最近、西アフリカのガンビアが台湾と断交するというニュースがありました。この「承認合戦」については過去に何回か書きましたので、そちらを参照ください( )。


 上記「1」を書いたのは6年前ですが、それくらいまでは中華民国(台湾)と中華人民共和国は国家承認取り付け合戦をやっていました。簡単に言うと、台湾が巨額の援助と引き換えに「中国といえば正統な国家は台湾である、と承認してくれ」とロビーイングをして回り、時折、アフリカ、南太平洋、カリブあたりの国がコロッと台湾承認国に変わるということがよく起こっていました。中華人民共和国もそれに対抗して、同じようなことをやっており、正にチェスボードのように陣取り合戦が行われていたものです。


 私が勤務していた際のセネガルは台湾承認国でした。実は台湾承認国は小さい国が多く、セネガルは最大規模の国でした(同規模ということであれば南米パラグアイも台湾承認国でして、この2国が双璧でした。)。在セネガル台湾大使館は無茶苦茶な援助をしていましたね。週に複数回、台湾大使が新聞で出てきて「cooperation exemplaire(模範的な協力関係)」みたいな見出しと共に援助物件の引き渡しをやっていました。「国家承認」という証文と引き換えに得るものは膨大でして、これをネタに頻繁に承認を移して、その度に台湾、中華人民共和国双方からカネをせしめる国もあったくらいです(一番ひどかったのはリベリア)。


 私が記憶している限り、台湾承認の対価として手付金で小国なら50億円、セネガル規模になると100億円くらいでした。そして、その後もエンドレスに援助をしていかなくてはなりません。頻繁に新聞で見る、にこやかな台湾大使の姿がとても物悲しく映ったものです。ひどいケースでは、「大統領選挙の資金を出してくれ」と台湾に頼み、それを断られるや否や、台湾承認をぶっちぎったギニア・ビサオという国もあります。


 しかし、「大国」セネガルも2005年には中華人民共和国承認に移り、今ではアフリカで台湾承認で残っているのはブルキナ・ファソ、スワジランド、サントメプリンシペだけです。私がアフリカ在勤時は9だったので「減ったなあ」という感じです。1969年時点では世界全体で81の承認国がありましたが、今は22にまで減ってきています。最近、台湾が勝ったケースとしては、2003年のキリバスとかが思い出されますけども、全体の収支でみると劣勢でした。


 今は「休戦」ということになっています。かつてであれば、札束合戦をやって台湾が買っていましたが、もう勝てなくなっています。国民党が政権に戻った2008年以降は、明示的に休戦状態になっています。


 ということで、どうも今回のガンビアの台湾との断交は、中華人民共和国が裏から手をまわしたわけではなさそうです。北京側も驚いているようです。ガンビアの大統領ヤヒヤ・ジャメはちょっと予測不能のところがある人物でして、何の調整もせずに台湾と断交してしまった感じがあります。


 さて、ここから中華人民共和国側は非常に難しい局面に迫られます。ガンビアと国家関係を樹立してしまうと「休戦」は壊れてしまいます。実は上記の22の台湾承認国の中にも、今は中台が休戦中だから配慮して何の動きもしないけど、いつでも中華人民共和国承認に移行する用意がある国がかなりあります。特に中米のハイチ、ドミニカ共和国、ホンジュラス、ニカラグア、ベリーズ、グアテマラあたりは臭いですね。しかも、国交のない国でも、中華人民共和国は「経済文化代表所」を設置して、事実上関係構築を進めています。さて、どのタイミングで中華人民共和国はガンビア承認を行うか、それとも行わないのか、見ものです。


 今回のガンビアの台湾断交、日本から見ると大したことないように見えて、台湾の馬英九政権には大打撃です。野党民進党からはボコボコに叩かれるでしょうね。