最近、豚肉の話をよく書くので、北九州のある方から「地元とあまり縁がないだろうに。」とご指摘がありました。意外にもそうではありませんで、食肉業界に携わった方から面白い話を聞かせていただけることがあります。本当に「ブラック企業」ならぬ、「ブラック・マーケット」だと思います。それもこれも、この豚肉の差額関税制度がブラック性を助長しているのは間違いありません。


 先日、日本農業新聞が「豚肉の差額関税制度は従量税で一本化」という報道をしていました(ココ )。この記事の図がとても分かりやすいです。以下のエントリーはこの記事を前提に書いていきます。


 昔から何度も繰り返しになりますけど、何が問題かというと、差額関税の部分ではどんな価格で輸入しようとも一定の価格(部分肉ですとキロ546.53円)まではすべて関税で持って行かれるということです。そうすると、関税で持って行かれるくらいなら、輸入価格を分岐点価格ギリギリ(キロ524円)のところで申告して、本来関税で支払うべき部分をポケットに入れようという強い誘因が働くということです。もっと言うと、安い豚肉と高い豚肉をセットにして一つのパッケージで輸入して、税負担分をポケットに入れるというギリギリの手法もあるようです(こうなってしまうと法律違反すれすれではないかと思います。)。


 これは脱税ですが、レアケースではありません。大手商社でも脱税事案が摘発されたことがありました。この差額関税制度の中に色々なブラック性が潜んでいるのです。


 これを従量税にするということですが、従量税というのはキロ●円といった課税の仕方をするものです。まず、従量税ですと、上記のような脱税のインセンティブはなくなります。ただし、輸入価格が安ければ、従価税換算すれば(%換算すれば)税率が高いという保護効果の高さは残せます。


 例えば、従量税がキロ100円としましょう。輸入価格がキロ100円ならば従価税換算の関税率は100%(100/100)になりますが、輸入価格がキロ200円ならば従価税換算の関税率は50%(100/200)になります。そういう意味で、価格努力を相殺する効果があるので、国際的には「出来るだけ従価税(%表示の税率)にしよう」という動きが強いです。


 差額関税制度は、輸入価格が低ければ低いほど従価税換算の税率が高くなる制度ですので、そういう安い豚肉輸入への強い保護効果を残しながらも、価格努力をすべて否定し、脱税を助長するようなところは改革するというのは、国内との関係でもギリギリのラインかなと思います。


 ただですね、日本農業新聞によると「政府はキロ100円のラインで頑張っている」と言っていますが、これだと関税が現行よりも上昇する部分が出てくるのです。仮にキロ100円で一本化した制度になると、輸入価格が446.53円(546.53-100)以上になってくると、現行よりも関税が高くなります。全体として見た時に、低価格帯~中価格帯の豚肉は関税率が下がりますが、中価格帯~高価格帯ですと関税率が上がります(そして、詳細は省きますがキロ2381円以上のスーパー高価格帯ですと関税率が下がります。理論値ですけども。)。さすがにこれで交渉が成り立つとも思えません。


 かといって、増税部分がないような従量税の水準を探そうとすると、キロ22.53円(546.53-524)以下まで下げる必要があります。ここまで下げれば、すべての価格帯で関税削減になります。それはそれで国内産保護との関係で無理でしょう。


 直感的には「従量税に一本化する」というのは無理ではないかなと思います。幾つかの関税方式のセットで豚肉の関税を考えないと、交渉の相場観と国内市場保護が両立しないおそれが高いです。


 交渉内容が分からないので何とも言えませんが、日本農業新聞の報道を見て感じたことを書いておきました。