西アフリカにベナンという国があります。日本とは縁遠いのですが、比較的よく知られているとすると駐日大使がゾマホンさんということがあります。

 大統領はボニ・ヤイ、2006年に大統領になっていますから、そろそろ2期10年です。先日、国民議会議員選挙がありました。ヤイ大統領が出身の大統領与党は第一党は確保しましたが、83議席中32議席でした。過半数が取れていないので、首相指名については連立を組まなくてはなりません。これ自体、アフリカではとても珍しいことです。

 色々な事情があるのですが、どうもヤイ大統領が「(現在禁じられている)3選を可能とする憲法改正を行おうとしているのではないか」という憶測があり、それに対するベナン国民の警戒、反発みたいなものがこの得票に影響していると言えるかもしれません(ヤイ大統領は、そんなことは考えていないと言っていますが。)。正しい意味での、チェック機能としての民主主義がベナンにはあると思います。

 元々ベナンという国は、冷戦時代は共産圏寄りでマティウ・ケレクー大統領による長期独裁でした。冷戦崩壊時(1991年)にケレクー大統領は選挙で敗北。しかし、勝ったソグロ大統領は何かと評判が悪く(夫人の評判が悪かったことを記憶しています)、1996年大統領選挙ではケレクーが返り咲きます。

 5年の野党生活を経て返り咲いたケレクー大統領は共産主義とは手を切り、色々あったけども手堅く2期10年の任期を終えます。2006年の時点で、ケレクーは憲法の3選禁止規定に従い、かつ、ライバルのソグロも70歳以上は大統領選挙に出られないという憲法規定に従い、お互いが大統領選挙に出ませんでした。ともすれば、アフリカではこういうのは反故になりがちなのですが、この点も評価材料です。

 そして、今のヤイ大統領となり、同じく手堅くそろそろ2期10年。冷戦崩壊後、ここまで25年、クーデター無しです。西アフリカでこの25年、長期独裁とならず、選挙がきちんと行われ、その結果としてクーデターが無かったのは、セネガル、ガーナ、ベナンくらいです(東や南に行けば他にもタンザニア等がありますが、私があまり詳しくないのです。)。大統領与党が議会で過半数を取れない国となると、ベナンくらいです。

 ずっと、この20年くらい西アフリカや中部アフリカ各国の内政をポツポツとフォローしてきましたが、その歩みに段々と差がついてきたように思います。本来兄貴分であるはずのコートジボアールが10年強の内戦に陥った、新生アフリカの星だったブルキナ・ファソのコンパオレ大統領が長期政権の結果放逐された、民主主義のモデルとも言われたマリがイスラム主義者に揺さぶられて軍のクーデターとなった、色々な事情があります。それと相まって、長期政権のしがらみから抜け出せない国が際立ってきています。

 ここ数年のトレンドとして強まっているように見えるのが、「長期政権を目指すための憲法改正」でコケる大統領が増えていることです。ニジェールのタンジャ大統領、ブルキナ・ファソのコンパオレ大統領が典型でして、憲法改正で長期政権を目指そうとする動きが国民や軍に嫌われてしまい、ネットを通じて、民衆の大きなムーヴメントに繋がっています。ネット社会の広がりはアフリカ政治にも確実に影響を与えていると痛感させられます。

 こうやって見ていくと、アフリカの国を見ていく指標として「2期10年で大統領が交替していく」というのが良いのではないかと思うようになりました。そうやって回って行っている国はガバナンスが利いているということで、援助等で優遇してあげるべきだと思います。

 ただですね、簡単に「2期10年で交替」してくれない大統領もいます。10年くらいになってくると、どうしても一族を中心とする利権の構造が出来上がっていきます。これが難しいのです。セネガルでワッド前大統領の息子のカリム・ワッドの不正蓄財が現在大問題になっていることが典型的な例です。

 あえて一つ提案できるものがあるとすると、「2期10年で退任した大統領には、その後きちんとした役割を与える」ということかな、と思います。セネガル大統領を(選挙に負けて)退任したディウフはフランス語圏国際機構の事務局長、マリ大統領を10年で退任したコナレはアフリカ連合の事務局長、ガーナ大統領のローリングスはアフリカ連合のソマリア担当特使、南ア大統領のムベキは(選挙に負けて)退任後、ソマリア、コートジボアール等で仲裁役、色々とやり方があります。

 アフリカには長老政治の文化があり、内戦、紛争があると、そういう大統領経験者が間に入って、旧知の間柄から「おまえら、程々にしておけ」と仲裁に入ることが結構な効果を示すことがあります。そういう起用の仕方をすることで然るべき役割を果たしてもらうというのはとても良いことです。システム化することは出来ませんが、国際社会が意識しながらそういうふうに誘導できないかなといつも思っています。今年で退任となるタンザニアのキクウェテ大統領等は絶対にそういう起用をすべき人物です(私の一押しです。)。

 色々と雑多なことを書きましたけど、長年のアフリカ・ウォッチャーとしての思いを書きました。あまり日本に関係のない話ですけども、いつか外務委員会で聞いてみたいと思っています。