南シナ海をめぐる仲裁裁判所が何故成立したかについては、先のエントリーで書きました。

 

 韓国との関係では、竹島でも同様のアプローチが取れるような気がします。国連海洋法条約及びそれに伴う韓国の宣言を踏まえれば、「竹島」の領有権とか領海等の境界画定で仲裁裁判所を立ち上げることは出来ません。民主党政権時代にも一度、提起していますが、韓国側から拒否されています(ココ)。今回の一連の裁判手続きを踏まえ、それらの主権関係のテーマを丁寧に外しつつ、間接的に竹島の領有権の判断なしには判決が出せないような論点を探してみる事は知的にとても興味深いと思います。国会審議で提案してみようと思います。

 

 さて、仲裁裁判所の判決を受けて、「沖ノ鳥島は大丈夫か」という問題意識があります。正に正当な問題意識です。今回、南シナ海の浅瀬や岩礁は、一部は低潮高地(潮が低くなると陸の部分が出てくるだけの場所)としてそもそも領土としての権限すら否定され、一部は国連海洋法条約上の「岩」に過ぎないとなっています。

 

 ここで重要なのは、「国連海洋法条約上の『岩』」という事です。国連海洋法条約には以下のような規定があります。

 

【第八部 島の制度 第百二十一条 島の制度】
1 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。
(略)
3 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。

 

 ポイントは3でして、南シナ海の幾つかの岩礁はここで言う「岩」だと認定されています。なので、排他的経済水域又は大陸棚を有しません。これとの関係で、沖ノ鳥島のステータスがどうなのかということになります。

 

 沖ノ鳥島が「領土」であることを否定する論者は世界中のどこにもいません。なので、12カイリの領海は有しています。しかし、そこから先の排他的経済水域、大陸棚が否定されるという事になると、日本にとってはとんでもない損失になります。そして、中韓は沖ノ鳥島は国連海洋法条約における所の「岩」に過ぎず、排他的経済水域も、大陸棚も有しないと主張しています。

 

 ここで押さえておかなくてはならないのは、2012年の国連大陸棚限界委員会の勧告です。国連海洋法条約では、大陸棚は200カイリまで認められますが、一定の要件を具備すれば200カイリ以上に延伸する事が出来るとなっています。その延伸部分をどう画定するかという作業が国連で進んでおり、日本は色々と頑張った結果、200カイリ以上の部分でかなりの大陸棚を確保しています。取れた部分、保留になった部分の図はココで参照ください。

 

 その際、外務省はこういう報道官発表をしています。明確に「四国海盆海域について,沖ノ鳥島を基点とする我が国の大陸棚延長が認められている」と書いてあります。四国海盆というのは、この図で言うと四国の南にある薄紫の部分です。ここは四方を日本の大陸棚に囲まれているのですが、200カイリ以上の部分ですので、2012年の延伸で明確に日本の大陸棚だと画定した部分です。

 

 ここからが少し難しくなりますが、この四国海盆は何処を基点として延伸した大陸棚だと認められているかという事です。再度、この図を見ていただければ分かりますが、東の小笠原諸島、西の沖大東島あたりから延伸したものだと見る事も出来るわけですが、外務省は「沖ノ鳥島を基点とする」と発表しています。

 

 沖ノ鳥島は大陸棚を有するとするのであれば、上記の国連海洋法条約第121条3における岩ではないということになります。「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。」の対偶を取ると、「排他的経済水域又は大陸棚を有するのであれば、人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩ではない。」となります。対偶は常に真です。

 

 なので、私は今年の国会の質問主意書で、「何故、外務省はそこまで自信をもって、沖ノ鳥島を基点とする我が国の大陸棚延長が認められていると言っているのか。」について聞いています。あまり注目されませんでしたが、それなりに良い質問ではないかと思います。質問答弁、それぞれご覧になってください。ポイントは問二です。

 

 答弁は逃げていますが、実は私は答えを知っています。それはこの4年前のブログ(是非参照ください)に書いています。大陸棚限界委員会からの勧告で、沖ノ鳥島を基点として四国海盆への大陸棚延伸が認められているのです。

 

 勧告(全文はココ)のパラ158に以下のようなくだりがあります。

 

2. Submerged prolongation of the land mass and entitlement to the continental shelf beyond 200 M
158  The submerged prolongation of the land mass of Japan in this region extends from the land territories on the Izu-Ogasawara Arc to the east and the Daito Ridge and the Kyushu-Palau Ridge in the west. In this regard, Japan refers explicitly to the following land territories: islands on the Shichito-Io To Ridge, such as Tori-Shima Island in the Eastern SKB region; and in the Western SKB region, Kita-Daito Shima and, Minami-Daito Shima Islands on the Daito Ridge, Oki-Daito Shima Island on the Oki-Daito Ridge and Oki-no-Tori Shima Island on the Kyushu-Palau Ridge (Figure 21).

 

 ここに何と書いてあるかというと(太字部分)、四国海盆への延伸は九州・パラオ海嶺にある陸から広がっているという趣旨の事が書いてあります。そして、九州・パラオ海嶺上にある陸(land territory)というのは沖ノ鳥島しかないのです。多分、中韓は大陸棚限界委員会の審査の段階で、上記のパラ158の微妙な表現振りを見落としたのではないかと思います。野田政権の日本外交の大得点だと思います。ここは素直に評価してください。

 

 ここまで長かったですが、何が言いたいかというと、沖ノ鳥島は大陸棚を持てると国連の大陸棚限界委員会が言っている、ということは、沖ノ鳥島は「岩」ではない、という理屈が導き出せるのではないかということです。楽観的な事を言うつもりはありませんが、日本外交はそれなりに手は打ってきています。