私の隠された趣味の中に「選挙区マニア」というのがあります。全国の選挙区について、どういう形でどういう人口構成になっているかといったことにずっと興味がありまして、昔からヒマな時にそういう政官要覧みたいな本を熟読していました。


 自分でも変わり者だと思うのですが、同じくらい変わり者がいまして、東京4区で同僚だった藤田憲彦さん。この方は私同様「選挙区マニア」でして、国会の本会議場で隣者同士、超オタクな話で盛り上がっていました。私が「秋田1区って、小選挙区が1自治体(秋田市)とピッタリ一緒なんだよな。」と振ったら、「ああ、千葉4区(船橋市)、埼玉2区(川口市)、東京24区(八王子市)、和歌山1区(和歌山市)、兵庫8区(尼崎市)、大阪8区(豊中市)、大阪13区(東大阪市)あたりもそうだよね。」と返事が返ってきました。本会議場で周囲にいた議員の方は、「こいつら、絶対におかしい。」と思って聞いていたはずです。


 そんな中、私が何度か藤田さんに聞いた話の中で「1自治体より小さい選挙区でやるってどうなの?」というのがありました。東京4区は大田区の一部で構成される選挙区でして、区議会議員よりも選挙区が狭いという場所です。東京には4区(大田区の一部)、6区(世田谷区の一部)、9区(練馬区の一部)、13区(足立区の一部)、16区(江戸川区の一部)と、そういう選挙区が結構あります。簡単に言えば、そういう区は有権者が概ね40万人を超えているということです。


 これは政令指定都市のあり方とも関係しているところがありまして、昔は「政令指定都市というのは、世田谷区よりも人口の多いことが条件」といった暗黙の了解みたいなものがありました。「東京都の一特別区よりも小さいというのはさすがにまずかろう」という相場観みたいなものだと思います。しかし、今、世田谷区は89万人です。政令指定都市としては6番目の老舗、我が北九州市が97万弱。いずれ抜かれてしまうのではないかと思います。また、最近ではこの敷居が下がってきて特例で70万人を基準としており、その特例期間内に熊本や岡山といった市が政令指定都市になりました。


 地方に住んでいる者からすると、1自治体よりも国会議員の選挙区が小さいというのは切ないなという気持ちになります。私の選挙区で言えば、例えば八幡西区を歩いていると途中で「ここからはエリア外です」と自分に言い聞かせなくてはならないというイメージです。そもそも、代表制という観点からもこれが良いのかどうか、疑問になります。


 ただ、機械的に人口割りで行くと、人口の多い東京でそういう選挙区が出るのは止むを得ません。一票の格差を完全に是正しようとすると、東京は選挙区が今の25から32になると言われています。上記のように、1自治体よりも小さい選挙区が更に続出でしょう。逆に鳥取県は2→1と言われています。今度は県知事と衆議院議員(と参議院議員)の選挙区が一緒ということになります(中選挙区時代はそういう「全県区」の県が幾つかありましたが)。


 こういうふうに言うと、「中選挙区が良いということか」という議論になります。中選挙区の良さというのはあります。今の小選挙区は、いわば「51%を目指す選挙」です(正確には1対1でない限りは51%でなくてもいいのですが気分の問題として)。中選挙区になれば、5人区であれば「16-7%(100/5+1)を目指す選挙」になります。51%と16%の違い、恐らく候補者の訴え方、動き方も異なってくるでしょう。


 逆に中選挙区になると、とても選挙区が広くなります。小選挙区しかやったことのない身からすると「カネ掛かるんだろうな」ということが一番の懸念です。ローカルな例になりますが、仮に中選挙区となって北九州市+αで一つの選挙区になると仮定する時、私からすると「うーん、門司区とか小倉南区の奥の方まで行かなくてはいけないのか。そりゃ、たまらんな。移動だけでも相当なカネが掛かる。小倉側にも寝る場所を持たなくちゃいかんのではないか。」というのが率直な感想です。


 一票の格差の是正はやるべきです。その一方で、それをやり過ぎると、今の小選挙区では区議会議員よりも選挙区の狭い国会議員が続出する、かといって中選挙区にするとカネが掛かる、結局一長一短です。


 最後は、メリット・デメリットを見た上での決めの問題なんでしょう。何とも陳腐な結論にしかなりませんけどね。