【以下はFBに書いたものを加筆して転記しています。】


 ガーナ大使「公邸」でバカラ賭博をしていた事件が明るみに出ました。「またか」という気持ちになります。私が外務省にいた際も、たしかリベリア大使館員がカジノの賭博場を提供していたということで問題になりました。


 これは「外交関係に関するウィーン条約」というものから来ています。


【外交関係に関するウィーン条約】

第二十二条 1 使節団の公館は、不可侵とする。接受国の官吏は、使節団の長が同意した場合を除くほか、公館に立ち入ることができない。(略)
第二十九条 外交官の身体は、不可侵とする。外交官は、いかなる方法によつても抑留し又は拘禁することができない。接受国は、相応な敬意をもつて外交官を待遇し、かつ、外交官の身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害をも防止するためすべての適当な措置を執らなければならない。
第三十条 1 外交官の個人的住居は、使節団の公館と同様の不可侵及び保護を享有する。(略)


 つまり、大使館や個人的住居は不可侵であり、接受国(この場合日本)の官吏は、使節団の長(この場合駐日本ガーナ大使)が同意しない限り、立ち入ることが出来ません。ここに目を付けた反社会勢力が、特に途上国の公館に働きかけて違法行為、特に賭博の場として使ってしまうのです。


 伝統的な外交関係では、「外交官たるもの、そもそもそんなことをしない」という想定なのでしょう。この不可侵は、やはり国を代表してくる大使や外交官がその国の官憲に取り締まられることがあってはならないという基本的な考え方があります。また、本国からそんなことに手を染めなくてもやっていけるだけのサポートが当然にして得られるという前提があります。


 しかし、私が知る限りでも、そういう常識が通用しないところがあります。私がセネガル勤務の時、最も任期が長い大使は駐カンボジア・セネガル大使でした。しかし、同大使は多分、本国から何の金銭的サポートも受けていなかったと思います。首都ダカールの街中で「バイヨン」という名前の飯屋(レストランと言うにはちょっと・・・、という場所でした)を経営していて、一見大使とは思えなかったです(ただし合法です)。ただ、車にはきちんと外交ナンバーが付いていましたけど。


 その他にも、在ダカールの北朝鮮大使館の方も、あまり本国から金銭的サポートを受けていなかったはずです。街中でキムチを売っていた店は、多分大使館関係者の経営だったはずです。ダカールには殆どない本格的なキムチが売っていました。その売り上げで日々の生活をしていたものと思われます(しつこいですが合法です)。


 しかし、この外交関係に関するウィーン条約はそもそもそんな状況をあまり想定していないのです。そして、それが行き過ぎると、今回のガーナ大使「公邸」のようなことになります。伝統的な「外交」というイメージでは割り切れないところと言っていいでしょう。


 実はこの外交官への免除で最も不愉快なのが「違法駐車」です。東京の赤坂や六本木に行けば、時折、「おい、こんなところに停めるな」と言いたくなる駐車をしている不良外交官の姿を見ます。どうせ取り締まれないだろうとたかを括っているわけです。私は何度か、車を蹴飛ばしたくなる衝動を抑えたことがあります。


 現職時代、一度、警察庁に「日本に駐在する外交団による道路交通法違反事例(含、交通反則制度の適用)に関し、昨年の違反件数が多かった国、国際機関等を上位から順に10カ国、ご教示いただきたい(件数も含めて)。また、その内、罰則(含、違反金の納付)に服した件数。」という照会をしたことがあります。回答は「そういうデータは取っていない。」でした。「取ればいいじゃないか」と思いましたけど、壁はなかなか高かったです。


(なお、日本の外交官は、そういうケースでは反則金を払います。)


 これがヒドいのが、アメリカのニューヨーク市です。国連代表部関連の外交官が多いのですが、あまりに違法駐車が多くて、昔、当時のルドルフ・ジュニアーニ市長がキレていました。取り締まりたいニューヨーク市と国務省の方で相当に協議をしていたような気がします。


 外務省、東京都、警視庁は、こういう外交団の多い市(ニューヨーク、ジュネーブ、パリ、ウィーン等)の取組を調べて、ウィーン条約の制限内でやれることをすべてやるべきです。特に賭博場の提供などという悪質なものについては、ありとあらゆる圧力を掛けて、公館長から免除の放棄をさせるくらいすべきです。そうでなくても、逮捕、執行はともかくとして、例えば、違法行為については正式に公文書で免除を通告して来ない限り、国名を公表して見せしめにすることは(外交関係上はともかく)禁じられるものではありません。


 そもそも、外交団だから治外法権でいいなんてことではありません。あくまでも、職務の範囲内で日本の主権からの免除を共有しているだけです。なので、本来のアカウンタビリティは違法行為を行っている外交団側にあります。


 今のウィーン条約は不良外交官の存在をあまり想定していません。正直なところ、時代にそぐわない所もたくさんあります。しかし、条約を見直すことは出来ないと思います。であれば、運用で最大限の事をやるべきです。