会計検査院が、「水産庁所管の」水産関連の政府開発援助について、検査報告を出していました(ココ)。報道されていますが()、機材等を供与したらすぐに使われなくなったといったヒドいケースがかなりあるようです。しかも、2008年にも会計検査院にやられているのですが(ココの事例28、29)、改善された感じが全然しません。

 事業を引き受けているのは、公益財団法人海外漁業協力財団。想像に難くありませんが、いわゆる天下り財団です(ココ)。そして、事業の大半は水産庁からの補助、委託等です(ココ)。国民の皆様から見て、色々な意味で「典型的な」団体です。

 なお、冒頭で「水産庁所管の」とわざわざ書きました。水産関係の援助には、この他に「外務省所管の」政府開発援助があります。いわゆる「水産無償」というやつです。昭和40年代後半くらいだったと思いますが、水産だけ特別に無償資金協力の特別枠が設けられたのです。入漁している地域への支援、捕鯨問題でのお仲間集め、色々な観点からこの水産分野というのが、日本の政府開発援助では特別な地位を与えられています。特定の業態についてこういう特別枠があるのは、(考え方にもよりますが)水産くらいじゃないかなと思います。

 何となく、無償資金協力援助の中でも「特別会計」的な扱いになっておりまして、外務省の担当は水産庁からの出向者ですし、外務省予算でありながら水産庁がかなりのグリップを握っています。外務省の方は言いにくいでしょうから、既に辞めた私が言いますけど、外務省は本心では水産無償という枠組みそのものを止めたがっています(別に入漁地域への支援とかを軽んじているわけではなく、特別枠化していることをとても、とても嫌がっています。)。

(私がセネガル在勤時の経験をココに書いています。個人的に「水産無償」にはとても、とても悪印象を持っています。明らかに「(これは外務省予算といえども俺達の縄張りだ、という)特別会計意識」を感じましたし、従えているコンサルの方への水産庁責任者の威張り方等、何一つ良い印象がありません。)

 そういう若干の個人的感情混じりのことはともかくとして、何故、このような無駄遣いが生じるのかということを考えてみたいと思います。まず、供与した機材が使われていないというのは、「そこに需要がない」からです。では、何故需要がないものを供与するのかというと、「需要の無いものでも供与するだけの予算」があるからです。そして、「需要がないところに無理をして需要を見つけようとしている」からです。それだけのことです、難しくもなんともありません。

 予算が確保され、(水産庁所管分については)それを受ける天下り団体があれば、ともかく何処かに援助案件を作らなくてはいけません。勿論、入漁に対する対価、捕鯨問題等での支援確保みたいな動機を踏まえてやっているのでしょうが、だからといって需要の無いところまで援助をしていいわけではありません。

 こういうことについて、私は現職時代、質問をしたことがあります(水産無償についてではないですが)。少し長いですが引用します。

【衆議院決算行政監視委員会第一分科会(平成22年05月18日)】
○緒方分科員 そして、武正副大臣、テーマをかえまして経済協力の話ですが、決算委員会ということで、少しお金の使い道で、一般無償資金協力が一番典型的なケースだと思いますけれども、日本の経済協力というのは要請主義が大前提で、相手の国から、こんなものをつくりたい、こんなことをしてほしいというのが上がってくることが大前提だ。
 しかも、一般無償資金協力においては、タイドということで、その事業をとるのは日本の業者ということがもう明確になっている中で、さあ、ここまでであれば非常に美しい姿なんですけれども、相手が事実上要請を自分でつくる力がない、少なくとも日本として満足するような要請書のスタイル、見積もりもしっかりとる、こういったことをこういうふうにやっていく、全部プロジェクトとしてばちんと固めたものを要請として出してくることがなかなか難しい国というのがございます。
 私も、かつて途上国勤務がございます。アフリカの、それこそLLDCみたいな国に行くと、到底、日本のJICAや外務省が満足するような形で要請書を出してくることができない。
 では、そういったときにだれが書いているのか。実態として、日本の業者さんが書いていたりするケースが物すごく多いです。というか、大半がそうでしょう。そうでないことができる国というのは相当に力のある国です。例えば中国とか、途上国の中でもかなり能力の高い国だというふうに言っていいと思います。
 そういう中において、では、何が起こっているかというと、これはいびつなんですけれども、日本が援助を供与するにもかかわらず、日本の業者が相手国の大臣のところに行って、おたくの国のプロジェクトとしてこれを出してくださいとお願いに行く。あなたのサインをつけて、あなたのオーソライゼーションをもって、この書類をあなたの国の書類として日本の大使館に出してあげてくださいというようなことが行われています。行われていますと言うと怒られますけれども、行われているだろうというふうに巷間言われています。
 そうすると何が起こるかというと、相手の国のお偉い方からは、出してほしければちょっと勉強しろというようなことというのが、最近も業者の方からヒアリングをすると、いまだにそういうことがあるんです、何で日本が援助を供与しているのに、我々がそんな不正に巻き込まれなきゃいけないんですかというようなことがございます。
 これは、表向きに見るところでは、外務省が見るところというのは、そういう事前の、裏のところではなくて、要請書が出てきて、そこで判断するという、一番建前のところでいうとそうですね。
 ただ、その立場でいくと、それの前にある、今言ったような裏のごちゃごちゃした話というのは我関せずというような立場になるのかもしれませんけれども、これは日本の税金です。そういった業者が不正に巻き込まれて出ていくお金というのも、全部日本の税金が原資であります。
 こういったものを絶対に見直すべきだと私は思います。表面的な要請主義というのをやり続けると、日本のODAがどんどん不正の温床を招いていくことになりかねないというふうに思うわけですが、副大臣、いかがでしょうか。

