(要旨)

・ 今の集団的自衛権議論の中で、反対派の方々の議論の中には実は「解釈改憲」の要素が含まれている。

・ 改憲及び解釈改憲をすべて否定することが出来るのは、「現行の9条及びその解釈を一切変更しない。したがって、いわゆる四類型についても一切の対応をしない。」という方だけ。

・ しかし、既に四類型が争点化されている以上、何も対応をしないというのは「攻め所」を提供することになり、安全保障やPKOに大きな問題をきたす。


(本文)

 ちょっと刺激的な題ですけど、集団的自衛権をめぐる議論を聞いていると、反対派の方々の議論の中にこっそりと「解釈改憲」の要素があるのです。ちょっと小難しくなりますけど、ご容赦ください。


 まず、いわゆる四類型の幾つかを例に挙げて行きたいと思います。


【いわゆる四類型の一つ目】

共同訓練などで公海上において、我が国自衛隊の艦船が米軍の艦船と近くで行動している場合に、米軍の艦船が攻撃されても我が国自衛隊の艦船は何もできないという状況が生じてよいのか。


 これまでの内閣法制局解釈では、これは集団的自衛権に当たるとされていました。しかし、反対派の方の中には「これは個別的自衛権で対処し得る。」という方がおられます。それは一つの見識だと思います(皮肉でも何でもなく)。ただ、それは今の法制局解釈を変えることになりますので「解釈改憲」です。これが個別的自衛権に当たるという方は、是非法制局長官に「解釈改憲」を迫るべきです。


【いわゆる四類型の二つ目】

同盟国である米国が弾道ミサイルによって甚大な被害を被るようなことがあれば、我が国自身の防衛に深刻な影響を及ぼすことも間違いない。それにもかかわらず、技術的な問題は別として、仮に米国に向かうかもしれない弾道ミサイルをレーダーで捕捉した場合でも、我が国は迎撃できないという状況が生じてよいのか。


 これも今は集団的自衛権に当たるとされていますが、「個別的自衛権で対処し得る」という方がいます。ただ、これは国際法の考え方を変えない限りはやれません。国際法では、領空というのは一般的にエベレストよりもちょっと高いくらいの標高10000メートルくらいとされています。しかし、弾道ミサイルはもっともっと高い所を飛びます。我が国の主権の及ばないところで、我が国に危害が及ぶ可能性がないにもかかわらず、個別的自衛権が行使できるというのは、多分、憲法の大本となる領空概念を変えない限りは出来ないでしょう。ここにも無意識のうちに「解釈改憲」的な要素があります。


 あと、「日本の領土、領海に落ちそうな時は個別的自衛権で対処し得る」との主張もあります。それは正しいです。ただ、発射されて非常に高速で飛んでくるミサイルを「日本の領土、領海に落ちるのか。」を見極めている時間などありません。「即撃墜せよ」ということ以外の命令が出せるとはとても思えません。その判断をすべて現場の司令官に投げるやり方は無責任です。


 ここでちょっと話の方向性を変えて、例えば(改憲の一類型としての)「加憲」を主張する方がいます。今の9条の内容はそのままにして、新たなミッションを加えるという考え方です。これは改憲の一類型ではありますが、実はこの中にも「解釈改憲」の考え方が含まれています。ここからは少し小難しくなります。


 例えば、今の憲法9条に第3項を加えて、新たなミッション(例えば更に広範な国際貢献)が可能になるとしましょう。そのミッションは、今の9条第1項、第2項では認められていないものです(でないと、加える意味がないので)。とすると、第3項で認められるミッションが可能になるように、第1項、第2項の解釈を変えない限りは加憲は無理です。今の9条第1項、第2項の解釈に一切の変更を迫らないかたちで、新たなミッションを加える加憲は、そもそも論理矛盾をきたします。


 そうやって考えると、色々とおられる論者の中で本当に改憲又は解釈改憲をせずに済む主張をしておられる方は、「現行の9条及びその解釈を一切いじってはならない。したがって、論理的帰結として四類型についても一切の対応をしない。」という方に限られます。かなりスコープが狭まってきたと思いませんか。


 ただ、ここからは現実的な問題が出て来ます。現在、四類型が相当に争点化されていることを否定する人はいないでしょう(賛成するかどうかはともかくとして)。さて、これだけ争点化された後に、この四類型に一切何らの対応をしないという判断をしたとしましょう。何が起こるでしょうか。


 私が日米の離間を図りたいと思う某国指導者だったら、自衛隊の艦船が米軍の艦船と近くで行動している場合を見計らって、米軍にちょっかいを掛けるでしょう。米軍だと相手が悪いということであれば、別の同盟国の艦船と自衛隊が共同行動をしている時に、その同盟国艦船にちょっかいを出してみることを考えてみます。何故なら、日本は何もできないからです。そして、その瞬間に日本と同盟国の関係が極度に悪くなるでしょう。


 もっと言うと、いわゆる四類型の三つ目との関係は深刻です。


【いわゆる四類型の三つ目】

例えば、同じPKO等の活動に従事している他国の部隊又は隊員が攻撃を受けている場合に、その部隊又は隊員を救援するため、その場所まで駆け付けて、要すれば武器を使用して仲間を助けることは当然可能とされている。我が国の要員だけそれはできないという状況が生じてよいのか。


 私がテロリストなら、正に自衛隊と一緒に活動している他国の部隊だけに攻撃を仕掛けます。日本は助けにいけません。PKOにおける信頼関係はガタガタでしょう。


 結論から言うと、こういう四類型が争点化された以上は、改憲なのか解釈改憲なのかはともかくとして、何らかの対応をしないと「攻め所」を提供してしまうことになるのです。今でも「攻め所」ではあるのですが、これだけ争点化された上で一切対応しないということになると、「攻め所」を天下に高らかに宣言することになります。それが危険な結果を招くということです。


 「そういう争点化された事自体がけしからん。」、それは一つの見解として理解はしますが、それを言っても、現実が目の前にある以上はもはや詮無いことなのです。


 論理的に書いたつもりですけど、ご批判、ご異見は承ります。