特定秘密保護法との関係で、お役所の文書管理のあり方について焦点が当たりました。思い当たることを少し書き連ねていきたいと思います。


 日本のお役所においては、どうも文書管理にエネルギーが十分に注がれていないように思うのです。どの役所でも書庫室的な位置付けが高いわけではありません。何処のお役所でも官房総務課の下に数名が配されていて、単に各部局から送られてくるファイルを管理しているだけです。実はフランス外務省では、書庫室長的な方のランクがまずもって高いのです。「Directeur des Archives(文書局長)」という局長級のランクです。情報公開等もここで扱っています。局長級ですから、その後のポストは大使に転出することが多いようです。


 ここはお役所文化の大きな転換になると思いますけど、お役所の持っている財産である文書をハイランクの方がきちんと管理するということは考えてもいいのではないかと思います。各省庁の情報を全部総覧して管理できる能力のある方というのはそうそういるわけではありませんが、そういう役所の知性とでも言える人間をハイランクで配置する体制構築が望ましいと思います。そして、その下に図書館学の専門の方を配置した方がいいでしょう。


 今のお役所の文書管理の問題点は、(1)ファイリングが個人の趣味で行われている、(2)政策をやっている人間が情報公開までやっている、ということです。


 (1)については、リファレンス能力の低いファイルが山のようにあるということです。お役所に勤めるものの基礎知識として、ファイリングの仕方をきちんと教える体制もありません。引き継いだ時に泣きそうになるファイルを山のように見たので特にそう思います。


 (2)についても深刻でして、文書管理関係のことというのはどうしても通常の勤務時間には手が着きません。情報公開請求が来ると、いつも泣きそうになりながらファイルを全部ひっくり返して見ていました。私のケースで言うと、WTO交渉の対処方針を関係省庁と協議しながら、その横で過去のGATT交渉の古いファイルをひっくり返して、「ええと、ウルグアイ・ラウンドのプンタ・デル・エステ閣僚会合の時の・・・」みたいな書類探しをしていました。結果として、帰宅時間が2-3時間遅くなります。


 ただ、文書管理を一元的にやる強い組織を作って、こういう様々な弊害を解決することについては、一般的に文書を作成している各部局が嫌がります。どうしても、自分が大事だと思う文書を他人に任せることそのものに抵抗感があります。もしかしたら、役所の隠蔽体質と言われるものも、この辺りに源泉があるのかもしれません。ここをある程度打ち破らないと、どんなに制度を作ったとしても、情報公開も、もっと言えば特定秘密の管理もどうも上手く行かないような気がするのです。


 特定秘密保護法は通りました。それをあれこれしても仕方ありません(多分、政権が変わっても、この法律を改正することこそあれ、廃止することはしないでしょう。)。であれば、役所の財産たる文書をきちんと管理できる体制を作ることをよく考えた方がいいと思います。今のままだと、特定秘密に指定した文書がそのまま課長補佐のファイルの中で埋もれていき、行方不明になることも大いにあり得る話ですから。