8月7日、内閣委員会で1時間の質問の機会があり、甘利TPP担当相とやり取りしました。本来、この手の条約関係は外務委員会となるのが通例ですが、TPPについては担当相が内閣府の甘利大臣という事から、委員会が内閣委になります。内閣委というのは、PFI、警察関係、マイナンバー、女性活躍、風営法、公務員制度改革・・・、もう何でもありでして、ここでTPPとはどうもしっくり来ないのですが仕方ありません。

 交渉中なので、その内容については答えられないという答弁が返ってくるのは分かっているので、どうしても手探りでの質問にならざるを得ません。ただ、それなりに面白い答弁も返ってきていますので、何回かに分けてご紹介いたします。

 まずは、総論からです(質疑スタートから暫くの部分です。このページの緒方の部分をクリックください。)。

○ 誰のせいで閣僚会議は失敗したのか。
 簡単に言えば、(アメリカが)閣僚会合で押し切ろうとしたけど、事前の問題整理が十分でなかったということです。今後、再度閣僚会合をやるためには事務レベルで相当なさばきをやらないといけないことを示唆しています。次の閣僚会合までには、少し時間が掛かるのではないかなと思いました。

【答弁】
・・・閣僚折衝にまで持っていく前に前さばきがあります。前さばきがきちんとできていなかったなという感じがいたしました。幾つかの問題が残りましたけれども、それは、もう大臣会合の前にもっとこの辺まで詰めておくべきことじゃなかったのか、つまり、それが詰め終わった後に日程設定がなされるべきじゃなかったのかなというふうに思っています。

○ 現時点まででバランスの取れた結果になっているか。
 甘利大臣はかなり正直に答えています。「当たり前」と言えば当たり前ですが、現時点でここまで正直に答えるのも珍しいです。農林水産委員会ではこの答弁では批判が出るでしょう。

 要するに「市場アクセス全体では工業品でかなり取れている。ただ、農業ではかなり守勢。全体で見ればバランスは取れている。」、そういう趣旨です。

【答弁】
分野を限って、その分野ごとにバランスがとれているかということはいろいろ議論があろうかと思います。
全体として、日本は、少なくとも工業製品では攻めているわけであります。各国の工業の関税をゼロにしろという要求をしているわけです。これはかなり進展しつつあります。一方で、農業については、日本は恐らく農産品に対する関税を高くかけている方の国だというふうに思います。よその国からは、農産品の関税をゼロにしろという要求が来ているわけでありす。我々は、それはできませんよ、できない理由はこうですということを提示しながらやっていますから、特定の分野だけで出入りがどうかというといろいろあると思いますが、物品の市場アクセスについても、バランスは全体としてはとれているのではないかというふうに思います。
ただ、農産品だけに限ってどうだと言われますと、それは当然、日本が、攻めていく分野は弱いですから、これからやろうとしているわけですから、守っている方が多いですから、相手からすればガードを下げた、あるいは外したという方が、こっちが相手のガードをなくしたというよりは多いという主張があるかもしれません。

○ 今後、TPPは現在交渉に入っていない国が入って来たくなるようなものになっているか。
 私は「現在、漏れ聞こえてくる内容では、他国が経済的利益を目的に入って来たくなるようなものになっていないのではないか。」という気がするわけです。ハワイでもあったようなアメリカの業界団体のごり押しを見ていると、どうもそんな気がするわけですけど、甘利大臣はここは非常に強気でした。

【答弁】
今の加盟国でも、経済規模が四〇%とか言われているわけですね。もう既に入れてほしいという具体的な意思表示をしている国もあります。それがかなり連鎖をしていくと思います。
そうしますと、これは、最初に入っていてルールメークに参加している国と、そのルールに賛同して、サインをして入ってくる国と、やはり最初から入っている方がいいと思います。しかし、では、後から入るから魅力がないかといえば、そのシェアがどんどん膨らんでいく中で、参加していかないとその付加価値創造システムの中に入っていけないということになりますから、これは、その規模が大きくなればなるほど、やはり入っていかざるを得なくなるんじゃないかというふうに思います。

○ 閣僚会合がダメだった以上、一度、交渉戦略全体を見直すべきではないか。
 日本が妥結を急いだ原因の一つとして、「TPPは今年の臨時国会で通過させたい」という思いがあったと思います。来年は参議院選挙がありますから、TPP審議を来年の参議院選挙前にはやりたくないという思いがあったでしょう。

 しかし、その可能性は事実上なくなりました。アメリカ議会の「署名90日前議会通告」の要件も念頭に置くと、11月18-19日のAPEC首脳会合での署名はもう無理です。となると、日本は国会との関係では来年の4月以降の審議になります。少し日本は国内政治日程との関係でゆとりが出ます。逆にTPPを政権のレガシーにしたいオバマ政権の方が日程的に苦しくなっていきます。

 また、カナダは既に議会が解散され、総選挙まっしぐらです。カナダが抱えている課題の一つに乳製品輸入があります。これは(分離独立運動をやったこともある)東部フランス語圏のケベックが正に影響されます。ケベックでの選挙の事を考えると、現在、乳製品生産、輸入を厳格に管理している供給管理制度で到底譲歩できるような環境にはありません。

 そうやって考えると、TPPの中での利益の出し入れ、他の通商交渉との関係等、交渉戦略全体の見直しをやってはどうかと聞きました。甘利大臣の感じは「今、オバマ政権がやる気になっておりモメンタムがある。これを妥結に繋げないと、萎んでしまったらまた立ち上げるのは至難の業。」と要約できると思います。

【答弁】
私が、各国事情を勘案しながら、時期は切られていると申し上げたのは、これは幾つかの理由があります。
一つは、アメリカの政治日程。これは、なぜTPPが進み出したかというと、オバマ大統領が自身のレガシーにするという決断をしたときからです。交渉をやっていまして、何でこんなに進まないんだといういら立ちがありましたけれども、要するに、ホワイトハウスが本気になったときから動き出したんです。
それが、その政治日程が、次の大統領選の予備選が本格的にスタートして、そっちに気をとられてそれどころじゃないということになりますと、漂流をします。アメリカは、御案内のとおり、新しい政権ができるその前とできた後しばらくの間はほとんど重要なことが機能しないという部分があります、人が全部配置できていないとか。そうしますと、年単位でそれが漂流をしてしまいますと、モチベーションが途切れちゃって、それから巻き返すのにまた相当時間がかかるということになります。そうすると、みんな気持ちがなえてしまうと、やり直さなくちゃならないということになるわけですね。そうすると、またそこまで持っていくのに相当時間がかかるから漂流する危険性があるということを考えていたわけであります。
カナダも、十月の十六日ですか、選挙があります。政権がかわったらこれはどうなるんだ、そういう要素もありますから、各国事情を見ながら、おのずと尻尾は切った方がいいなと。もうこれから先というのはなかなか難しくなるぞという警告を発していないと、やはりみんながその気持ちにならないんですね。全ての国がこの会合でまとめるという気持ちを持って参加しないと、間合いというのは縮んでいかないんです。
それから、その蒸し返し論は、この交渉の中で、我々は、リオープンはだめだぞと言いながら迫っているわけです。議会からこう言われたからちょっと考え直してよと、これを全部聞いていたらもう交渉というのは全部雲散霧消してしまいます。
一度こういう方向でいこうよと詰めてきたらそれから拡散することはない、少なくともそこからまた始まるということを交渉事でやっていかないとリオープンは絶対認めぬぞということを厳しく迫らないと交渉というのはまとまりません。

 内閣委員会という場だからかもしれません、総じて、踏み込んでいると思いますね。