TPP交渉関係で、コメの輸入枠をどう考えているかを確認する観点から、質問主意書を出しました。

【質問】
GATT第十七条に従って運営される国家貿易による輸入に関し、以下の通り質問する。
その輸入の一部を、特定の国を優遇するかたち(低関税の関税割当、輸入後の低国内課徴金等)で運営することは、GATT第十七条との関係で可能か。
右質問する。

【答弁】
お尋ねの「輸入の一部を、特定の国を優遇するかたち(低関税の関税割当、輸入後の低国内課徴金等)で運営すること」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないため、一概にお答えすることは困難であるが、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(平成六年条約第十五号)附属書一Aの千九百九十四年の関税及び貿易に関する一般協定(以下「協定」という。)第十七条は、各締約国が、輸入又は輸出のいずれかを伴う購入又は販売に際し、その設立する国家企業を、協定に定める無差別待遇の一般原則に合致する方法で行動させることを約束する旨を定めており、政府としては、国家貿易の運用に当たっては、同条の規定を含む協定との整合性を確保する必要があると考えている。

【解説】
 今、コメの輸入は国家貿易で行われています。農林水産省による一元輸入というかたちを取りながら、玄米ベースで76.7万トンのミニマム・アクセス輸入が行われています。

 どうも報道を見ていると、この国家貿易枠を拡大した上で、その拡大分をアメリカ優遇枠とするのではないかという懸念がありました。質問はそんなことをやったら、WTO協定違反ですよね、ということを聞いています。

 答えは微妙です。ただ、国家貿易は無差別待遇で運営しなくてはならないと書いてありますので、特定の国(アメリカ)を優遇するような枠の作り方は出来ない、と言っていると理解していいでしょう。

(実は答弁で、国家貿易は「商業的考慮」のみに基づかなくてはならないというGATT第17条の規定に言及していません。多分、意図的に言及していないのだと思います。こちらも本当はとても重要なのですが、政府的には言及するのが痛いのでしょう。)

 しかし、報道を見る限りは日本は対アメリカで何らかの優遇を考えているようですから、そこであり得る可能性としては、今やっている国家貿易の枠外で新枠を設けるか、国家貿易の枠内でやって無差別原則を貫きつつも、結果としてアメリカ優遇とするかだと思います。

 ここからは技術的ですが、前者ですと輸入数量を確約できません(国家貿易のように全量輸入しないので)、後者ですと、市場メカニズムを相当に取り入れたSBS方式の拡大でしょう。現在、SBS方式で10万トン輸入しておりアメリカ産が多いですので、この枠を拡大すれば、「事実上」アメリカ枠を拡大ということになります。

 しかし、いずれの解決策にせよ、この構造全体が「そもそも自由貿易なのか?」、「SBS方式を拡大すればアメリカ産が増えるという事は、そもそも現在の輸入が『商業的考慮』に基づいていないのではないか?無差別原則で行われていないのではないか?」、まあ、色々な疑問はあります。

 分かりにくいでしょうが、上記答弁でTPP交渉のコメ部分で「国家貿易枠の中にアメリカ優遇枠を入れることはしない」という重要な表明がなされています。

 もうWTO担当を離れて11年になります。昔取った杵柄みたいなもんです。