予算委員会での質疑の中で、私が「あれっ」と思ったことが何回かあったのですが、恐らく誰も気付いていない違和感について書きたいと思います。

 それは、2月10日のおおさか維新の丸山穂高議員の質疑でして、以下のようなものでした。

【衆議院予算委員会議事録抜粋】
○丸山委員 (略)海のいわゆる排他的経済水域、EEZでの外国海洋調査船、我が国のEEZにおける外国籍の調査船の特異行動と言われます、いわゆる、我が国に対して同意を得ずに海洋調査をしている、こういう特異行動の件数です。二十四年から二十七年で六十三件もあります。このまばらなようになっています。そして、二十七年、昨年は二十八件と急増しているところでございます。
 これについてお伺いしたいんですけれども、明らかに国連海洋法条約に違反していたとしても、これも先ほどの土地の問題と同じです、これに対して、現時点で、我が国で、明確に、違反しているものを拿捕したり、訴追する、取り締まる国内法の規定がないがゆえに、現状、先ほど言ったような行為ができない。取り締まれない、捕まえられない、訴追できない。今、こういう状況にあるということで、外務大臣、よろしいでしょうか。

○岸田国務大臣 我が国は、我が国の排他的経済水域における外国による海洋の科学調査について、平成八年に国連海洋法条約に基づいて関係省庁で作成したガイドライン等で対処しております。
 このガイドラインにおきましては、調査実施国は、調査実施の六カ月前までに外交ルートを通じて我が国の同意を求めるとされています。そして、我が国の排他的経済水域において、我が国の同意がない海洋の科学的調査が行われた場合には、調査の中止を求めるなど必要な措置をとるとともに、調査実施国に対して外交ルートを通じた申し入れを行うこととなっております。(略)
【議事録抜粋終了】

 これだけを読むと、「別におかしくも何でもないではないか?」と思うでしょう。勿論、字面だけでは間違いではありません。ただ、意図的に隠している部分があるのです。

 それは、日本と中国との間には海洋の科学的調査については、岸田大臣が答弁したガイドラインとは別の枠組みが適用されることです。それは「海洋調査活動の相互事前通報の枠組みの実施のための口上書」というものでして、平成13年に日中間で交わされています。

 まず、強烈なのが、この口上書はウェブ上では一切公開されていないという事です(なので、何処からもリンクが張れません。)。なので、内容を知りようがないのです。しかし、この口上書は秘密文書ではありません。役所の文書管理のあり方として、極めて異常だと思います。何故、公開されないのかは、以下のような理由があります。

 上記の大臣答弁にある通り、本来は「①六カ月前までに」「②外交ルートを通じて我が国の同意を求める」という事が本来の国連海洋法条約の決まりでして、日本もそれに従ってガイドラインを作っています。

 しかし、日中間の口上書では、「①二か月前までに」、「②外交ルートを通じて通報する」なのです。期限は短いし、同意も求めなくていいのです。単に通報すればいいだけです。

 しかも、口上書では、中国が通報を行わなくてはならないのは「日本側が関心を有する水域である日本国の近海(領海を除く)において海洋の科学的調査活動を行う場合」であり、日本が通報を行わなくてはならないのは「中華人民共和国の近海(領海を除く)において海洋の科学的調査活動を行う場合」です。

 この違いが何を意味するのかは即座に判断が付きかねますが、日本は中国近海で科学的調査を行いたければすべからく通報、逆に、中国が日本近海で行う場合であっても日本が関心を有しない水域であれば通報は不要ということになることだけは確実です。

 なお、実質的とまでは言えませんが、結構な重要ポイントとして、この両国の口上書では「東シナ海」を「東海」と表記しています。中国側が日本に出す文書であればまだしも、日本側が中国に出している口上書にも「東海」です。「トンヘですか?」と嫌味の一つも言いたくなります。日本の法令用語で、あの海域を「東海」と呼ぶものは一つもありません。

 丸山議員が質問した「(問題のある海洋調査をしている)外国船」はほぼすべて中国の船のはずです。なのに、一般論である国連海洋法条約に基づくガイドラインだけを説明して、(きっと知られたくない)日中間に適用される「海洋調査活動の相互事前通報の枠組みの実施のための口上書」について一切触れないというのは、準虚偽答弁だと思いますね。

 今、外務委員会に居ないので岸田外相に質問できませんけど、何処かでは取り上げたいネタです。