【以下はFBに書いたものを加筆して転記しています。あと、諸データはフランスのル・モンドの記事に依拠しています。】


 ウクライナ情勢を見ていると、「何故、こんなにこじれるのだろう。」と不思議でなりません。


 まず、ウクライナの主権をロシアが乗っ取ろうとしているわけではありません。すべての国がそれを尊重しています。私もウクライナの主権が害されることは絶対にあってはならないと思います。ロシアが確保したいのは、ロシア系住民と黒海艦隊の既得権益です。そして、その既得権益を剥奪しようとすることは、少なくとも欧米は考えていないでしょうし、エネルギーでロシアへの依存度が高いウクライナ新政権もそこまでやるとはとても思えません。


 私は、ロシアのウクライナに対する思いは汲んであげるべきだと思っています。第二次世界大戦の激戦地セバストポリ要塞への思いは強いでしょうし、クリミア半島におけるロシア系住民の比率は極めて高いです。そして、ロシアは上記の通り、ウクライナから港を租借して今も黒海艦隊を抱えています。ロシアは特別の思いがあるはずです。そして、今回の出来事の中で、ロシアはウクライナが反ロシアになってしまい、自分からどんどん離れて行くことへの寂寥感というか、恐怖感があるはずです。


 しかも、プーチン大統領はヤヌコビッチ前大統領が正当な大統領だと言ってはいますが、どう見てもヤヌコビッチを評価しているようには見えません。今回のゴタゴタは、一方的にEUが(ロシアとの関係の深い)ウクライナを勢力圏に取り込もうとしたことに対するロシア側の過剰反応です。ヤヌコビッチを大統領に戻せるなんて思っていないでしょう。


 また、ウクライナ側から見ても、ロシアと決定的に対立していける国ではないのです。ウクライナは、ガスの60%をロシア依存しており、金属産業は完全依存です。この状態で余計なことをすると、ユーシチェンコ政権みたいに冬場にガスを止められたりして苛められるだけです。それでなくても、ウクライナは対ロシアでガス料金の未支払いがあって、2010年にヤヌコビッチ大統領との間で、セバストポル要塞の租借を2042年まで認める代わりに、ガス価格を3割引としてもらったりしています。


 それでも、ウクライナは、対ロシアでガス代金の未払い15億5000万ドルがあって、近々払えそうにない状況です。あんなに穀倉地なのに国の経済は破綻寸前です。ヤヌコビッチ大統領が、EUとの自由貿易協定を放棄せざるを得なかったのも、結局のところ「カネが払えないから、恫喝されると弱い」ということだと思うのです。そして、ロシアはEUとの自由貿易協定を放棄して、自分によってきた可愛いウクライナに150億ドルの財政救済、30%のガス価格値下げ、ガス未払い分の猶予を提供しました(既に財政救済の内30億ドルは支払われ、ロシアがウクライナに輸出するガスの価格も年始から3割強下がっています。)。


 そんな状況で、ウクライナがロシアに決定的に楯突けるわけもないのです。ソ連時代の分業制度の結果と言えばそうなのですが、冬を越せるエネルギーは殆どがロシアに依存しなければいけないはずです。


 そういう状況の中、お互いに何を取りたいのか、をとても雑に整理するとこんな感じだと思うのです。


○ ロシア

・ ロシア系住民の安寧

・ 黒海艦隊のこれまで通りのステータス

・ ウクライナが反ロシアにならないこと


○ 欧米

・ ウクライナの主権尊重とロシア軍の撤退

・ 平和的な選挙による民主主義の確立

・ ウクライナを経由する安定的なガスの供給

(注:・EUの消費するガスの1/4はロシア産で、その6割はウクライナ経由。その依存度はバルト3国で100%、フランスで15%です。)


 EUについては、ここに自由貿易協定の推進が加わるでしょうが、これが今回のゴタゴタの原因となっている以上、一旦は諦めた方が良いと思います。


 こうやって並べてみると、ロシアと欧米で角を突き合わせる程のものでもないのです。きちんと対話できる体制が整ってさえいれば、利害調整をした上で収まると思います。とどのところ、アメリカやEUの首脳はプーチンと「話せる間柄」にないような気がします。オバマ、キャメロン、オランド、メルケル・・・、どうもあの気難しそうなプーチンと上手くやっているような感じがしません。かつては、例えばドイツのゲアハルト・シュレーダー首相はプーチンと上手くやっていましたね(ロシアに近過ぎとの批判はありましたけど。)。


 私が一番懸念するのが、このままクリミア半島が(事実上ロシアが支配する)グルジアのアブハジア地方みたいになることです。ロシアの傀儡政権が自治政権を作って、中央政府から全く手の届かない状態になってしまうことはとても不幸なことです。


 上記の与件でいいのであれば、解決のためのパッケージは「すべてを一連のゴタゴタが起こる前の状態に戻して、皆で上手くやろうぜ。」ということにほぼ同義です。それであれば、合意可能だと思います。


 提案する役割を日本が請け負ったりできませんかね。新聞を読んでいると、「あまり関わりたくない」と言っている政府高官がいるようですが、それは間違いです。ここでウクライナ情勢がゴタゴタしたままだと、ロシア国内の領土意識が高まっていきます。ウクライナが自分から離れて行こうとしていると思っている時に、北方領土交渉など土俵すら成立しません。この問題で貢献すれば、北方領土問題で軟化する程甘い国ではありませんが、今のままだとロシア国内世論が敏感になり過ぎてしまいます。


 日本がよく使う表現の「手が汚れていない」世界です(私はこの言葉と考え方が大嫌いですが)。たしかに、欧米は手が汚れまくっていますので、汚れていない手で大いに頑張ってほしいと思っています。