療ビッグデータ法案」と呼ばれています。概要はこんな感じでして、医療機関等が保有する医療情報を、認定された事業者が匿名加工し、その集合体であるビッグデータを医療研究の用に供するといったものです。基本は2年前に成立した改正個人情報保護法で。同法において、個人情報を加工して誰のものか分からなくする匿名加工情報というカテゴリーが作られた事を医療分野で更に発展させるというものです。

 

 基本的には、我が方も賛成でして、こういうビッグデータを活用する事で色々な医療分野での研究開発が進む事を望むものです。そういった中、党内の会議で概ね以下のような問題提起がありました。我が党に対して色々な意見をお持ちの方がおられると思いますが、本当に党内の会議では良い意見がたくさん出て勉強になりました。特に参議院の先生方の知見には舌を巻きました。

 

(1) 例えば、学校保健安全法(学校における健康診断)、高齢者の医療の確保に関する法律(特定健診)、労働安全衛生法(事業者検診)、妊婦検診及び乳幼児健診(母子保健法)といった法律で行われる健診で得られた情報がどうなるのか。事実上義務的に受けるものもあり、そのデータが自分達の知らない所で使われているのであれば懸念は大きい。その観点から、オプトアウト(自分の医療情報は使われないようにするための申し出)の規定はとても重要。また、オプトアウトは簡便にしないと、高齢者に複雑な手続きを求めても形骸化するだけ。

 

(2) 法案内では、個人に対する不当な差別等に繋がらないようにするための規定は盛り込まれているが、ビッグデータとなった結果として地方自治体、事業所その他の各種団体に対する不当な差別が生じる事があり得る(例:○○市は●●の疾患が多いらしい、という評判)。そこへの配慮はどうなっているのか。

 

(3) 医療機関等→認定事業者(匿名加工をする事業者)→利活用者と情報が渡っていく中で、情報の扱い、対価の金銭面等でおかしな事が起こらないようにすべき。また、利活用者が目的外使用をすることのないようにすべき。

 

 党内で本法の責任者である北神圭朗議員の命を受け、内閣委野党筆頭理事である私がこれらの問題意識を法律に盛り込むための修正協議に臨みました。与党の平井卓也筆頭理事、福田峰之理事(法案担当)とかなりの回数、議論を重ねました。最終的に纏まった修正案(要綱案文新旧対照表)、そして附帯決議はこれだけ読んでもなかなか分かりにくいのですが、上記の問題意識は完全に取り込まれています。小難しいですが、一応解説はします(備忘録ですので、飛ばしていただいて結構です。)。

 

【我々の問題意識と最終的な決着との対比】

・ オプトアウトを一般論として簡潔にすべきとの当方提案:第三十条を修正の上、主務省令で対応。押さえとして附帯決議1.と質疑で主務省令の内容を担保。

・ 特に学校や事業所での健康診断での権利保護の当方提案:附帯決議4.で対応。

・ 個人、団体又は地域への不当な差別が生じないようにすべき:第四条修正+附帯決議2.で対応。

・ 医療情報や匿名加工医療情報の公正かつ適切な提供及び利用:第八条、第十七条の修正+附帯決議3.で対応。

(注:附帯決議5.は昨年成立した官民データ利活用法との関係を盛り込んだものです。)

 

 今回の修正や附帯決議にあるような問題意識は、政府側にも勿論あったのですが、法文上明確でなかったのです。その点を明確にさせ、かつ質疑で更なる明確化をする方向性を作りました。この手の修正協議で満額回答というのはあまり例がありません。自民党の平井筆頭理事、福田理事や内閣官房、衆議院法制局、衆議院委員部、色々な人にお世話になりながら修正協議を無事終える事が出来ました。

 

 ここまでが事前の仕切りでして、この作業を了した上で質疑に臨みました。事前に神山洋介理事、初鹿明博議員、北神圭朗議員が質疑した後でしたので、私が用意した質疑の一部は既に出てしまいましたが、それなりに取捨選択しながら質疑をしました(映像はココ)。

 

 上記に書いた事の確認の部分以外で言えば、この仕組みを導入する事によってお金の流れがどうなっていくのかという事を質問しています。つまり、この医療ビッグデータ法をめぐってどういうマーケットが出来るのかという事が想像できないのです。

 

 情報の流れは医療機関等→認定事業者→利活用者であって、対価の流れはこの逆です。医療機関等から認定事業者には、匿名加工前の生データが行きます。そして、その対価は「コスト」のみという事になっています。ただ、普通に考えるとシステム整備にお金が掛かりますが、政府はそのお金は認定事業者が面倒を見る事を想定しているようでした。かつ、医療機関等からすると、「無いとは思うけど、もし情報が漏洩してしまったら…」というリスク要因を抱えます。そうすると、生データ提供に対するシステム+リスク対応という分がコストになれば、1データ毎の金額は相当に跳ね上がるのではないかという気もします。

 

 そうすると、認定事業者の収入はすべて利活用者からの対価が原資ですから、認定事業者から利活用者への匿名加工されたビッグデータの提供で相当な金額での売買が成立しないと、認定事業者は医療機関等への対価の支払いができないんじゃないかなという気がするのです。利活用者から認定事業者に払われる対価の水準について、政府は「情報収集加工コストを基本に適度のマージンを上乗せ」と言っています。これが何なのかはよく分かりませんでした。

 

 もっと言うと、認定事業者から利活用者にビッグデータを提供(売買)する場合にオークション的な事が起きてしまうのではないかという懸念もあります。「●●製薬さん、幾らで買うって言ってます?うちはその倍出しますから、うちだけに提供してください。」、公益性のある研究開発に資するようにやる仕組みですから、そんなやり取りが起こらないようにしてほしいと思います(法案修正でもその取っ掛かりとなる規定は盛り込んでありますので。)。

 

 まあ、その他質疑では色々とありましたが、質疑終局後に私が上記の修正案の趣旨説明をして、討論があり、採決(わが方は賛成)、最後に附帯決議と流れていきました。近々本会議採決もあるでしょう。自分の手掛けた修正が法律として残っていくというのはそれなりに感慨深いものがあります。備忘録的な意味合いが強いですが、このブログにメモとして残しておきます。