改正PKOについては、自衛官個人のリスクという観点からは、現実的に最も危ないものが含まれていると思っています。国会で全く質問出来なかったのが、最も心残りなテーマです。反省しています。

 まず、現在のPKOは① 国連(総会又は安保理)の決議による国連平和維持活動、② 国連(総会、安保理、経社理)の決議又は人道的活動に従事する国際機関の要請による人道的な国際救援活動、③ 国連(総会、安保理)の決議又は国際的な選挙監視の活動の実績等を有する地域的機関等の要請による国際的な選挙監視活動が認められています。

 今回、国連が統括しない人道復興支援や安全確保等の活動も認めることにしています。これについては、国連の決議、国際機関の要請、当該国の要請等の要件が掛かっています。政令に落としているところがあるのが気になります。ここで言う国際機関にNATOは入るのかなとか、思いを巡らせれば色々な事が連想できます。ともかく、要請の元となる国際機関の定義に「政令で定める」とあるのは、究極、その時々で政府が決めることが出来るという事ではありますので、今想定していない国際機関でも閣議決定さえすれば入ってくることになります。

 ただ、それよりも何よりも、今回の改正PKO法で気になるのが、国連PKOであれ、国連の統括しない平和安全活動であれ、「安全確保業務」が入ってきていることです。改正法には「防護を必要とする住民、被災民その他の者の生命、身体及び財産に対する危害の防止及び抑止その他特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護」となっています。

 このPKOについては、衆議院参考人質疑での伊勢崎さんの発言がとても示唆的です。冒頭陳述は頷かされる部分ばかりです。是非見てください(ココ、Windows MediaPlayer)。そして、もう少し砕けた伊勢崎さんのこのインタビューも印象的です()。実際の経験に基づくだけに、この伊勢崎さんの発言に抗することが出来る人はいないでしょう。

 これは安全確保業務よりも危険度が低いと見なされているDDR(Disarm, Demobilise, Reintegrateです。Dance Dance Revolutionではありません。)です。非常に雑に言うと、つい最近まで紛争をやっていたところで、元兵士に武器出せ、武装集団から離れろ、畑を用意してやるからそこで働け、とやるわけです。

 私の個人的経験でDDRの対象となっている元兵士に2度お会いしたことがあります。西アフリカのマリ共和国でのトゥアレグ族と、中央アジア・タジキスタン共和国でのムジャヒディーンです。率直な感想を言えば、つい最近まで戦争をしていた方々ですから、その目付きが怖いのです。あんな目付きをした人にあった事はそれ以降ありません。気の弱い私は、あれらの方々に「持っている武器を出せ」と言えないでしょう。また、直感的に「経済情勢が悪くなったら、また100ドルくらいで武装集団に戻っていくんじゃないか?」と思いました。

 安全確保業務はそれ以上に危険なミッションです。昨年7/1の閣議決定では治安維持まで踏み込んでいましたが、いわゆる治安維持のミッションから純然たる警察的業務を落としたかたちで安全確保業務としています。しかし、「防護を必要とする住民、被災民その他の者の生命、身体及び財産に対する危害の防止及び抑止その他特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護」はやるのです。

 そもそも論として、PKO五原則の紛争当事者間で停戦合意があること、すべての紛争当事者が受け入れに合意していること(そして、それが安定的に保たれていること)なんてのは、安全であることを担保しません。最近、国連のPKO改革のレポートを読みましたが、「維持すべき平和がほとんど存在しない状態でのミッションもかなりある(ので、もっとミッションを絞り込んでほしい)。」といった表現がありました。私も同感です。紛争当事者とは言えないけれども、よく正体のわからない武装集団があちこちにいるような状態でのPKOは、現時点では決して稀な事ではありません。

 今年の初め頃、第一次アフガン戦争(ソ連の介入)をソ連側から見た「Afgantsy」という本(邦訳)を読みました。そこには、巡回活動をしていたソ連軍のことが書かれていました。のどかなアフガニスタンの村にソ連軍が巡回に行ったら、村総出で大歓迎、しかし、実は村は武装勢力と繋がっていて、帰り道でソ連軍は待ち伏せされて全滅、そんなくだりがありました。もう30年前の話ですけども、そのメンタリティは変わっていません。軍服を着た勢力がやってくれば、PKOであろうが、国連決議があろうが、それを「占領軍」として快く思わない地域というのは、この世の中にたくさんあります(なお、誤解が無いように言いますが、PKOとソ連軍を同一視しているわけではありません。)。

 しかも、現代においては、爆破装置が精巧化しています。アフガニスタンにせよ、イラクにせよ、米兵が一番亡くなっているのは、この手の治安維持活動でIED(Improvised Explosive Devices)といわれる即席の爆破装置です。近年、携帯電話等と連結するかたちで簡単に遠くから適時に爆破をすることが出来るようになってきています()。命を落とす、命に別状はなかったけど衝撃で脳に障害を負う、そんな症例が米軍の中でたくさん報告されています。

 また、第二次アフガン戦争後のISAFに派遣されたデンマーク軍の経験を撮影した映画「アルマジロ」については、最近少し有名になってきていますが、あれもとても示唆的です(ココ)。誰が撃っているのか分からないけど、たしかに銃撃戦を仕掛けられている姿がリアルに取り上げられています。治安維持業務だと思って行ってみたら、そこは完全に戦場だったということです。なお、今回の法律によれば、ISAFは(派遣五原則との関係はあるものの)対象に入り得るように思えます。

 あまり元同僚を批判したくはないのですが、本件については法案作成をした方々に経験と想像力が少し欠けているのではないかなという気がします。外務省で言えば超エース級の方々が法案作成をしています。それらの方々は、ヤバそうな場所の経験が少ないのではないかと思うわけです。アフリカ勤務など経験のない方が考える現場感の無さを法案や答弁の中に散見します。

 今回の法制全体には色々なものが盛り込まれていますが、最も直近で自衛官の身に危険が生じそうなのがこの改正PKO法での安全確保業務です。それに応じて、駆けつけ警護(武器装用権限の拡大)が認められてはいますが、それは自衛官の安全を確保するために十分かと言われると、とてもそうは思えません。

 勿論、それが日本の国際貢献にとって必要なのであれば、自衛官に対する高いリスクを認めた上できちんと国民に真正面から説明すべきです。「安全確保業務であって、治安維持ではありません」、「相手を殲滅したり、特定の地域を占領したりすることはありません」、「駆けつけ警護を認めています」、そういう答弁だけで理解を求めようとしてはいけません。