日印原子力協定が署名されました(日本語英文)。この協定には、インドが核実験を行った時の対応に関する公文(日本語英文)が別途あります。

 

 まず、法的な観点から言うと、公文の中身をよく読んでみると、法的拘束力を持つ国際約束ではありません。なので、憲法上、国会承認が必要な条約に当たりません。

 

 公文では、基本的には単に日本の認識を言い放っただけでして、それに対するインドのコメントは2008年9月5日のステートメントを再確認しただけです。このステートメントは多くの事を述べていますが、核実験との関係で言うと「自発的かつ一方的なモラトリアム(voluntary and unilateral moratorium)」です。インドは「日本側はあれこれ言っているけど、うちは昔から『モラトリアム』を言っている。それは今でも変わらない。」と言った、それだけです。

 

 条約マフィアの間では、こういうものは「国際約束」、「合意」とは呼びません。もっと言うと、日本の言う事に、インドは何らの賛意、同意を示しているわけではありません。

 

 ましてや、公文に署名したのは両国の外務省の部長(審議官)級です。原子力協定をインド外務次官と在インド日本大使間で署名したのと比較すると、少しランクが下がります。

 

(余計な事ですが、広島1区選出の岸田外相はこの協定にご本人が署名したくなかったでしょう。今回、インドのスワラージ外相がモディ首相に同行しなかったので、次官・大使間での署名になった事は、もしかしたらホッとしておられるかもしれません。)

 

 他方、日米原子力協定は異なります。

 

【日米原子力協定第12条】

1. いずれか一方の当事国政府が、この協定の効力発生後のいずれかの時点において、
(a) 第3条から第9条まで若しくは第11条の規定若しくは第14条に規定する仲裁裁判所の決定に従わない場合又は
(b) 機関との保障措置協定を終了させ若しくはこれに対する重大な違反をする場合には、

他方の当事国政府は、この協定の下でのその後の協力を停止し、この協定を終了させて、この協定に基づいて移転された資材、核物質、設備若しくは構成部分又はこれらの資材、核物質、設備若しくは構成部分の使用を通じて生産された特殊核分裂性物質のいずれの返還をも要求する権利を有する。

2. アメリカ合衆国がこの協定に基づいて移転された資材、核物質、設備若しくは構成部分又はこれらの資材,核物質、設備若しくは構成部分において使用され若しくはその使用を通じて生産された核物質を使用して核爆発装置を爆発させる場合には、日本国政府は、1に定める権利と同じ権利を有する。

3. 日本国政府が核爆発装置を爆発させる場合には、アメリカ合衆国政府は、1に定める権利と同じ権利を有する。

(以下略)

 

 これは国際約束を構成しています。厳格な意味での法的拘束力があります。

 

 色々な意味で困難な交渉だった事を窺わせます。