【要旨】

昨年訪問したキプロスでの経験を踏まえ、今後、大使館が設置されるに際して、①同国の位置付け、②PKOのあり方、③金融機関破綻時の対応について質問。

 

【本文】

 3月10日(金)、外務委員会で質疑に立ちました。「在外公館名称位置給与法」の審議です。私は外務委員会に所属しておりませんが、キプロスへの大使館設置が来年度予算に入っている事から、昨年、キプロスに行った者として感じた事を質疑にしたいと思い、外務委員会理事にお願いして質疑に立ちました(映像はココ)。

 

 冒頭、先のブログに書いた「弾道ミサイル発射と(日本の)主権的権利」について質問しています。内容はココを参照ください。今でも疑問なのが、維新の委員が「言葉遊びだ」とヤジを飛ばしていたことです。弾道ミサイルで日本の主権的権利が害されたか否かを確認するのが何処に言葉遊びの要素があるのかなと不思議でなりません。

 

 その後、外務省「改革」について伺いました。今から15年前、外務省に不祥事による激震が走った際、改革の機運が高まり、最終的に川口外相の下で「外務省改革行動計画」が取りまとめられました。斜め読みしていただければ分かりますが、とても良い事が書いてあります。しかし、どう見てみても今の外務省にこの精神が十分共有されているとは思えない部分があります。なので、少し圧力を掛ける観点から取り上げさせてもらいました。外務省からすると「変な事覚えているヤツが居て嫌だな。」と思っているはずです。それでいいのです。

 

 その後、キプロスについて聞いています。あの国は小さな国でギリシャ文化がベースですが、中東とも関係が近く、イスラエルは海を跨いですぐです。また、エジプトとの近さも感じました。そして、ロシアとの関係の近さは日本からは見えませんが実感しました。年間、イギリスから100万人、ロシアから50万人の人が来るそうです。

 

 そして、とても重要なのが中東有事の際の発進基地となっているという事です。キプロスには英国の領土(租借地ではない)があり、そこには英空軍が基地を持っています。中東で有事がある時、欧米諸国が使える基地としてはインド洋のディエゴ・ガルシア、トルコのインジルリック、そしてこのキプロスがあります。イラク空爆、シリア空爆の際、実際に使われています。であれば、下記にも書く通り、PKOが出ている事と併せて考えれば防衛駐在官を置いてみてはどうかなと示唆しました。そういう場所で英空軍関係者と関係を作っておくと、色々な情報収集が出来そうな気がしたのです。答弁は大したものがありませんが、検討してほしいと思っています。

 

 その後、PKOについて質問しています。キプロスPKOを見ましたが、とても平和な環境で停戦ラインの監視をしています。我々が南スーダンPKOをイメージしますが、キプロスPKOは全く異なります。行った時は違和感を持ったのですが、もう一度考え直してみると「そもそも、今、南スーダンPKOみたいなものが例外的であり、本来、PKOとはこういうものなのかもしれないな。」と思うようになりました。

 

 私は南スーダンPKOも踏まえると、「PKOでやるべき事、そうでない事」を分けるべきだと思います。後で書きますけど、国連の事務局もそういう思いを持っているはずです。

 

 そういう問をしたところ、(言わなくてもいいのに)答弁で「伝統的紛争への対応から、国内の『衝突』への対応まで国連のマンデートは多岐化している。マンデートを現実的かつ具体的なものにしていきたい。」という話が返ってきました。この日はそういう議論をするつもりはなかったのですが、少しだけ「紛争」、「衝突」の違いに入りました。役所からは「armed conflictについては、一般的な概念として武力紛争という捉えることもあるし、『PKO上との関係で』武力紛争と捉えない事もある。」と(これまた言わなくてもいい)答弁が返ってきました。現実に法を合わせようとしている姿勢が見えて来ました(さすがに周囲の委員も苦笑していました。)。正直な所、外形的に見て「何が武力紛争なのか、何が武力衝突なのか」を分ける基準はないと思います。

 

(この際、維新の委員から変なヤジが飛んでいます。私はこれらの言葉の裏に、自衛隊の派遣の是非が絡むので真剣に聞いています。これをヤジる気持ちが私には分かりません。)

 

 国連ではPKO改革のためのハイレベル・パネルが2014年に報告書を出していて、その中に「A number of peace operations today are deployed in an environment where there is little or no peace to keep(今日、多くのPKOが、維持すべき平和がほとんどないか全くない環境において派遣されている。)」という表現が出て来ました。これが実態だと思います。国連側は、「能力が変化に追いついていない」、「政治的サポート不足」、「求められることと出来ることの差が大きい」、「国連の官僚主義の弊害」といったような指摘をしています。非常にザクッと言うと「何でもかんでもPKOに持ち込まないでほしい」という魂の叫びではないかと思います。

 

 日本はこういう問題意識を主導していくべきではないかと思ったので、それをそのまま聞きました。答弁はちょっと弱かったですね。本当に真面目に「国連PKOで何をすべきなのか。」、「そして、その中で日本はどういうPKOに参加すべきなのか。」という議論をすべきだと思います。

 

(なお、私がこの質疑をした2日後に日経にこういう記事が出ました。さすがに偶然の一致だと思いますが。)

 

 最後に、キプロスで行われたベイルインについて質問しました。これは何かと言うと、金融機関の破綻に際して、金融機関の株主、預金者等が負担をする制度です。かつての日本の金融危機の際はベイルイン法制が整えられていなかったので、ベイルアウト(公的救済)で税の投入がなされていますが、世界の趨勢はベイルインです。そして、ギリシャ危機の際、ギリシャ国債を持っていたキプロスの金融機関ではEUによってベイルインが採用されました。何故、ベイルインを採用したのかについては色々な議論がありますが、「一度、実験的に小さい国でやってみようとEUが思った」とか、「ロシアからの資金が流れ込んでおり、そんなものをEU国民の税で救済する必要はないと判断した」とか言われています。

 

 いずれにせよ、当時のキプロスの経験で明らかになった事があります。切っていく株式、債券の順番をどうするかを間違えると中小企業や個人の預金者がとてつもなく損害を被る事があるでしょう。そういう経験をきちんと踏まえるべきとの示唆をしました。実際、EUはキプロスでの経験をベースにベイルイン法制を整えてきています。

 

 日本でもベイルイン法制は預金保険法第126条の2において整えられている事になっています。しかし、とてもザックリ書いてあります。しかも、基本的には日本の倒産法制を下敷きにしており、これだけでは金融機関破綻の際に何が起こるのかがさっぱり分かりません。個人預金者に対する優先弁済権も確保されているようには見えませんし、破綻した際にベイルインする債務の準備(Gone concern Loss Absorbing Capacity)も進んでいるようには見えません。「対応に幅を持たせている」と言えばそれまでですが、もう少し本件はよく勉強していきたいと思っています。

 

 長くなりましたが、キプロスから見た色々な思いを述べました。自分なりに、先の視察の宿題返しをしたつもりです。