フランスの地方議会選挙は、最終的には右派7地方、左派5地方、地方政党1地方(コルシカ)で決着しました。極右国民戦線は一つも取れませんでした。第一回投票が終わった時点で、私は「2つくらいは行くかもしれない」と思っていたのですが、見事に外してしまいました。

 まず、フランスの「地方」という概念から少し説明すると、とてもザックリ言うと「道州制」の「道州」だと思っていただければと思います。フランスの地方自治制度は三層構造。「市町村(commune)」、「県(departement)」、「地方(region)」です。ただ、市町村というのは、日本でイメージするものよりも小さいです。人数が100人以下の市町村などザラにあります。人口7000万弱のフランスで、市町村の数が35000くらいあるはずです。

 元々は市町村と県の二重構造だったのですが、地方分権の流れの中で大胆な権限委譲をしようということで、1982年ミッテラン政権下で自治体としての「地方」が作られました。

 それで地方分権が進んだかというと、ある程度は進んだとは言えます。ただ、中央集権の桎梏、国や県との権限の輻輳、「地方」という概念自体が中途半端(中央に対して独立性を持てるほど強くない地方が多い)といったことから、「地方」の創設についてはその評価は必ずしもポジティブなものではありません。最近、「地方」の数を24から13にまで減らしました。国に対峙できる強い組織を作りたいということなんだろうと思いますが、統合された「地方」側には今でもちょっと違和感を残しているところが多いです。

 「地方」のトップは「地方」議会議長であり行政権を持つということになっていますが、実態的には官選の地方知事が回している部分が多いです。フランスでは今でも官選の知事がおりまして、「地方」の知事は、その「地方」で最も有力な県の知事が兼任することが多いです。

 非常に雑にフランスの「地方」について述べた後、選挙制度についても一言。フランスでは、地方議会、市町村議会(若干規模によって違いがありますが)は名簿による比例選挙、県議会は小選挙区(ただし、男女1名ずつによるリストによる立候補)です。最近は、比例ですとリストの中で男女が交互に並ぶように義務付けたり、県議会ですと男女1名ずつからなるリストで小選挙区を戦うといったかたちで、パリテ(男女平等)をとても意識した選挙制度になっています。

 なお、「地方」の選挙方式については以下の通りです。

● リスト(政党)による比例代表制で二回投票制。
● 第一回目であるリストが過半数を取ったら、そのリストが勝ち。
● どのリストも過半数を取れない時は、得票率10%を超えるリストのみが第二回投票に進める。
● 第一回投票と第二回投票の間で、第一回で5%を超えたリスト間の統合という合従連衡が可能。
● 第二回投票では、過半数でなくてもトップの得票のリストの勝ち。
● 勝ったリストはまず全議席の1/4を自動的に取る。残りの3/4を比例で配分。

 分かっていただけると思いますが、この制度ですと第一党は極めて例外的なケース以外は必ず過半数の議席が取れます。そして、その第一党から選ばれる地方議会議長は連立を組む必要がありません。必ず地方議会を安定させ、行政権を持つ地方議会議長の足場を固めるということです。

 例えば、今回の地方議会議員選挙の具体例で見ると分かります。今回、ブルゴーニュ・フランシュ・コンテ地方での第二回投票は、左派34.7%、右派32.9%、極右32.4%の得票率でした。大激戦です。しかし、上記のルールで議席数の配分率をザッと計算したら、左派51%(25%+75%×0.347)、右派24.7%(75%×0.329)、極右24.3%(75%×0.324)の議席数になります。左派社会党から選ばれる議長は、34.7%の得票数で51%の議席という安定多数を地方議会で持てることになります。

