【以下はFBに書いたエントリーを加筆、修正したものです。】

 

 「農林水産物」の輸出が伸びている事、これ自体はとても良いことだと思います。これはこのエントリーの大前提です。

 

 ただし、色々な方と話をしていると、ちょっと誤解があるようなのでそこは説明しておく必要があります。「農林水産物」というと生鮮食料品を思い出す方が多いでしょうが、ここでいう農林水産物はもっと、もっと範囲が広いです。

 

 このリンク(輸出量・輸出額国別輸出額・輸出品目)を見ていただけるとわかります。昨年は7451億円が輸出されていますが、その内、加工食品が2258億円、水産物が2757億円です。コメ201億円、青果物235億円と比すると桁が一つ違います。あと、所管官庁が違うので農林水産省の資料には出て来ませんが「たばこ」がトップクラスの輸出品目です。

 

 それぞれ細かく見ていくと、加工食品のトップは清涼飲料水で、ポカリスエット、オロナミンCといった商品がメジャーです。日本のソース混合調味料は世界で親しまれています。

 

(余談ですが、お好み焼きソースの甘味はオマーン等から輸入するナツメヤシによるものです。外務省時代、オマーンの有力者が訪日した際、その話をしながらお好み焼きを紹介したのですがピンと来なかったのか、全然反応がありませんでした。)。

 

 水産物ではホタテ貝が大人気でして、コメと青果物を足したよりも多いです。ぶりも人気ですね。漁業関係者の品質管理、改善のご苦労が成果を結んでいます。

 

 勿論、青果物も頑張っています。りんごがとても人気が高いです。あと、昨年私が行った帯広かわにし農協で見た長いもは素晴らしいものでしたし、長年の苦労による海外進出の話も聞かせていただきました。これから伸びていってほしいと思います。

 

 これらをすべて纏めてみると、以下のようになります。

 

① たしかに(広義の)農林水産物の輸出は増えている。

② ただし、(想像に上りがちな)「日本の農家の方が田畑で生産して、加工したものが輸出されているもの」はそれ程多くない。逆に漁業従事者は外国市場からの恩恵が相対的に大きい。

③ しかも、原材料を輸入して加工して輸出しているものがかなり含まれており、これらについては、日本における付加価値は加工過程のみとなることから、日本の農林水産「業」とは関係が薄い。

 

 なお、国名を見ていただければ分かりますが、現時点では必ずしもTPP加盟国が主たる輸出国の上位を占めていません。大口はアメリカですけども、同国への輸出は海産物か加工食品が大半です。TPPによる関税撤廃が役割を果たし、潜在的な市場が開いていく可能性を否定する意図はありませんが、現状ではTPP加盟国の市場が十分に開拓できているわけではないということです。

 

 もう一度強調しますが、(広義の)農林水産物の輸出が増えている事はとても良い事です。そして、今後、1兆円に到達することを望みます。しかし、その「成果」は現時点では「農家」の方に誇示するべきものではないものが相当に含まれていることはよく理解する必要があります。