東京都知事選で「即脱原発」が課題となっています。いつも思うのですけど、「即脱原発」というのは政策ではありません。それだけでは「スローガン」です。それをどう具体的な政策に落としていくかというのがなければ、スローガンはスローガンで終わってしまいます。


 そういう中、よく再生可能エネルギーの可能性について取り上げられます。私も将来のある分野だと思います。どんどん推進していくべきだと思います。ただし、コスト感覚は必要です。以下、とても雑ですが再生可能エネルギーについて、思うところを書いておきます(記憶に依拠しているところが多いので間違っていたらすいません。)。


 まず、地熱ですけども、これは九州電力の八丁原発電所が有名です。私の記憶が正しければ建設費は220億円で、10万Kwの出力があります。ただですね、九州電力の方と話していると、地域の温泉組合等との調整はとても大変です。本来、温泉を掘る深さと地熱発電所が地下水をくみ上げる深さは全く違うので、地熱発電所が地下水をくみ上げることによって温泉の湯量には差が出ることはあまり想定されないそうですが、それでも平素から非常に九州電力の方は地域の方との協議に非常に骨を折っておられます。今、国立公園、国定公園等での規制緩和が進んでいますけども、温泉があるから、おいそれと近くに発電所を作れるものではありません。


 さて、九州電力の玄海原子力発電所3号機が建設費4000億円、118万Kwの出力です。これと同等のものを確保しようとすると、単純計算ですと建設費は少し安くできるのかもしれませんが、そもそもこの九州にあの八丁原と同じ発電所を作ることが出来る場所を12個見つけて来いと言われるとそれは無理があります。しかも、10万kwの出力を出せる場所は他にはないでしょうから、発電所数はもっと必要になるでしょう。そして、そういう場所には新規に電線を引かなくてはいけませんから、これもコスト上昇要素です。


 次に風力ですが、これは一番有望なのは多分青森と秋田の日本海側辺りではないかと思います。その他にも有力な場所はたくさんあるでしょう。ただ、これも一般的に電線が通っていない地域が多いです。そこから電線を引くための費用等を考えるとそんなにお安いとは思えません。また、風力も何処でもやれるというわけではありません。音がうるさいといった事情もありますので、人様が住んでいる近くではやれないでしょう。何となく、しりあがり寿さんの「あの日からのマンガ」のこのシーン を重なるものがあります。


 そして、太陽光。先日、九州電力新小倉発電所を見学に行きました。同発電所から、大牟田にあるメガソーラーを遠隔操作しているということで、色々聞いたのですが、一番印象的だったのは大牟田のメガソーラーは3000kwの出力で30000㎡の面積が必要になるということでした。「概ね10倍です」ということでした。「そうか、118万kwと同等の出力を出そうとすると1180万㎡必要なんだな。11.8平方キロということか。」と単純脳で思いました。


 また、別の電力に詳しい方と話していたら、「緒方さん、電力の世界はですね、kwではなくてkwh(キロワット時)が重要なんですよ。」と言われたのを思い出します。正に24時間、118万kwを確保しようとすれば、電力を溜めることが出来る非常に有能な蓄電池があり、かつ昼間8時間がカンカン照りであることを仮定しても、11.8平方キロの3倍の面積、概ね35平方キロが必要になります。これですら、専門家に言わせると「あり得ないくらい超楽観的な想定」とお叱りを受けてしまいました。多分、山手線の内側が63平方キロでして、それくらいの場所にあまねくソーラーパネルを敷き詰めて、かつ有能な蓄電池があることを仮定して、それでも玄海3号機にまだまだ届かないと思っていていいのではないかと思います。新宿歌舞伎町、品川、皇居、渋谷、霞が関、駒込、広尾、六本木、有楽町、四谷、全部ソーラーパネルです。


 しかも、現時点ではソーラーと火力でも1kwh当たり20円以上の発電コスト差があります。仮に20円の差と仮定すると、玄海3号機見合いで行くと1時間で2360万円、1日で5億6640万円、1年で2067億3600万円の追加コストが生じます。結構なコスト差だなと思いませんか。今後、ソーラーがコストダウンしたとしても、この年2000億円のコストがゼロになるということは想定されないでしょう。


 ここまで、非常に断片的で、かつ大雑把なことを書きました。どれにも共通しているのは、「電線をどうするか」、「系統安定化をどうするか」ということがあります。電線がないところで発電しても何処にも運べません。それは間違いなくコストとして乗ってきますし、新規に電線を作るのは大変なのです。地権者との協議等の話を聞くと、それはそれは電力関係者は苦労しています。


 また、電気であれば何でもいいのであれば、それは簡単な話です。しかし、今の世の中、非常にハイクオリティの電気が求められています。101V±6Vの非常に狭いレンジで電圧を調整しています。でないと、今の非常に高度化したコンピューター社会の要請に耐え得ないのです。実はここにカネが掛かっているということが見落とされがちです。私がアフリカに住んでいる時は、よく電圧が安定せずにパソコンに悪影響がありました。あれでいいのなら簡単なのです。私はよく「電気にも品質というのがありましてね。」と話すようにしています。


 晴れている時、風が吹いている時には(不安定な)電気が生まれ、そうでない時には電気がない、では安定的な供給は難しいでしょう。しかも、それを貯めておくための超大型で高性能の蓄電池とそれを調整するシステムの開発も今すぐにできるとは思えません。仮に出来たとしても、それは非常に大きなコスト要因です。


 最後に、今、原子力発電所が止まっていることによる燃料の追加負担は3兆円を大きく超えると言われています。これは論者によっては、省エネ等で燃料消費が下がっていることを考慮していない、実際は2兆円くらいであって、しかもその中には原油価格の高騰という外生要因があるというような論もあるようですが、それはモノをどちらから見るかの問題でして、原子力が止まっていることで発電できなかった分をそのまま価格計算することはスタンダードなやり方だと思います。その3兆を大きく超える国民負担は「その気になればやれる」的な精神論では解決できません。


 非常に雑な、かつツッコミ所満載の話を書きました。「試算根拠がバラバラだ」、「水力は何処に行った」、「原子力発電所はリスクや使用済み燃料処理費用までをも計算に入れるとコスト高だ」、そんなご指摘があろうかと思います。ただ、「即脱原発はかなりのコスト増要因である」ことを否定する人は、それ程いないのではないかと思います。であれば、「即脱原発」派の方はスローガンではなくて、具体的な政策としてそれを示してほしいなと思います。具体的にこうやれば即脱原発が、国民負担のない、又は少ないかたちでやれるという具体的な絵姿を私は見たいです。


 しかも、消費税反対派の方と脱原発派の方は重なることが多いです。しかし、脱原発で消費税2%弱の国民負担が生じていることに何故声を挙げていただけないのか、ちょっと首を傾げます。


 私はいつもこう言っています。「脱原発は北極星みたいなもの。いつも同じ場所に大事な、大事な目標として存在している。私は、北極星の方向に向けて日本は歩んでいくべきだと思う。しかし、いきなり北極星に飛びつけるわけではない。自分の能力を超えるスピードで走っていけば、必ず何処かに無理が出て倒れてしまう。自分の能力の及ぶ範囲で、一歩一歩確実に北極星の方に歩んでいけばいい。」、間違っていないと思うのですけどね。