日本ではさすがに関心を呼びませんけど、フランスで統一地方選挙が行われました。結果は与党の若干の退潮傾向と極右国民戦線の大躍進です。最初に解説をして、後半は日本との関係で思う事を書いていきます。


 まず、フランスの統一地方選挙について説明します。とても特徴的なのです。


● 自治体の数が無茶苦茶に多い:なんと37000弱あります。歴史的な経緯から、自治体の数が多く、その中の大半はとても小さな自治体です。なんと人口1人の自治体(南仏のRochefourchatという町)もあります。多分、私が住んでいる北九州市八幡西区の穴生地域だけで既にまあまあな規模の自治体と言えるくらいです。


● 選挙は二回投票:一回目で過半数に行かなければ、得票率が10%を超えた政党(候補者リスト)が二回目投票に進みます。その間に合従連衡は結構あります。一回目で過半数を取った政党、二回目で多数を取った政党が、市議会の議席の半分をまず取り、残りの半数の議席を得票数で分けて行きます。そして、多数党の候補者リストの名簿順一位の者が市長になります。


● ちなみに、フランスは兼職規定が緩いので、国会議員と市長を兼任している人はかなりいます。野党第1党UMPの党首であるフランソワ・コペは、モー(Meaux)の市長に第1回投票で当選していました。


 こんな中、今回の一番の衝撃は、北フランスのパ・ド・カレ県にあるエナン・ボーモンという人口26000人くらいの街で、第一回投票で極右国民戦線が過半数を取ったということでした。他のすべての左派、右派、エコロジスト等全部足しても、国民戦線が過半数を取ったというのは衝撃的です。勿論、国民戦線のリスト第一位のスティーヴ・ブリワ氏が市長になります。同じように南仏のオランジュ市でも、(国民戦線ではない)極右勢力が第一回投票で過半数を取りましたが、ここは昔からガッツリ極右が強いのであまり驚きはありませんでした。


 しかも、全国的には、あちこちで国民戦線が第二回投票に進んでいます。今回、660の自治体でしか候補を立てなかったのに、229の自治体で第二回投票に進んでいます。候補を立てたところは、「それなりの規模がある」自治体です(人口100人くらいの自治体で立てるのはコスト・パフォーマンスが悪いのでやっていません。)。つまり、そういう229の自治体で得票率が10%を超えたということです。


 しかも、その中には日本人でも聞いたことがあるようなブザンソン、ミュールーズ、アミアン、ルーアン、カレー、ストラスブール、ルマン、ニーム、サン・テティエンヌ、クレルモン・フェランといった街が入ってきており、ペルピニャン、アヴィニョンを始めとする20弱の自治体では第一党です。恐らく、第二回投票で国民戦線が市長を取る市がもう少し出るでしょう。


(私は昔、ブザンソンという街に1年住んでいました。音楽コンクールで有名な街です。当時から伸長甚だしかったですけど、あの街でも10%のラインを越えてくるのか・・・、と考え込んでしまいます。)


 そして、全国的に見ても、万遍なく伸長しているという印象です。得票数は100万票弱でして総投票数の5.94%とされていますが、国民戦線が候補を立てたのは、37000自治体の内、たったの660です。国民戦線が候補を立てた自治体での得票率は16%を超えますから、大統領選挙みたいに全国1選挙区だと、もしかしたら国民戦線は第二党くらいにはなれそうな勢いです。


 私は今回、色々と記事を読んでいて一番面白いと思ったのは、エナン・ボーモン市で新市長となるブリワ氏に関する記事でした。1995年以来、同市で市議会議員をやっていて、よく街の市場に顔を出し、午後に行われている高齢者向けのダンス教室に顔を出し、よく困っている人の話を聞き・・・、何のことはない、日本の保守系政治家の典型的なドブ板活動をやっていたということでした。日本ではあまり連想できないでしょうが、極右が根付いてくると「ドブ板選挙をやって、とても人気がある極右」が生まれてくるのです。


(なお、誤解はないと思いますが、「ドブ板選挙」というのはこういう意味 です。私は愛情を持ってこの言葉を使っています。)


 あと、エナン・ボーモンを始めとする極右が強い都市というのは、比較的「田舎」です。例えば、エナン・ボーモンは典型的な旧産炭地です。炭鉱がなくなり、街にあったサムソナイトの工場がなくなり、人口の60%は非課税世帯で失業率は17.2%、新規雇用の機会は稀・・・、旧産炭地が非常に身近にある私にはその姿がとても身に沁みます(なお、私はエナン・ボーモンから北に30キロくらいのリール市にも1年住んでいたことがありまして、大体の雰囲気が分かります。)。実は他の国民戦線が強い地域も同様でして、フランスでは極右現象は決して都市型ではなくて、地方の困窮している地域の不満の受け皿だということが多いです。


 この「ドブ板選挙をやり」、「困窮する地方で強い」というのは、実は日本の様々な極右的動きにはないものです。日本では極右的な活動は極めて都市型でして、東京を始めとする限られた都市圏でしか流行りません。しかも、そういう人は政治の世界に出てきても、基本的にドブ板はやりません。いわば美しい思想とプロパガンダ(と暴力的な言動)の中だけに留まっているわけでして、そこから抜け出さない限りは国民戦線的な広がりは日本にはないだろうと思います。


 ただ、日本で極右的な勢力が、ドブ板選挙をやって地方で伸長してきたら要注意です(当面、そういう動きはなさそうですが。)。


 ちなみに最後に、フランスは遠からず内閣改造をするでしょう。ジャン・マルク・エロー首相の交代も大いに予想されます。首相の交代如何にかかわらず、改造後はちょっとバラマキ・モードに入ってくるような気がします(というか、世間はそう予想するでしょう。)。私はトレーダーではありませんが、ユーロに弱含みの力が働くような気がしてなりません。ただ、私の当てにならない予想を聞いて相場を張って損をしても責任はとれません。