今日、山岡達丸前衆議院議員から「閣議決定 における『後方支援』の考え方」について、非常に的確なご指摘を頂き、それをベースに考えを巡らせてみました。
以下は、基本的に分類学のようなところがあるので、ちょっとつまらないですけどお付き合いください。そして、内容は一切の価値判断を挟まずに、論理的にこうなるということだけです。なお、下記においては、閣議決定に使われている用語は、過去の法令で使われた用語と同じ定義で使われているという大前提があります。多分、その大前提は間違っていないと思います(というか、そこがずれると議論がとても混乱します。)。
まず、閣議決定を読むと、新しいキーワードとして「現に戦闘行為を行っている現場」でない場所であれば、後方支援は可能というふうにしたいと書いてあります。
これまでは「後方地域」とか「非戦闘地域」といった場所での後方支援は可能であると、周辺事態法、イラク特別措置法、テロ対策特別措置法で決められてきました。この考え方が妥当かどうかということについては争いがありますけども、今日はそこには入りません。
そして、ここでは「非戦闘地域」という言葉を使っていきたいと思います(後方地域よりも非戦闘地域の方が概念的に広い場所を指していると思うので。)。
では、今回の閣議決定で新規に後方支援が可能となる地域というのはどういう場所かということになります。新規ですから、(これまでも後方支援が可能であった)「非戦闘地域」ではなく、「戦闘地域」であっても一定の要件を満たせば後方支援をやるということです。それを前提とすると、ここまでの言葉の定義をそのまま繋ぎ合わせれば、「戦闘地域ではあるが、現に戦闘行為を行っていない場所」というふうになるでしょう。これがベースになります。
では、「戦闘地域」とは何かというと、「非戦闘地域」の定義から導き出すことが出来ます。
「非戦闘地域」とは、これまでの法律で以下のように定義されています。
「現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域」
「非戦闘地域」と「戦闘地域」の間にすきまがないことを前提にする限り、上記の定義の反対概念が「戦闘地域」となります。ここでド・モルガンの法則が出て来ますが、「A and B」の反対概念「not (A and B)」は、「not A or not B」です。したがって、戦闘地域というのは以下のようになります。
「現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われている、又は、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められない地域」
これを上記の「戦闘地域ではあるが、現に戦闘行為を行っていない場所」にそのままあてはめます。ここでは理解を早めるために「戦闘行為」の定義部分(カッコの部分)を一旦落として書いていきます。
「現に戦闘行為が行われている、又は、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められない地域ではあるが、現に戦闘行為を行っていない場所」
これを読んでみると、冒頭に「現に戦闘行為が行われている」と書いてあるのに、末尾には「現に戦闘行為を行っていない場所」とあって、ここは矛盾して成立しませんので削除することが出来るでしょう。
そうすると、「そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められない地域ではあるが、現に戦闘行為を行っていない場所」、これが今回の閣議決定で新規に後方支援をすることが出来るようになる地域になるはずです。
そして、戦闘行為の定義であるカッコ書きの「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為」にある「国際的な武力紛争」については、平成15年6月26日の衆議院イラク・テロ特別委員会での石破防衛庁長官答弁において「国または国に準ずる組織の間において生ずる一国の国内問題にとどまらない武力を用いた争い」となっています。
それを全部ひっくるめると、読みにくいですけども、結局こんな感じになるでしょう。
「そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められない地域ではあるが、現に『国または国に準ずる組織の間において生ずる一国の国内問題にとどまらない武力を用いた争いの一環として行われる人を殺傷し又は破壊する行為』を行っていない場所」
こういう場所が、今回の閣議決定で新規に後方支援が可能となる地域になるというふうに結論付けられます。
ここまでは何の価値判断もせずに、単に言語分類的に詰めて行くとこういうことになるだろうという紹介でした。そこから先のご判断は各自分かれると思います。
なお、最後に価値判断的なことを書きますが、私は後方支援に伴う「武力行使との一体化」論は、実際に現場に降りて行くと極めて非現実的な結果を招いてきたという意見の人間です。