TPP交渉が大詰めみたいでして、ポツポツ交渉内容が漏れ聞こえて来ます。それが正しいのかどうかは分かりませんけど、漏れ聞こえてきた範囲で思うことを書いておきます。


【砂糖】

 手つかずという感じのようです。アメリカも砂糖業界は決して強くないですから、無理をする必要はないということなのだと思います。


 日本も砂糖本体で譲れるところはありません。残念ながら、広大なサトウキビ畑で出来る砂糖と太刀打ちするのは無理です。しかも、砂糖は生産国によって品質に殆ど差がありません(角砂糖は何処で作っても角砂糖です。)。


 ただ、今は砂糖を守るために非常に広範囲に「甘いもの」を関税で守っています。本当にそこまでやるのかね、とは思います。いつも同じ例を挙げますけど、砂糖を守るためにメープルシロップに高い関税を掛ける必要はなかろうということです。


【牛肉】

 日豪EPAで纏めたラインを崩さないように頑張っているようです。国内的にもそれでないともたないでしょう。アメリカにも焦りがあるでしょうから、上手くやってほしいところです。


【豚肉】

 気になる報道がありました。「差額関税制度は維持。ただし、税率引き下げを検討中。」ということでした。豚肉は差額関税制度というものを採用しています。同じ方式のものがあるのはタマネギです。これがとんでもない制度なのです。


 差額関税とは「輸入価格が安い時は、キロ409.9円(枝肉ベース)と輸入価格との差を全部関税で持っていく。輸入価格が高い時は、キロ4.3%の関税を掛ける。」というものです。詳細は省きますが、輸入価格が著しく低い時は、理論値として740%近い関税率になります。


 考えていただくと分かりますが、この差額関税はすべての価格努力を無にする制度です。どんなに安く輸出しても、キロ409.9円との差額は全部関税で持っていかれ、国内市場に入ってくる時はピッタリとキロ409.9円になります。


 しかも、この制度は、その差額分を国に払わずにポケットに入れるという脱税を、思いっきり促してしまいます。毎年、数十億円単位の脱税が豚肉の輸入で起きます。ちなみにタマネギでは脱税はまず起きません。というのは、タマネギは差額関税部分がせいぜい10%以下相当の関税なので脱税のメリットを感じないだろうと思います。しかし、豚肉は差額部分がとても大きな関税になるので脱税したくなるのです。


 アメリカは、このキロ409.9円を下げろと言ってきているみたいです。日本は高級豚肉の4.3%削減のみで手を打ちたがっています(これまでは、対メキシコ等でそうしてきた。)。ただ、キロ409.9円を対アメリカや対TPP参加国のみで下げるというのは、アンフェアの最たるものです。何故なら、域外国はどんな努力をしても追い付かないからです。


 例えば、アメリカのみに基準価格を300円にしたとしましょう。アメリカ産の豚肉は必ずキロ300円で入ってきます。EU産の豚肉は必ず409.9円で入ってきます。こんな不条理な制度はありません。キロ当たり●%という関税の掛け方なら、アメリカにゼロ、EUには●%で良いのです。価格努力で追い付けますから。しかし、差額関税で特定の国にのみ基準価格(キロ409.9円)を下げるのは、国際通商法の常識では最悪の禁じ手です。EUの豚肉生産国デンマークあたりが怒鳴りこんでくること必定です。


 解決策としては、アメリカのみならず最恵国待遇で(TPP参加の有無にかかわらず)すべての国に対して基準価格を下げるということがあり得るでしょうが、それ以前の問題として、そもそも、私はこの差額関税制度は止めるべきだと思います。日本の美味しい豚肉を守る制度は他にも色々考えられるはずです。


【コメ】

 今のミニマム・アクセス枠(76.7万トン)とは、別にアメリカ用の輸入枠を設けるみたいな報道がありました。結局、これがホンネなのかなと思います。今のアクセス枠ですら、アメリカ産コメの割合が必ず5割以上になっています。私はこれは「(ミニマム・アクセスを決めた)ウルグアイ・ラウンド妥結時の密約みたいなものがあるのではないか。」と勘ぐっています。


 本当に自由にミニマム・アクセス輸入したら、アメリカ産が5割以上になるかどうかなんてことは分かりません。今は国家貿易ということで農林水産省が差配しながら輸入しています。これがアメリカにとっても心地いいということなんだろうなと思います。そして、その延長で構わないわけです。この枠拡大には自由貿易の要素は殆どありません。


 しかも、このアメリカ専用の輸入枠は、現行のミニマム・アクセス枠の内枠なのか、外枠なのかということもあります。普通に考えれば外枠でしょう。そうすると、ただでさえ、人口減少やコメ離れで国内消費量が減っている中、国内の需給に大きく影響します。個人的には、内枠のオプションも検討していいのではないかと思っています(アメリカは自分の輸出が増えれば良いだけでしょうから、そういう原理原則には拘らない可能性もあります。)。


 他のコメ輸出国が怒るでしょうけど。


【小麦】

 ここもアメリカ専用のアクセス枠を作るという報道がありました。私はコメよりもこちらの方が深刻だと思います。


 小麦は国内消費を国内生産で賄えません。そういう中、アクセス枠574万トンが設定され、それを全量輸入しています。国内生産は近年70-90万トンくらいです。つまり、国内消費全体を見ると、そこに占める国内生産の立場が弱いです。


 アクセス枠が増えれば、それはそのまま国内生産を押しのけます(コメも同様なのですが、小麦の方が国内生産が少ないだけに押しのけられる影響がダイレクトに来る。)。アクセス枠拡大は、そのまま北海道を始めとする小麦農家に排除効果が働きかねません。


 ここも私は、国内生産への影響を抑え込む観点から、現行のカレント・アクセスの内枠としてアメリカ優遇枠を設けるという発想は出来ないかなと思います。原理原則から言うとおかしいのですけど、それで上手く回るのであれば仕方ないような気がします。


 これも他の小麦輸出国が怒るでしょうけど。


 コメ、小麦については、やはり人口減少社会や社会の高齢化によって消費が減ってくる中で、アクセス枠を拡大設定してしまうと、それが固定されてしまい、結果として国内生産が押しのけられていくという効果が働きます。特に小麦はそれがリアルに働くと思います。


 所詮、報道でしか知り得ない身ですから、色々書いたことは間違っているかもしれません。間違っていたらお詫びいたします。