今年は欧州議会選挙がある、と思って、過去エントリーを探していたら、たしかに5年前にエントリーを書いていました(ココ )。


 フランスでは、世論調査によると、極右国民戦線が第一党を伺う勢いです。党首マリーヌ・ルペンは「15-20議席を目指したい。」と言っています。前回2009年の選挙では、右派(当時国政与党)29議席、左派社会党14議席、緑の党14議席、国民戦線3議席ですから、本当に20議席取れれば大躍進かつ第一党も夢ではありません。


 この選挙、本当に不思議でして、欧州議会なのであまり日々の生活に直結しません。しかも、国政とは本来は切り離されています。だから、逆説的なのですが、日々の国政への不満を直接ぶつける場になっています。普段は「さすがに国政選挙で極右国民戦線に投票しちゃいかんだろ。」と思っている有権者が、「国政選挙じゃないし、移民問題で賛同できるところもあるから国民戦線に入れちゃおう。」と思ってしまうということです。


 簡単に言うと、結構「個人の趣味」が投票行動に出るのです。しかし、結果自体が国政に与える影響は甚大でして、ここで負けたせいで大統領選出馬の芽が断たれたりすることもありました(1994年のフランスでのロカール元首相)。今回、支持率の低い与党社会党はかなり厳しい選挙を迫られるでしょう。場合によっては、ジャン・マルク・エロー首相のクビにも影響があるかもしれません。


 欧州全域を見ても、極右がこれだけ浸透できる素地があるのだと思います。イタリアでも(イタリア北部の独立を求めている、反欧州派の)北部同盟が伸びそうな勢いだと聞いています。イタリアの北部同盟は、フランスの国民戦線と欧州議会で統一会派を組むことになります。今回、発足したレンツィ内閣は総選挙を経ない政権ですから、批判票が出てきても不思議ではありません。


 思いなおしてみると、フランスで国民戦線が伸長したのは30年くらい前でして、1984年の欧州議会選挙で10議席取ったのが激震を走らせました。2002年には、大統領選挙第1回投票で当時の党首ジャン・マリー・ルペンが社会党のジョスパン首相(当時)を押さえて2位となり、第2回投票に進出したことがありました。最近では南仏を中心に、小選挙区でも勝てるくらいの力を付けてきています(具体的には、国民戦線対それ以外の勢力で戦っても勝てるようになってきています。)。


 確実に極右が政治の中核の所に入ってきています。色々な意味での異議申し立てが集約しているのでしょう。欧州で極右が伸長する原因としては、失業率の高さ、移民問題、欧州統合への反発等、色々とあります。私の眼には、国民戦線の中に「溜飲を下げる」という要素があるのだと映っています。言い方は悪いですが、「そういうことでしか、溜飲を下げる手法がない。」ということではないかと思います。


 そして、何となくではありますが、日本もそういう文化が出始めているのではないかという懸念を持ちます。今、ヘイト・スピーチが問題になっています。特定の社会カテゴリーの方々を狙い撃ちにして、街中で「殺せ」みたいなことを真顔で叫ぶ姿が、私はとても怖いです。あれも一つの異議申し立てと言えばそうですし、上記の表現を使えば「ああいうことでしか溜飲が下げられないくらい世相が悪くなっている」ということなのだと思います。


 今、多くの方は「あれは特殊な事例」と思っていると思いますが、フランスでの国民戦線もスタートはそうでした。最初は憎悪を煽る姿が忌避されてきましたが、次第にその主張をマイルドにしたりして、社会の隅々に浸透していきました。今や「社会の異端」とは言えない状態です。30年くらいの時間差を置いて、日本でもその萌芽が出始めているのではないかと心配しています。そして、今は時代の移り変わりが早いので、10-15年くらい先を見た時に日本にも極右政党が根差していることをとても恐れます。


 日本は、欧州ほどの治安の悪さがないのと、移民がそれ程多くはないので、すぐにそうなるかどうかは分かりません(なお、誤解がないように言いますが、私は広義の移民に対して日本はもっと寛容たるべきという考えの人間です。)。対処方法は、簡単と言えば簡単、難しいと言えば難しくて、「既存政党がきちんと機能して、社会の様々な困難をきちんと受け止める。」ということです。既存の政党が、社会各層の異議を受け止められないから、当初アウトサイダーだった勢力に支持が集まるわけですから。


 いつも、極右の話を書くときは、結論が陳腐ですいません。