2012年にフランスの会計検査院が原子力発電に関する報告を出しています。殆ど何の論評もせずにそのまま紹介します(数字は慎重を期しましたが、間違っていても責任はとれません。)。長文ですので私なりに省略しますが、特に意図的な編集はしません。


 なお、これは発電に使ったお金のみについての報告でして、送電・配電や税関係は一切除外されています。


 なお、フランスでは会計検査院というのは極めて強い組織でして、官僚養成学校である国立行政学院のトップは会計検査院を目指します。政治的な独立性等は十分に担保されている組織ですので、その見解が歪んでいるとかということは通常フランスでは議論になりません。


 本来ならすべての金額を日本円でも書きたいのですが、かなり面倒くさいので、詳しく知りたい方は適宜2/1時点のレート1ユーロ=138円を掛けて計算ください。詳しくなくてもイメージ像が掴みたい方は0を2つくっつければいいと思います(つまり1ユーロ=100円による近似値)。


○ 原子力発電所建設にこれまで使ったお金:1210億ユーロ(ただし、高速増殖炉スーパーフェニックスは除く)

 現在の58基の発電所(第二世代)で6251万Kwの発電能力があり、建設費用は960億ユーロ。これに加えて、かつて使っていた第一世代の原子力発電所8基の建設費用が60億ユーロ。それに加え、使用済み核燃料再処理関係が190億ユーロ。


○ 1Mw(=1000kw)の発電施設を建設するのにかかる費用

 1978年時点で107万ユーロ。2000年時点で206万ユーロ。今後、フラマンヴィルに建設する163万Kwの発電能力の原子力発電所(60億ユーロ)を加えれば、1Mw当たり370万ユーロ。


○ 研究等に使ったお金
 これまで官民で研究に使ったお金が550億ユーロ。それに120億ユーロの高速増殖炉スーパーフェニックスを加えれば、これまで使った原子力発電所での発電関係で使った総額は上記の1210億ユーロ+研究550億ユーロ+スーパーフェニックス120億ユーロで1880億ユーロ(緒方注:1ユーロ=138円で計算して26兆円程度)。


○ 発電にかかる年間費用:89億ユーロで4079億kwh(407.9TWh)の発電。

 これに加え、公的資金による負担は、研究関係が4億1400万ユーロ、安全性や国民への情報提供関係で2億3000万ユーロで総額6億4000万ユーロ。


○ 将来負担:794億ユーロ。
 廃炉費用が319億ユーロ、ラスト・コア処理費用38億ユーロ、使用済み核燃料費用148億ユーロ、最終廃棄物関係費用284億ユーロで、その他を含めて794億ユーロ。現時点での引当金はそれぞれ173億ユーロ、19億ユーロ、91億ユーロ、98億ユーロで、その他を含めて384億ユーロ。

 ただし、この試算については不確定要素が多い(特に最終廃棄物の地下処分については、計画自体がまだ確定していないため。)。将来、費用全体が増大する可能性は高いと見ている。

 なお、現在、フランス電力公社が所有する原子力発電所の廃炉については184億ユーロと見積もっているが、同じ規模の廃炉作業をやろうとするとイギリスでは460億ユーロ、日本では389億ユーロ掛かると推定される。


○ メンテナンス費用
 2011-2025年で年平均33億ユーロ、総額500億ユーロ。これは2010年に掛かった17億ユーロのほぼ倍。


○ 電力を起こすのにかかる費用:会計上は33.4ユーロ/Mwh、将来の施設更新費用も含めれば49.5ユーロ/Mwh
 これまでの試算をすべて纏めてみた結果、過去から将来の費用(使用済み燃料や最終廃棄物関連費用も含め)もすべて含めて考えていけば1Mwh当たり49.5ユーロ(Kwhに直すと6.8円)。今後、廃炉費用や最終廃棄物関連の費用の増加が限定的であったとしても、メンテナンス関係の費用の増加は10%程度のオーダーで起こると思われる。


(緒方注:ここで会計検査院は、原子力発電所の稼働期間すべてを含む費用を換算して計算する"Cout Courant Economique"という計算手法を使っています。この計算方式ですと、かなり平等にエネルギー源毎のコスト比較が出来ます。電力関係者はこの計算手法、少し勉強してはどうかなと思います。)。


○ 原子力発電所の寿命
 上記の試算は、原子力発電所の寿命に左右される。これから2022年までの間に58基の内、22基は稼働40年を迎える。40年で廃炉と仮定して、同じ発電量を維持しようと思えば、11の加圧水型炉の建設という非常に高額の投資が必要となる。しかし、そのような計画は現実的ではなく、不可能である。したがって、フランスは40年以上原子力発電所を使う、又はエネルギーミックスの劇的な転換のいずれかを選ばざるを得ないが、いずれも追加的な投資が必要となる。どの選択肢を取るにせよ、追加投資の額は大きい。結果として、10%程度の発電費用の上昇が予想される。したがって、会計検査院として、今後のエネルギー戦略は透明性のあるかたちで明示的に議論され、決定されるべきと考える。

 しつこいですが、会計検査院の要約と資料を見ながら突貫工事でやりましたので、数字の細かいところ(もしかしたら大きなところも)や訳が間違っているかもしれません。正確なところは、本資料(
)を読んでください...と言いたいですが、フランス語ですので...。と思ったら、英語がありました(ココ )。