行政改革を実施する機関について、私は以前こういう文章 を書きました。会計検査院と総務省行政評価局の2つは非常に興味深い報告・勧告を出しています。どうも最近、政治の側がこれを取り上げて国会質疑等に活かしている感じがあまりないのが残念です。国会質疑のネタなど、この2つの機関のサイトを見れば山のように溢れています。


 会計検査院は憲法に規定がありますので、とても独立性の高い組織です。そして、総務省行政評価局の勧告等については総務省設置法に権限の根拠があります。


(なお、余計なことですが、総務省は旧自治省、旧郵政省、旧総務庁が一緒になった組織なので、行政評価局は省内でも色々と戦わなくてはならないという辛さがあるようです。旧自治、旧郵政の問題点を指摘しようとすると、役所内ポリティクスで「うちを取り上げるのは勘弁してもらえないか。同じ役所じゃないか。」という話が来ているのだろうなと思いました。行政評価局が総務省内他局に対して勧告を出す際は、総務大臣から総務大臣に出すわけでして、その勧告自体、総務大臣は「自分で自分を叱る」というちょっと変な構図になっています。)


 それはともかくとして、この2つの機関は基本的には「『今ある政策を前提として、』その使い方、実施の仕方がおかしい」ということを指摘する機関です。会計検査院はお金の使い方、行政評価局は行政の運営の仕方という視点で、それを指摘して是正を求めていきます。それはとても大事なことです。


 一方で、日本には「政策そのものの是非を問う」機関がないのです。フランスの会計検査院はこれがあります。最近も書きましたが、フランスの会計検査院は非常に強い機関でして、官僚養成機関国立行政学院(ENA)のトップは検査官ポストを目指します。もう古い話ですが、私が在仏時に会計検査院の報告書を読みこんだことがあり、例えば「TGV(高速鉄道)のパリ-リヨン専用線の事業はそもそも間違っている」といった報告を出して、会計検査院長と運輸大臣とが激しいバトルを繰り広げていました。


 日本でこれに近い機能を果たそうとしていたのが、民主党政権時代の「行政刷新会議」でした。私も関わった「事業仕分け」が何処までのミッションを負っていたのかは正式には難しいところでして、根拠となった閣議決定では「国民的な観点から、国の予算、制度その他国の行政全般の在り方を刷新するとともに、国、地方公共団体及び民間の役割の在り方の見直しを行うため、内閣府に行政刷新会議を設置する」ということでした。実質的には政策の中身にまで踏み込んでやっていたのですが、根拠のところではそういう状況だったわけです。


 大したことないように思うかもしれませんが、行政刷新会議の苦しかったところは「法的な根拠」が確保できなかったことです。「政府の政策決定過程における政治主導の確立のための内閣法等の一部を改正する法律案」という法律で、行政刷新会議に法的根拠を与えようとしましたが、結局廃案になってしまいました。あの行政刷新会議は、内閣府設置法の「総合調整」という一般的な規定にその根拠を求めたまま最後まで行きました。


 法的根拠が薄いと、どうしても省庁間バトルの際に、防御する側に「何の根拠を持って、おまえはそんなことを言っているのだ。」という心理が働いてしまいます。私は第3回事業仕分けで特別会計仕分けの中核にいましたが、誰も口に出しては言わないものの、眼前にいる各省関係者からそういう無言の圧力を感じました。


(なお、色々批判されますが、私自身は特別会計仕分けに携わってとても勉強になりましたし、国政のかなり広い分野について問題点を認識しました。個人的には、あの機会を与えていただいた蓮舫大臣を始めとする方々には感謝の気持ちだけです。)


 しかも、政権途中からは「自分達で作った予算を、自分達で叩いている」という批判になりました。たしかに行政刷新担当大臣からすると、自分が閣議で署名した予算の中身を精査するというのは辛いところがあったと思います。ただ、私は「政策そのものの是非を問う」機関が行政の中にあるべきだと思います。たしかに上記批判については理解できるのですが、ではその批判の先に「政策そのものの是非を問う」機関の必要性に関する議論があったかというとありませんでした。


 この「政策そのものの是非を問う機関」を設けることは検討されるべきです。では、どういう機関が良いかというと、私は独立性の高い組織にするのが良いと思います。内閣府等に置いてしまうと、法的根拠を設けたとしても、いつまでも「自分が署名した予算を自分で叩いている」という批判が拭えないのです。閣議署名をする大臣の傘下にない組織の方が良いでしょう。


 そう考えると、会計検査院が本当は一番いいのです。行政機関ではあるものの、内閣からは独立しています。日本国憲法にはこういう規定があります。


【日本国憲法(抜粋)】

第九十条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。


 これだけを読めば、「政策そのものの是非を問う」ミッションを会計検査院に与えることは否定されているわけではなさそうです。あとは、会計検査院法を改正して、そういう強い権限を与えればいいだけです。そうして、検査院長には非常に強い人物を当てるようにすればいいでしょう。フランスの現在のミゴー会計検査院長は元社会党(左派)国民議会議員でして、国民議会財政委員会委員長をしていました。任命当時の大統領は右派のサルコジでした。右派、左派を問わず、国政の中で独立性の高そうな人物を据えるという政治文化は見るべきものがあります。


 この「政策そのものの是非を問う」「独立性の高い」機関、日本にも設けるべきではないかと思います。「あの公共事業はそもそもダメだ」、「あの補助金制度は根本からダメだ」とストレートに言えるチェック機関が、各省庁と激しくバトルをしている姿が出てくれば、もっと多くの判断材料が国民の皆様にも提供されるでしょう。