集団的自衛権に関する報道を見ながら、「ああ、これは誤解を招いているだろうな。」と思うことがあります。それは「海外派遣」と「海外派兵」の違いです。日本特有の言い回しでして、大きな違いがあります。


 安倍総理は「海外派兵はしない」と繰り返し言っています。これだけを聞くと、「自衛官が海外に行くことはないのかな。」という誤解すらしたくなります。とは言っても、既にPKO等で海外に行っているので「何の事を言っているのだろう?」と思うかもしれません。


 「海外派兵」というのは、概ね「武力行使の目的をもつて武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することである」とされています。つまり、武力行使の目的を持たないものは「海外派兵」には当たりません。「海外派遣」と呼んでいます。


 ということから、報道では「海外派兵はしない」→「他国の領土、領海、領空に自衛隊を派遣することはしない」という結論を導き出しているところが多いですが、一概にそうは言えません。「武力行使の目的」がなければ、自衛隊を他国の領土、領海、領空に派遣した所で、「海外派兵」にならないからです。


 となると、「海外派兵をしない」という時に最も重要なのは、この「武力行使」の範囲がどの程度であるのかということになります。この武力行使についてですが、一般的に国際法で通説となっているものよりも、日本の解釈は、武力行使の概念を狭く取っています。その辺りは、この資料 がとても良く纏まっています(難解ですので御関心のある方のみでいいと思います。)。さすがは国立国会図書館だと感心します。


 例えば、資料に出てくるニカラグア事件での国際司法裁判所判決では、「武器の提供、兵站又はその他の支援」はかなり広く武力行使に含まれるとされていますが、日本の場合は「武力行使と一体化しなければOK」ということになっています。世界と日本の「武力行使」の考え方には少しずれがあるように思います(政府に聞くと「ない」と言うでしょうが)。


 このあたりを誰も説明しないままに、マスコミは「海外派兵はしない」という発言を、「海外派遣との違い」について何の解説もなくダラダラと流しています。分かってないのであれば不勉強、分かっていて報道しないのであれば未必の故意です。多分、大半の国民各位は勘違いをしていると思います。


 ポイントは2点。「海外派兵というのは、かなり限定的な概念であり、自衛隊が海外に行くことすべてを指すのではない。」ということと、「海外派兵は、武力行使の目的があることが要件だが、その武力行使に関する日本の解釈は世界的に認められているものよりも少し小さい可能性が高い。」ということです。


 安全保障法制に慣れた人ですと、この「海外派兵」と「海外派遣」の違いはいわば「イロハのイ」なのですけども、そんな人はそう居るわけではありません。このまま、何となく煙に巻くような議論が続くのは健全だとはとても思えません。