TPPの審議で大きなテーマとなった、SBS米の価格偽装問題ですが、私なりの思いを少し書いておきます。経済学的な視点から書きますので、ちょっと小難しいです。これまであまり議論にならなかった視点からの分析です。

 

 まず、SBS米の輸入についてですが、マークアップというお金を取ります。これは何かと言うと、国産米と輸入米の価格差を調整するための課徴金です。「政府による中抜き」と理解していただいて結構です。まず、商社が外国からコメを買い付けます。そして、政府に一旦それを買い取ってもらいます。そして、マークアップ分を付加して、卸業者に売り渡します。

 

 この政府予定買取り価格と政府予定売渡し価格には、それぞれ上限と下限があります。なので、一定の金額のマークアップが必ず取れる事になります。私が作成したかなり簡潔化した図の左側を見てください。なお、私の図で「実際の仕入れ価格」というのは、正確には「仕入れ+(商社の正当な)利益+諸経費」を指します。

 

 そして、ここで何が問題かというと、予定買取り価格の上限と「仕入れ+(商社の正当な)利益+諸経費」との間に隙間があるという事です。ここに経済学で言うところの不労所得、レントが生じています。分かりやすく言うと「濡れ手に粟」が生じる仕組みになっています。

 

 この「濡れ手に粟」をどう使ったか、これが今回の問題の本質です。それが私の図で言うところの右側(赤の部分)のように使われたら、輸入米の価格引き下げに繋がります。これが「調整金」です。

 

 ただ、どうも調べてみると、この「濡れ手に粟」の使い道は「調整金」だけではなさそうです。農水省の調査結果にもある通り「様々な使われ方」をしています。輸入米価格の引き下げのみならず、場合によっては商社に正に「濡れ手に粟」で残っているかもしれませんし、商社と卸で分け合っているかもしれませんし、様々な可能性があります。その一つが「調整金」というだけです。

 

 しかし、よく考えてみたいと思います。問題の本質は「濡れ手に粟」が生じている事にあります。そして、その「濡れ手に粟」は誰の負担でしょうか。仮に政府予定買入れ価格を引き下げれば、その分だけマークアップがたくさん取れます。「仕入れ+(商社の正当な)利益+諸経費」よりちょっと高い所に、政府予定買取り価格を設定すれば、今、「濡れ手に粟」になっている部分をすべてマークアップで徴収可能という事になります。

 

 さて、政府が徴収した「マークアップ」は何に使われているかという事になります。これは米麦の輸入に伴う様々な経費を賄う事にしています。食料安定供給特別会計の食糧管理勘定というところに入ります。ただ、この食糧管理勘定は輸入米に伴う様々な経費(保管費)等で赤字を出しています。そして、一般会計から毎年1000億円繰り入れています(税による赤字補填)。

 

 ここで明らかになる事があります。調整金に使われ得る「濡れ手に粟」は国民負担なのです。マークアップですべて取ってしまえば、一般会計からの繰入(特別会計の赤字補填)が下がるはずなのです。ここがポイントです。国民負担によって、商社が濡れ手に粟を手に入れ、それを様々なやり方で使っている、これが現状です。考え方によっては、「調整金」としてSBS米を価格を安く国内に流通させるための原資としているのは、まだ、国民負担を国民に還元しているだけマシとすら言えます。そうでなく、誰かがポケットに入れているケースですら大いにあるわけです。

 

 そうすると、普通に考えるのは「ならば、おまえの言うように『政府予定買取り価格引き下げ』をやればいいではないか。そうすれば、『濡れ手に粟』は出なくなり、物事はすべて解決する。」という事でしょう。しかし、今回の調査結果としての農水省の結論は違います。単に「輸入業者(商社)及び買受業者(卸)との間で金銭のやりとりを行ってはならない。」という新しい規制を盛り込むだけです。

 

 これですと、「濡れ手に粟」は残ります。その扱いについて、極めて部分的に取引規制をするだけです。これですと、また、第二の、第三の「調整金疑惑」は出てくるでしょう。そんな知恵は少し考えれば、幾らでも出て来ます。そして、農水省として「(国民負担による)濡れ手に粟」は残す、と判断したという事になります。

 

 経済学的には、様々な制度を導入すると、マーケットメカニズムに依らない部分に「濡れ手に粟」が出て来ます。普通の制度であれば、それを予期して、「濡れ手に粟」の配分方法を盛り込むとか、「濡れ手に粟」を政府が吸収するとか、色々な措置が取られますが、現行の食糧法ではそれが放置されています。

 

 邪推なのかもしれませんが、この「濡れ手に粟」の部分を残さないと、SBS輸入の制度が回らないのではないかと思います。私は意図的な放置だと思います。

 

 纏めとして少し難しく言うと、「食糧法上、レントが生じる事を許容しているし、今回の調査結果を踏まえても放置することにした。なので、そのレントを巡って分捕り合いが生じる。その一つのスタイルが『調整金』による輸入米の価格引き下げである。」ということです。

 

 小難しくてすいません。