モーリシャスの次は、ドバイ経由でキプロスに行きました。直線距離だとドバイからキプロスはそんなに遠くはなさそうですが、イスラエル上空を避けるため、フライト時間は少し長めです。

 

 私はキプロス系というとこの方を思い出しますが、現地に行ってみると、「なるほど」と分かるような気もしました。

 

 キプロスというとガイドには、「国の北部はトルコ系が事実上の分裂国家を作っている」、「南北間にはグリーン・ラインが引かれており、国連PKOが出ている」というような情報があります。これだけですと、日本人が思い出すのは「朝鮮半島」です。しかし、首都ニコシア自体が南北に分断されていますが、まあ、平和なものです。行き来もかなり自由にやっています。せいぜい夕暮れになると、北側で流されるアザーン(イスラムの礼拝の呼び掛け)のスピーカーが南側にこれ見よがしに向けられている事や、北側の山腹にトルコ国旗とそれを模した北トルコキプロス共和国の国旗が描かれていて、南側からいつもそれが見えるということくらいです。

 

 EU加盟で、通貨はユーロ、制度は英国のものを模しています。なので、BREXITを受けての発想法がとても印象的でした。英国がEUから居なくなる、うちは英国と制度が似ていて入りやすい、中東とも近い、なので、EU市場、中東市場を見据えたハブとして注目してほしい、という感じでした。インドとアフリカ南部を見据えたハブとして生きていきたいとするモーリシャスと似たようなところを感じました。BREXITを受けた結果、キプロスにチャンスが回ってくるという発想は日本人には抱きにくいですが、欧州政治というのはそういうものです。実際、BREXIT後、ドイツによるキプロスへのアプローチは増しているそうです。

 

 また、イスラエル、エジプト、キプロスの3ヶ国の排他的経済水域付近で天然ガスがかなり有力なようで、現在3ヶ国による共同出資で採掘が行われているようです。たしかによく考えてみると、イスラエルとエジプトだけの共同出資だと上手く行かないでしょうから、キプロスが間に入る意義はとても大きいように思います。例えるとすれば、さいたま市を作る時、浦和と大宮だけではダメで、間に与野が入る事で上手く行ったというのと同じです。

 

 日本から見ていると、上記のような情報から「ちょっと危ないんじゃないの?」というステレオタイプを抱き、観光地の選択肢として上がってきません。実際、年間600人くらいしか来ないそうです。その一方、英国から100万人、ロシアから50万人来るとのことでした。

 

 しかし、上記の通り、南北は分断されているけども、分断された首都ニコシアでも平和なものです。中東の紛争の余波という観点でも、そもそも、島国ですから脅威とは一線を画する事が出来ており、また、シリア移民の最終目的地になるわけでもないですから、そもそも、移民がやってくることも少ないです。EUの中でテロが最も起きにくそうな場所ではあります。

 

 なお、キプロスの領土の3%は英軍によって占められています。租借ではないそうでして、英国の主権が及ぶ地域です。中東を視野に置いた英軍の基地ですが、地元の人曰く、「米軍の対シリア発進基地として使われているんじゃないかな。だって、検証しようもないじゃないか。」という言い方をしていました。「あり得るな。」とは思いました。中東向けはトルコのインジルリック基地が有名ですが、同基地が種々の事情で使いにくい時の代替基地としてのロケーションは抜群ですからね。

 

 キプロスは、ギリシャ系住民が大多数を占めていますが、ギリシャとはちょっと違うなという印象でした。ギリシャ危機の際、保有していたギリシャ国債を通じて、キプロス経済も危機的な状況に陥りました。しかし、キプロスは「ペイ・オフ」を実施して金融危機を切り抜けました。10万ドルだけ預金保証し、それ以上については没収した上で金融危機を再建する財源に充てています。

 

 当時は色々な論争がありました。ペイオフを行ったのはキプロスだけです。キプロスにはロシア人の預金が多かったので、EU側が「そんなものを保証しなくてもいい。」と判断したとか、「ペイオフ制度をまずは小国キプロスで実験してみた。」という論調すらありました。実際、最近、EUで導入されたベイル・インの制度ではキプロス救済の仕組みを下敷きにしています。いずれにせよ、今のキプロス経済を見ているとそれを見事に切り抜けています。救済プランでは100億ドルの融資枠が用意されたそうですが、実際には73億ドルしか使うことなく、救済プランを終了させています。

 

 政府の方に「なんで成功したの?」と聞いても、「これを切り抜けないと危機を克服できないと国民を説得した。」と言っていました。事情はもっと複雑でしょうし、塗炭の苦しみだったと思いますが、既に成長路線に経済を戻している(危機時にまで戻ってはいないものの)のは評価していいように思います。自国発の危機を全然反省している気配がなく、いまだに(ギリシャに厳しい)ドイツのショイブレ財務相の悪口ばかり言っているギリシャとはちょっと違いを感じました。実際、キプロスの人に聞いてみると、ギリシャ人に対して「一緒にされたくない」という感情を見て取ることが何度かありました。

 

 冒頭に述べた「北キプロス・トルコ共和国」についてですが、ビジネスマンの方達は、南側(我々が居た側)から見ると「当方(南側)が多大な負担を背負ってまで、北側と再統合したくない。」と言っていました。多分、本音だろうと思います。北キプロスは、それ程トルコから手厚く面倒を見てもらっているわけではないようで、本当は統合して発展している南側と一緒になりたいと思っているようです。とは言っても、経済格差が相当にあるので、統合したら南側が相当にカネを出さないといけなくなります。それは嫌でしょう。

 

 また、北キプロスの指導層も、トルコとの手前、「実は統合してEU側に近寄りたい」とはとても言えないので、対話は前に進んでいくようには思えません。間に立つ国連は「今の双方の指導層はハーモニーが合う。対話は期待が持てる。」と言っていましたが、私には「ハーモニーはあっているかもしれないが、双方の抱える事情を踏まえれば対話はあまり期待できない。」としか見えませんでした。

 

 紛争の種は殆ど存在せず、平和は維持しようとしなくても維持できるPKOなので、世界各国から大人気のPKOです。日本としても出せるものなら出したいところですが、既得権化しているので「財政支援宜しく」的な言い方をしてきます。ちょっとムッとしました。

 

 最後に、キプロスはEU的に見れば「辺境」に見えると思います。しかし、キプロスの利点は正に「EUメンバーである事」だと思いました。色々な社会全体の底上げがEUメンバーであることによって行われているんだよな、と思います。EU指令についていくのは大変なはずですが、その努力をしているが故に、社会制度で高いレベルが維持できているという感想を抱きました。

 

 あれこれ書きましたが、簡単に一言、「観光地としてはとても、とても良い所ですよ。」とだけ付言しておきます。