中国の設定した防空識別圏については、色々な外交上の問題が生じています。日本の安全保障上の問題については別途書きたいと思います。昔から防空識別圏の問題というのは存在していて、例えば、かつて与那国島の一部が台湾の防空識別圏に入っていたといった話もありました。


 ところで、私は(斜め45度くらいの)ミラーアタックでこの防空識別圏に対して、日本もある措置を講ずればいいと思っています。それは日中間の大陸棚の問題です。これは昔から何度か書いているので、再褐になりますけども、検討に値するのではないかと思います。


 今、東シナ海においては、日中間で大陸棚の問題が生じています。日本は中間線を主張しており、それを堅持しています。中国は、(既に国際法の世界ではスタンダードではない)自然延長論を主張して、沖縄トラフ(中間線よりも日本よりの部分で海底が沈んでいる場所)までが自国の大陸棚だと主張しています。自然延長論というのは、基線から自然に大陸棚が継続して伸びているところまでがその国の大陸棚だという主張でして、1970年代頃までは通説でしたけど、その後、中間線の方が通説になっています。なお、中国はベトナムとの間では自然延長論ではなく中間線を主張しており、ダブルスタンダードなのですが、それはここでは踏み込みません。


 日本はかねてより、中間線のところから一歩も譲っていません。たしか、福田内閣の時だったと思いますが、当時の谷内外務事務次官(初代NSC局長と目されている方)が相当に頑張って中国を押し返しました。中国は中間線を認めていませんけど、かといって中間線を越えて出てくることはしていません。本当によくやっていると思います。ここでの外務官僚の頑張りは、国民の皆さまから評価されていいです。


 さて、ここで日本の国内法制度がどうなっているかを見たいと思います。ベースは「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」です。


【排他的経済水域及び大陸棚に関する法律(抜粋)】
第二条  我が国が国連海洋法条約に定めるところにより沿岸国の主権的権利その他の権利を行使する大陸棚(以下単に「大陸棚」という。)は、次に掲げる海域の海底及びその下とする。
一  我が国の基線から、いずれの点をとっても我が国の基線上の最も近い点からの距離が二百海里である線(その線が我が国の基線から測定して中間線を超えているときは、その超えている部分については、中間線(我が国と外国との間で合意した中間線に代わる線があるときは、その線及びこれと接続して引かれる政令で定める線)とする。)までの海域(領海を除く。)

(略)


 さて、カッコが多くて読みにくい法律ですけども、大体、こんな感じで読んでください。


● 本来は200カイリまでが日本の大陸棚。

● 他国の大陸棚とぶつかる時は中間線。

● ただし、別途合意がある時はその線。


 私はこの法律は問題があると思っています。それは、日中間のように、双方が200海里まで主張すると大陸棚がぶつかっていて、かつ、現時点では合意がない場合は中間線となっている場合、日本は国内法上マックスで中間線までしか主張できないのです。とすると、中国は沖縄トラフまで主張しているわけですから、仮に国際海洋法裁判所等に出ていった際、下手をすると中間線と沖縄トラフの間(したがって、中間線よりも日本側)で解決が図られる可能性なしとしません。


 もう少し分かりやすく言うと、日本は自国の主張との関係で100点満点で中間線ですが、中国は100点満点でなくても、中間線よりも日本側で解決を図ることが出来るかもしれないというのが今の状況です。これはダメです。衡平な解決を図ろうとする場合、どうしても双方の主張の真ん中を取るようになりますから、真ん中を取って中間線になるという土台くらいは作っておくべきです。


 私はこの法律を改正して、日本も「まずはどんな状況であろうとも(200カイリを主張すると他国の大陸棚とぶつかるとしても)、日本は200カイリまでは大陸棚の権原を主張することが出来る。」ということを明確に謳うべきだと思います。最終的な姿は中間線が望ましいと思うけども、権原としては200カイリまで主張できるのだということを言うべきです(「する」ではなくて、「できる」というのは、実は日本の基線から200カイリまで主張すると一部中国の大陸側にぶつかるところがあるからです。細かいことですけど。)。


 日本が200カイリを主張する、中国は自然延長論を取る、そこを明確にスタートラインと設定すべきです。この手法のいいところは、別に中国を名指しせずにやれてしまうということです。単に「日本はいかなる状況であろうとも、まずは大陸棚の権原としては200カイリを主張するのだ。そこからは交渉次第よ。ただ、望ましいのは中間線だ。」ということだけです。しかも、国際法上も何の問題もありません。淡々と「国際法に基づき、あるべき姿を追求しただけ。」と言えばいいだけです。


(ちなみに、こういう法改正をしても、韓国との関係では問題は生じません。というのも、韓国との関係では既に1970年代後半頃に合意した大陸棚関係の条約があるからです。ただ、この条約の内、南部協定については(当時は通説であった)自然延長論がベースになっているんですね。韓国との関係では、中間線から日本に入ったところ「のみ」に共同開発区域を設けているのです。それはそれで問題なのですけど、ただ、合意が存在しているということで、法改正しても直接には影響しません。)


 現職時代から時々こういうテーマを提起してみたのですけど、残念ながら、どうも民主党内ではピンとくる人が多くなかったですね。こういう時だからこそ、この排他的経済水域及び大陸棚に関する法律の法改正は上手いやり方だと思うのです。ありとあらゆる法律を駆使して、丁寧に、そして慇懃に打ち返しをやるということです。中国側から「やめろ」と言われたら、「おたくこそ、自然延長論を取り下げろ。」と言い返しましょう。何となく、防空識別圏の話とちょっと似ているところがあるので(斜め45度くらいの)「ミラーアタック」と形容させてもらいました。


 変にことを荒立てることは望ましくないのかもしれません。これをやると、下手をすると中国が中間線を越えてガス田開発をやると言い始めるかもしれません。国際海洋法裁判所等での法廷闘争で勝てるのかといった懸念もあるでしょう。そういうリスクをすべて織り込んだ上であっても、一度くらいこのアイデアを検討することはあっていいのではないかと思います。