欧州議会選挙は、事前の予想通り、欧州懐疑派が伸ばしましたね。


 典型的なのはフランス、イギリスでして、フランスでは極右国民戦線が第一党、イギリスでも独立党が第一党です。その他にも、デンマーク(極右)、ギリシャ(極左)でも欧州懐疑派が第一党です。あと、ポーランドでも欧州懐疑派が第一党にかなり緊迫するかたちでの第二党ですし、オーストリアでも極右自由党は確実に主要政党の一角を占めています。


 フランスでは、2002年に大統領選挙第1回の第2位に当時の国民戦線党首ジャン・マリー・ルペンが残り(ジョスパン首相は3位で脱落)、第2回投票でシラクとルペンが戦ったことがありましたが、その時に匹敵するか、それを越える衝撃です。


 それぞれに内政上の事情が影響しています。ギリシャは、経済危機対処についてのEUの緊縮政策に対する反発があるでしょう。イギリスでは、2017年に予定されるEU離脱に関する国民投票への影響は無視できません(その他にもスコットランド独立問題もあります)。総じて、経済状況が悪いこと、EU加盟の条件である財政規律がとてもキツいこと、スケープゴートを移民に求めたがる気持ちが蔓延していること等があると思います。


 元々、欧州議会議員選挙は(1) 国政に直結しない、(2) 普段の生活に関係ない、と思われていることから、「趣味が出やすい」選挙とされてきました。(1)については、「どうせうちの国の政権交代とかに繋がるわけではないから、移民問題等で国民戦線の言うことも分からんではないから入れてみるか。」という感じです。それ自体は、あまり変わっていないかなと思います。一方で、(2)については少し変わってきたなという印象を受けます。EUと普段の生活の関係が近年大きく変化したとは思いませんが、「自分達の苦境は、遠いEUで決まっていることに原因がある。」という若干のスケープゴート的なところが強くなってきています。実際、フランスの世論調査では投票行動の理由に「欧州的課題(enjeux europeens)」を挙げた人が非常に多いです(たとえ、それが単なるスケープゴート化であったとしても)。


 ちなみに、(1)についても間接的ではありますが影響が出てきていて、フランス右派UMP党首のジャン・フランソワ・コペは欧州議会選挙での敗退(+本人をめぐる選挙資金スキャンダル)から、党内に溜まった不満が爆発して辞任となりました。与党社会党ですが、数ヶ月前の統一地方自治体選挙で敗北した際に首相交代をしていますので、もうオランド大統領には切れるカードが一枚もありません。ただただ、権威が下がっていくのを甘受するしかない状況です。あとは政権与党として政策で結果を出すしかないでしょう。早速、低収入層への減税みたいな政策がチラホラ聞こえて来ます。


 それにしても、フランスでの国民戦線の得票率25%は(世論調査通りとはいえ)衝撃的です。内容を見てみると、労働者、若年層での得票率が群を抜いています。あと、これは以前もブログに書きましたが、地方で強い(逆にパリ市周辺では右派UMPが勝っている。)。経済状況の悪化がそのまま投票行動に出たと言っていいでしょう。右派UMPは高齢者での支持率が高かったので、そう大きくは落としませんでしたが、左派社会党は正に支持層として期待する労働者、若年層が完全にそっぽを向いてしまいました。そして、今、フランスでは「EUにいることは良いことである」と考える人が減って、少数派になってきています。


  「あまり、極右を悪者にしなくてもいいのでは。」という向きもあるかもしれません。一点だけ述べます。今回の選挙で、国民戦線元党首(現党首の父)であり、今回も欧州議会議員に立候補し当選したジャン・マリー・ルペンは「欧州の移民問題は、エボラ熱が解決する。」という発言をしました。普通に読めば、(最近また西アフリカで流行っている)エボラ熱でアフリカの人口が減少すれば、欧州へ移民しようという圧力が下がるだろう、という趣旨です。そういう勢力が、欧州の大国で第一党になるというのはとても怖いことです。


 いわゆる極右勢力で統一会派が出来るかと言えば、例えば、イギリス独立党党首のナイジェル・ファラージュは国民戦線との統一会派に乗ってこないでしょう。極右といって簡単に纏めることが出来るほど、各国事情は一律ではありません。例えば、オランダ自由党のウィルダース党首は親イスラエルですが、ルペン親子は反ユダヤです。オーストリア自由党あたりは国民戦線と組むかもしれませんが、極右というカテゴリーで強く纏まれるとは思いません。ただ、共通の結節点が「欧州懐疑」と「移民反対」ということには間違いありません(というか、そこにしかない。)。


 欧州全体としては、右派が第一党ですので、全体の運営は恐らく欧州委員会委員長となるルクセンブルグのユンカー元首相の下で何とかやっていけると思いますが、今後、欧州の統合への動きは相当に弱まることが予想されます。サルコジが提唱していた(EU内の自由な行き来を保障する)シェンゲン条約の見直し辺りは出てくるかもしれません。


 さて、これが日本との関係でどう見るかですが、欧州各国にはEUの求める緊縮政策がとても苦しくなってきているということがあります。しかし、日本の財政状況は、EUに加盟できる状況を遥かに超えて悪いです。もし、日本でも似たような選挙があれば、恐らくポピュリスト的な主張をしてEU批判的なことをやる政党が結構出てくるでしょう。


 日本は財政再建待ったなしの中、今後、官僚や政策決定者をスケープゴートにする極端な主張をする勢力が力を持ってくる可能性があります(既に持っているのかもしれませんが)。今、EUの指導者は必死に「EU統合」を崩さないように頑張っていますが、それに似た気概を日本の為政者は持てるでしょうか、いや持たなくてはならない。そんなことを考えます。


 移民問題についても、色々と書こうと思いましたが、かなり長くなってきたので稿を改めます。