いや、これは面白い、オランド・フランス大統領の私生活をめぐるゴタゴタです。そんじょそこらのドラマなど全く敵わないくらいのドタバタぶりです。

 元々、オランド氏は、2007年大統領選挙社会党候補のセゴレーヌ・ロワイヤル現環境相とパートナー関係に長らくありました(子供が3人)。その後、ロワイヤル氏と別離の後、雑誌記者のヴァレリー・トリエルヴェレール女史とパートナー関係にありました。なお、ロワイヤル・トリエルヴェレールの関係は極めて悪かったです。地方自治体選挙で、トリエルヴェレール(既にファーストレディー)がロワイヤルの対立候補を支持するツィートをして、その選挙ではロワイヤルが負けたということもありました。

 そんな中、今年1月、ゴシップ雑誌の「Closer」がオランド大統領と女優ジュリー・ガイエさんとの関係をすっぱ抜きます(表紙はココ)。夜の街をスクーターに二人乗りで、ガイエさんとの逢瀬に向かう写真がドカーンと出たわけですけど、国連常任理事国の大統領のやることかいな、セキュリティもへったくれもない、と思ったものです。

 その数日後、オランド大統領とトリエルヴェレール女史のパートナー関係は終焉します。そして、数日前にトリエルヴェレール女史による暴露本が出ました。題名は「あの時をありがとう」でして、報道されている内容を見ると、これだけでハーレクイン・ロマンスの2つや3つ書けてしまいそうです。発売後、爆発的に売れているそうです。

 本の中では、オランド大統領が「冷たい」と評されていたり、Closerによるスクープの後、睡眠薬を飲もうとするトリエルヴェレール女史を止めるオランド大統領の模様がヴィヴィッドに描かれていたりとか、復縁を求める情熱的なメールを1日29本も書いてきたとか、色々な事が書かれています。

 しかし、その中でも政治的にダメージが大きいのは、オランド大統領が貧困層のことを「歯無し(sans-dents)」と呼んでいたことです。本来、現与党の社会党は労働者、貧困層をバックにしている政党です。そのトップが貧困層のことを小馬鹿にするようなことを言っていたというのは、とても深刻な事です。早速、これに抗議する動きがフランス中で起こっています。

 この暴露本が出る前から、オランド大統領の支持率は歴史的最低の13%でした。比較的人気の高いヴァルス首相もかなり引きずられて、これまでの40%台後半から30%半ばまで下げてきています。その他にも、閣内造反組を追い出すための内閣改造をするや否や、対外貿易閣外相が税の未申告で早速辞任したり、ミストラル級強襲揚陸艦のロシア引渡しをめぐるゴタゴタもあったりして、政権浮揚の要素が一つもありません。今後、未知の領域である支持率一桁もあるかもしれません。私が現職の時の与党の苦境を思い出しても、それより厳しい印象です。

 現在、フランス政府は経済的にも苦境にあります。EUからは財政赤字削減を求められる一方で、成長率は限りなくゼロです。国内的には3年間で500億ユーロの歳出削減を提起していますが、これについても歳出の伸び不足から、既にサパン財務相は目標達成について弱気な発言をし始めています。与党内には歳出削減に反対する勢力が強く、本来財政健全派であるヴァルス首相も党内の会合で「緊縮政策を取るつもりはない」とまで言わされています。今後、支持率の低い中、仮に500億ユーロ削減の目標を少し下げたとしても、来年の予算案の国民議会採決で造反が出かねない勢いです。

 少しずつ、大統領辞任、国民議会(下院)解散の話が出始めています。今、やれば与党社会党は歴史的な大敗でしょう。しかし、このまま10%台をウロウロしていては、内政的、外交的に強いイニシァティブは取れません。このまま、2年半死に体で、欧州の、世界のお荷物になっていくかどうかという所まで迫られていると言っていいでしょう。勿論、上記の予算案否決ということにでもなれば政局になることは間違いありません。

 ....と、ここまではフランスの国内のゴシップ+政治情勢解説でしたが、今回のトリエルヴェレール女史の暴露本で一つ思い出したことがありました。

 それは昨年6月のオランド大統領の国賓訪日です。あの時、恐らく「トリエルヴェレール女史は皇后陛下のカウンターパートか?」ということについて、かなり激しく外務省と宮内庁との間で議論があったのではないかと思います。法的には婚姻関係がないわけですけども、最終的には、皇后陛下とトリエルヴェレール女史を対等の関係で扱うことで整理を付けています(会見の様子はココ)。

 例えば、国賓としてご招待する際、シンガポールであれば「シンガポール大統領閣下及び令夫人」、マレーシアであれば「マレーシア国王及び王妃陛下」なのですが、フランスについては「フランス大統領閣下及びトリエルヴェレール女史」というかたちになっています(ココ)。こんな表記は例外中の例外です。

 その当時は、「他の国には法的な婚姻とは別のパートナー関係がありうる」ということで、フランスの「事実上の」ファーストレディーを拒むことが出来なかったということなのでしょうけど、やはり、そういうのは関係性としては脆い部分があるのではないかなというのも感じるところです(とは言え、仮にオランド・トリエルヴェレール間に婚姻関係があったとしても、あのスクープ記事が出れば離婚でしょうけど。)。

 傍から見ている分には、とても面白いドラマなんですが、これからのことを考えると「大丈夫かいな」と思わずにはいれません。