内閣委員会でのTPP関係の質疑で、総論に続き農業について聞きました。このページで私の名前をクリックしていただき、21:45くらいからです。

○ 農林水産委員会の決議は、もう完全には守られていないという理解で良いか。
 TPPの交渉開始に際して、農林水産委員会で決議が出ています(ココ)。これが遵守できているか、という問いを最初にぶつけてみました。甘利大臣の苦悩の滲む答弁でして、「満点かどうかはともかくとして、合格点は取れている。」ということでした。「満点取れていない」という事を言外に臭わせる答弁でした。農林水産委員会でこれを言ったら、ドカンと行きそうです。

【答弁】
農水委員会の決議は、我々なりにはクリアするつもりで交渉をしています。その評価は、最終的に国会が、これでは自分としてはクリアしていないと思うとか、自分はこうしているとか、それはやはり最終結果を諮って判断していただくしかないと思います。
我々は、満点かどうかは別として、合格点はぎりぎりいただけるような交渉をしているというつもりであります。

○ コメの優遇枠をアメリカに出しているか。
 さすがにこれは「交渉中です」という答弁でした。

○ 現在の国家貿易でのコメの輸入の中でアメリカ枠は存在するか。
 現在、国家貿易でのミニマム・アクセス米輸入は玄米ベースで76.7万トンですが、この内、アメリカ産米のシェアは36万トンで非常に安定しています。これはアメリカに既得権か、と問いました。答えは「違います」でした。そう答えざるを得ないのです。

○ 国家貿易の枠を拡大して、その拡大分を特定国に提供することは国際条約との関係で可能か。
 アメリカへの優遇枠の出し方として、国家貿易の枠拡大という手法があります。76.7万トンの数量を拡大して、その拡大分は米豪に提供することということです。しかし、国家貿易の枠内管理はGATT17条によって商業的考慮のみに基づき、無差別原則だということになっています。無差別原則なのに、特定の国を優遇するというのは語義矛盾です。

 私はこの質問で国家貿易の拡大+拡大分の優遇枠での提供の可能性を塞ごうとしたのですが、なかなか答えたがりませんでしたね。交渉上、その可能性を残したいという感じを受けました。

○ 国家貿易のSBS輸入枠を拡大するとアメリカ産米の輸入は増えるか。
 これはかなりテクニカルですが、ミニマムアクセス米の国家貿易輸入について、SBS輸入という仕組みがあります。これは国が一元輸入するという体裁は維持しつつ、限りなく市場メカニズムを取り入れたものと理解していただいて結構です。今は76.7万トンの内、10万トンをそこに割いています。

 それを拡大すれば、「結果として」アメリカ産米の輸入が増えるという事を検討しているかのような報道がありました。そこを聞いてみましたが、これも答えがありませんでした。ただ、現行のSBS輸入元で多いのはアメリカ、オーストラリアという答弁でしたので、やはりそういう検討をしたくなる動機が働いていると思います。

○ バター
 ここ数年、バターの品薄がよく生じます。本来、制度で認められているカレントアクセス枠を超えた追加輸入が恒常化しています。「足らない」ということは何処かに制度的な瑕疵があるのではないかと思われるわけです。日本の乳製品の生産、輸入制度は非常にガチガチでして、少し判断を誤るとすぐに足らなくなってしまいます。それをきちんと見極めないと、NZからの要求に適切に対応できないのではないかという問題意識もあります。

 答えは「天候」に左右されているということだけでした。ちょっと違うと思うんですけどね。追加輸入が恒常化している以上、その枠分はそもそも制度的に「足らない」ということだと思うのです。

【答弁(農林水産副大臣)】
バターの件でございますが、私もスーパーに行って、本当にお一人様一個限りというふうなところを見させていただいているところでございます、バターや脱脂粉乳はさまざまな食品に利用されます。そうした一方で、需給が緩和した場合には在庫としての保存が可能なものでもございます。我が国の生乳の需給の安定を図る上において、ここは重要な役割を果たしているものでもございます。
我が国の生乳の需給に関しましては、天候の変更、これは特に夏の暑さでございますね、今も暑うございますが、これに大きく影響を受けるところでございまして、バターや脱脂粉乳が無秩序に輸入されますと、牛乳も含めました乳製品全体の国内需要に非常に影響が大きいところでございます。
このため、国内への影響を最小限にするように、国家貿易により輸入を行っているところでございまして、平成二十六年、また二十七年度におきまして、生乳の生産量の減少に伴いましてバターの生産量が減少しておりまして、また、ウルグアイ・ラウンドの合意で定められたカレントアクセス、これによります輸入数量を勘案した上でも、国内でバターや脱脂粉乳が不足しておりまして、さらに輸入が必要と判断されましたので、追加輸入を実施してこの需給の安定を図ったところでございます。
特に、なお、国家貿易におけるカレントアクセスによる輸入数量は、生乳換算で十三・七万トンでございますが、昭和六十一年度から昭和六十三年までの三年間の輸入実績をもとに定められたものでもございます。
今後とも需給の状況を注視しながら、国家貿易を適切に運用してまいりまして、生乳と乳製品の安定供給に努めてまいります。

○ 豚肉
 豚肉は差額関税制度という極めて特殊な輸入形態をとっておりまして、一定の基準価格と輸入価格の差額を全部関税として持って行くということになっています。これが問題が多くて、脱税の温床になっています。どんなに価格努力をしても、一定の基準価格との差額は全部持って行かれるわけですから実勢よりも輸入価格を高く申告して、その間の分を全部ポケットに入れる動機が働きます。よく脱税事件が摘発されています。

 今回の交渉でも、この差額関税制度そのものは残すかのような報道がなされています。何故、そんなことをするのか、普通の関税の課し方でいいではないか、と問いましたが、大した答弁はありませんでした。

 多分、「差額関税制度を残した」という点を国内的にアピールするためにやっているのでしょう。それ自体、あまり意味のある事とは思えません。私は日本の美味しい豚肉を守っていくことについては思いがあります。しかし、だからといってその手法が脱税を誘発するような差額関税制度でなくてはならないとは全く思いません。

 私自身は農業を主たる産業としている地域の選出ではありません。ただ、外務省時代にWTO農業交渉を担当していた身として、とてもとても拘りがあります。今回は取り上げませんでしたが、牛肉等についても色々と聞きたいことがあります。今後、まだまだ取り上げていきます。