南スーダンの混迷を見ていると、「テクノクラートのいない状態で独立するとこうなる」というふうに思います。


 昔から国が独立する際に、行政、司法、徴税等を司ることのできる人がいない状態だと、(当たり前ですが)国がとても混乱します。1958年、ギニアでセクー・トゥーレが「豊かさの中の隷従よりも、自由の下での貧困を選ぶ」と言って、フランスから独立した際、フランスはすべてのフランス人行政官を引き揚げました。その時、ギニア国内には大学教育を受けた人はほんの僅かしかいなかったということで、結局国は大混乱。トゥーレは、社会主義諸国に擦り寄り、かつ独裁色を強めますが上手くいきませんでした。なお、今でもギニアの通貨はギニア・フランという弱い通貨でして、西アフリカのフランス語圏に一般的に流通する(ユーロによって価値が支えられている)CFAフランを使わせてもらっていません。


 ちなみに旧宗主国の中で、一番ヒドいといつも思っていたのがポルトガル。国力を超えた植民地を抱えていたために、植民地でロクに教育を施さなかったのでしょう。ポルトガルが宗主国であったアフリカの国はギニア・ビサオ、カーボ・ヴェルデ、アンゴラ、モザンビーク、サントメプリンシペといった国ですけども、独立後テクノクラートが育っておらず混乱した国が大多数です。フランスを誉める意図はないのですけど、まだ、フランスの方が現地教育にカネを投じていました。


 今回の南スーダンについても、似たようなことを感じます。キール大統領が、マシャール前副大統領によるクーデター疑惑を非難して以来、紛争が激しくなってきています。既に数千人単位で死者が出ていることは報じられる通りです。私はそれ以前の問題として、国家の体をなしていないと思います。国をまわしていくために必要な最低限のものが全然ないのです。その最たるものが人材、言いかえればテクノクラートです。


 元々南スーダンの大半は放牧民が多い地域でして、纏まりがありません。国民国家といった概念とは遠いところにあります。一方で、キール大統領がディンカ族、マシャール前副大統領はヌエル族といった違いを強調して、民族対立だという論調が見られます。ディンカ族が300万人、ヌエル族が200万人ですけども、各部族の中も結構割れていて、ディンカ対ヌエルという程クリアカットでもありません。そもそも、生活スタイルも同じ、話している言語もほぼ同じでして、違いがあまりないのです。ディンカ族、ヌエル族、どちらかがいない南スーダン国家というのはあり得ないはずです。


(ちなみに、スーダンやチャドみたいな国での対立の原因として良くあるのは、放牧地の取り合いです。砂漠地帯なので誰もが放牧地を探していて、それが紛争の原因になるのです。現在、マシャール前副大統領派とされる「白軍(White Army)」がジョングレイ州のボーという街に向けて進軍していると言われていますが、これも本来はヌエル族の一部の若者が家畜を略奪から守るために作った民兵組織です。)


 本来、民族は主たる対立の原因でない中、キール大統領とマシャール前副大統領がそこに火をつけて、民族対立を煽っているように見えます。しかも、キール大統領とマシャール前副大統領以外の軍属もそれぞれの地域で武器を手にして、少しでも利益を得ようとしています。誰もが誰かと戦っているような状況とは言いすぎかもしれませんが、多くの軍属が各地に散らばっていて、お金によって刹那の合従連衡が起こっているというふうに見ていいと思います。


 周辺国はキール大統領による統治継続に傾いていますけども、同大統領は元々軍人であり、統治するには向かない人物です。そもそも、今の両名の対立の原点も大統領に著しく権限を集めた体制に不満を持ったこともあります。上手く権限と利益の配分が出来ていないのでしょう。現在の閣僚もまともに職をこなしているようには見えません。マフィアみたいなグループが適当に名誉職を割り振っただけで、それぞれのテクノクラートが統治を支えているわけではありません。単に国を統治していくだけの能力を持った人物が少ないということの方が大きいでしょう。


 これ以上のことは私には分かりません。というか、アクターの数が多くて文章に纏めることが難しいのです。一言言えるのは、この国は本当に独立して良かったのだろうかという疑問です。勿論、独立の住民投票は98%以上の賛成で成立しましたし、その正当性、意義を否定するつもりもありません。しかし、国家を作っていくための素地が全くないのです。国をまわしていくためのテクノクラートがいないのです。


 あえて、この国に売れるものがあるとすれば石油。そこを支配しようと、各軍属や時には外国が手を突っ込んでくるのに対して、国家としての耐性がありません。かつての敵であったはずのスーダン政府に対して助けを求める勢力がいても不思議ではありません。スーダン政府が、キール政権の安定を望むか、それともマシャール前副大統領に肩入れするか、どちらを選んでいるのかは分かりませんが、いずれにせよ南スーダンの石油をスーダンのポートサイードから積み出す時の税、通過料等を確保したいという思いで動くはずです。


 しかも、そもそも存在していたかどうかすら疑問であるはずの民族対立まで煽ってしまいました。これは一度煽ってしまうと怨恨が残ります。今、現在南スーダンのお隣の中央アフリカも紛争中です。あの辺りがすべて不安定化している状態です。地域が不安定化すると麻薬、コカイン等の変なものがよく流通するのですよね。これからどうなっていくんだろうと思ってしまいます。