 それを踏まえて、結果を見ていきたいと思います。

 第一回投票では極右国民戦線が得票率40%を超えたのは2地方、ノール・パ・ドゥ・カレ・ピカルディ(北部)、プロヴァンス・アルプ・コート・ダジュール(南部)です。私はこの2つの「地方」では最終的にも国民戦線が勝つだろうと思っていましたが、結果としては、第二回投票では左派がリストを取り下げたことにより、右派が勝利しました。この二回投票制は、第一回と第二回の間に合従連衡や辞退が生じて、こういう面白い結果を招くことになります。その他、第一回投票でかなり国民戦線が伸ばしたアルザス・シャンパーニュ・アルデンヌ・ロレーヌ(東部)も右派が勝っています。

 結果をザッと見た感想は以下のようなものです。

● 7地方を取った右派の勝利。第二回投票で一切の辞退や左派との妥協を探らなかったサルコジ党首の戦略は結果として当たった。ただ、結構競っている地域も多く、全国的な圧勝とまでは言えない。
● 5地方を取った左派は、事前予想に比べればかなり健闘した。
● 人口の多い地域は右派、田舎で左派というトレンドあり。
● 国民戦線は第一回投票から第二回投票にかけて殆ど伸びていない。地方によっては、得票率を若干落としている所すらある。

(なお、第一回と第二回の間に合従連衡があること、必ず安定多数を作り出せること、という所は日本の制度の中で学べる所はないかなとも思います。このような合従連衡がある場合、二大政党制を促す強い効果が働きます。)

 一般論として言うと、フランスにおいては、地方議会選挙と欧州議会選挙は普段の生活にあまり関係ないと見なされることが多いので「(その時々の政権に対する)おしおき票」、「(趣味に走る)面白半分票」が出やすいというのが歴史的な経緯としてあります。これはいつもそうです。なので、本音検知器としての地方議会、欧州議会選挙だと思っています。

 ただ、第二回投票を見ていると、フランス国民の判断は「おしおき票も第一回投票まで。地方議会議長を与えることまではしない。」という逆バネが働いたと見るのが正しいような気もします。もうちょっと言うと、「国民戦線に第一回投票で投票しない人は、そもそも絶対に国民戦線を選ばない人だ。」と言う事も出来ます。

 ただ、そこまで拒否感が強い中にあっても、地方によっては国民戦線の得票率が30%を超えている所が続出しています。県レベルで行くと、パ・ドゥ・カレ(北部)、ヴォクリューズ(南部)あたりはもう手が付けられないくらい国民戦線が強くなっています。相対的に貧しい地域が多いです。

 国民戦線が強くなっているのは、パリのテロ事件が勿論あります。実際にあの事件の後、今のヴァルス首相が取り入れた政策、例えば二重国籍者への対応、国境管理の強化、警察官の武器携帯の緩和はそもそも国民戦線が主張していたものです。そういう意味で、地方議会のような「おしおき票」、「面白半分票」が出やすい選挙では支持が伸びやすいということがあります。ただ、それよりも何よりも、国民戦線が伸ばしている最大の理由は経済的な苦境の捌け口だという視点は忘れてはなりません。ともかく捌け口が欲しい時に威勢のいい国民戦線のル・ペン党首の発言が魅力的に見えるのです。

 私には、何処まで行ってもスケープゴート(移民)と捌け口の先としての国民戦線でしかないと思います。具体的な何かを運営させても能力が無いような気がします。実際、欧州議会でも国民戦線は躍進していますが、欧州議会での国民戦線議員の議員としてのパフォーマンス、能力は著しく低いという記事を読んだことがあります。実際、そうなんだろうと思います。そう考えると、今回1つくらい何処かの「地方」でその運営をやらせてみればよかったと思わなくもありません(本当に望んでいるという事ではなく、国民戦線の能力を測るという意味において。ただ、「地方」の運営くらいではボロが出にくいのですが。)。

 なお、最後に国政との絡みを一言。地方議会選挙と国政と準えることは出来ませんが、フランス大統領選挙は第一回投票では得票率20%弱くらいで2位に入り込めます。次の大統領選挙では、国民戦線ル・ペン党首(今の党首の父)が第二回投票に残った2002年の激震の再来も大いにあり得るなとは思います。

 あれこれ長々と書きましたが、「まずは一息」、そんな所でしょうか。