(要旨)

● 平成の大合併で用意されたメニューは一見魅力的だったが、合併で認められた借金の償還はやはり重かった。

● 地方が行った借金の償還を国が交付税で負担してくれる措置は、交付税総額がそれ程増えて行かない中、他に充当されるべき予算を押しのけて行く可能性が高い。

● 今、地方自体が発行している臨時財政対策債は、国が100%面倒を見てくれることになっているが、上記の典型ケースにこれからなってくる。「国が100%面倒を見てくれる」といって、自治体経営の視野から外していいものではない。


(本文)

 先日、平成の大合併に関するクローズアップ現代の番組 を見ながら、地方自治との関係で考えさせられました。


 平成の大合併の際、(1) 合併前に各自治体が貰っていた地方交付税については10年間、その合算分をそのまま貰える、(2) 合併特例債という地方債の発行が認められ、その償還に際しては国が7割面倒を見る、という一見非常に有利なメニューが用意されて合併が進みました。我が福岡県でも、宮若市、福津市を始めとして20の合併がありました。


 上記の内、(1)については10年経てば交付税がガンっと減ることが分かっているので、それにどう備えるかということです。これはある程度当初から予想可能だったことです。ただ、これで苦しんでいる自治体が多いのも事実です。「10年」はモラトリアムではなく、厳しい行革をするための期間だったはずですが、本当にそれが共有されていたかどうかで合併後の道のりが異なってしまうことは明らかです。


 今日のお題は、むしろ(2)です。「合併特例債」というものの持つ怖さということです。私が地方自治のプロとしてご指導を仰いでいる元八女市長の野田国義参議院議員とこの事について、かつて話したことがあります。野田市長は、福岡県八女市で平成の大合併を経験していますが、合併特例債には手を付けなかったそうです。色々なお話を聞きましたが、将来的な負担になってくることに当初から気付いていた野田さんは慧眼だと思います。


 この合併特例債についても、2つの論点を掲げたいと思います。(イ)(国が7割負担なので)3割の負担は乗ってくる、(ロ)実際には3割以上の負担感がある、ということです。


 (イ)は明らかなことでして、国から許可が貰える合併特例債を発行してしまえば、その3割は当該地方自治体の努力で償還しなくてはなりません。「3割」でも相当に苦しいのです。「7割は国が面倒を見てくれる有利な起債」という文句は一見有利そうに見えますが、あくまでも自分の実力の範囲内でやらないととても重荷になります。


 それよりも、私が注目したいのが(ロ)です。この7割国が面倒をみるというのは、地方交付税の中に入ってくるということなのですが、この「地方交付税の算定根拠として入って来る」というのが曲者です。たしかに、この7割はきちんと地方交付税の中で配慮されています。そこに嘘はありません。


 しかし、長らく地方交付税の総額は平行線か若干のプラスマイナスです。地方交付税の総額が伸びてないのに、特例債の償還で決まった額がその中に入ってくれば、他に充てられるはずの予算が押しのけられ、自治体の真水の手取りは減ってきます。理屈上は、地方交付税を計算する際の基礎財政需要額にこの7割分は上積みするかたちになるはずなので、地方交付税の純増です。その分、地方交付税は上積まれなくてはなりません。しかし、色々な計算の中で総額が増えていっていないということは何処かで希釈されているということです。


 「それはおかしいではないか。」、たしかにそうです。しかし、これからは国も大した袖が降れません。合併特例債の償還に苦しむ自治体の姿を見れば、こういう借金モノは(どんなに交付税措置で約束されたとしても)絶対に重荷になって乗って来るという前提に立った方がいいと思います。借金の償還はリアルに自治体財政に乗ってくるけど、その財源として国が約束したものは(一見きちんと手当てされているけども)実際には相当に希釈されたかたちでしか担保されないということです。


 この関係で、私がとても、とても、とても危惧しているのが臨時財政対策債です。これは地方交付税の財源不足分について、国が半分面倒を見て、残りの半分を地方が臨時財政対策債という地方債を立てて対処するという方式です。そして、臨時財政対策債の償還については、国が交付税で100%面倒を見るということになっています。半分は国、半分は一旦地方が債権を立てるけど交付税で後年措置をするということで、理屈上は全部国が面倒をみるということになります。


 これについても、合併特例債で提起した問題と同じことが起きる(起きている)のではないかと思います。きちんと交付税算定する際に、各自治体の償還分が10割分乗っています。しかし、それは他に充当されるべき地方交付税を押しのけているのではないかと思います。


 臨時財政対策債の発行残高は、私が事業仕分けをした4年前でたしか70兆円でした。今は100兆円を大きく上回っているでしょう。これは国のバランスシートに乗っておらず、全国の自治体のバランスシートに分散されて乗っている潜在的な国の借金です。私はこれが怖いです。いずれ、この増大していく臨時財政対策債の償還分がどんどん真水分を押しのけていくようになるでしょう。


 本来は(繰り返しになりますが)「償還分は純増で地方交付税に乗せろ」という、理論上全く正当な要望を総務省及び財務省に言うのが筋ですが、簡単に地方交付税の大幅増をやれるような状況にはありません。多分、上手く地方交付税総額の中で希釈されていくでしょう。


 そうやって考えていると、臨時財政対策債は国が100%面倒を見てくれるからということで、自治体経営の視野から外していくのはとても危険な行為です(しかし、ほぼすべての自治体がこういう説明をしています。)。自治体の借金に関する資料でも「臨時財政対策債分を除く」と書いてあるものをたくさん見たことがあります。気が付いてみたら、「なんか、臨時財政対策債の償還がうちの財政に重く圧し掛かっているよね。」ということになっているはずです。そこには「100%国が面倒を見てくれている」という表向きの理屈だけではどうしようもないリアリティがあります。


 結論は簡単でして、自治体経営を誤ると、そのまま自治体全体が塗炭の苦しみを経験する時代になるということです。そして、借金はやはり借金、何処かで重く、重く圧し掛かるということです。