○武正副大臣 緒方委員から、巷間言われているということで御指摘がございました。
 そういった事実があるということを外務省として一々承知はしていないというのが回答でありますが、そういったことが言われているとすれば、やはりそういう可能性は未然に防がなければならないというふうに思っております。
 今、そうした途上国の要請という仕組み、これが一つあるにせよ、それぞれの途上国のそうした書類作成など、あるいは案件を要請するための能力、これは、日本のODAとして、それぞれの国のキャパシティービルディングということで、さまざま、国をガバナンスする能力の向上といったことにも相通ずるわけでありますから、日本が目指すものは、やはりみずからの国はみずからが統治するといったところにつながっていくというふうに思っております。
 また、やはり不正防止という観点からは、特にPCI事件などを契機として、ベトナムはみずから国際条約に加盟をしておりますが、過日、日本からのベトナムあるいはカンボジアへの投資協定には不正防止条項を設けております。
 こうして、やはり国際約束の中でもきちっと条項化していくということも必要だと思いますし、また、ENの署名時において、これまでは不正情報があれば提供してくれということを約束しておりましたが、今回は、情報提供について、その情報提供者を保護することを義務づけるということも昨年度から始めております。
 こうした点も踏まえて、今のようなことが巷間言われないように、未然に防止するように、しっかりと取り組んでいきたいというふうに思っております。

○緒方分科員 外務省側から、事務方から、そういった事実はない、少なくとも聞いていないというお話でありましたが、余り私の例を言ってはいけませんけれども、私はセネガルにいたころに、すべての要請書を見て、ここは何々商事、ここは何々物産と、もう案件も全部知っていましたよ。事務方からそういう情報が上がってきているというのは、これは大きなうそですよ。絶対うそだと思います。事務方は絶対知っているんです。巷間こういうことが行われているという事実も、これは大使館の書記官を経験した人間であれば、途上国の大使館を経験した人間であれば、それは裏でいろいろ動いているというのは知っているんです。知っているんだけれども、なかなか国会答弁でそこまで、知っていますと言いにくいからということなんだと思います。
 けれども、そういう今のこの体制、今のこのやり方が、そういう私が言ったようなケースの不正を助長するような可能性があるというふうにお考えですか、副大臣。

○武正副大臣 先ほどお答えしたのは、一々承知していない、一つ一つを承知していないということをお答えしたのと、それから、巷間言われるということがあるということであれば、やはりそれについて未然の防止措置を組むべきであるというふうにお答えをしたとおりでございます。
【引用終わり】

 与党でなければもっとガツンガツンやったのでしょうけども、どうもやりにくかったですし、政府側答弁も残念なレベルに留まりました。

 それはともかくとして、水産無償の場合は、ここで質問している「業者」に当たるのが水産庁と関連する業者になります。案件を作るメカニズム自体はとても似ていると思います(「袖の下」が絡むかどうかはともかくとして。)。そして、そこに無理が生じて、結果として需要の無いところに需要を掘り起こしてしまい、今回のような事例になるわけです。しかも、実際の事業を受注している業者、コンサルは(当然のように)かなりの偏りがあります。

 水産庁所管分だけで、もう2回目の会計検査院報告です。外務省の水産無償でも、結構「?」という案件はあります(少なくとも15年前にセネガル在勤時に目にしました。今も変わってないのではないかと思います。)。政策目標そのものを否定するつもりはないのですけども、変な「聖域化」したかたちで、水産業、海外漁業協力財団、関連する業者の中でぐるぐるこの水産関係の政府開発援助を回すのは止めにした方がいいと思います。

 個人的感情、少し古い経験をベースにしているので、若干の偏りがあるエントリーになりました。お詫び申し上げます。