最近、自動車業界の方と自動車関係諸税について話しながら頭を整理していた際、あることがふっと思い浮かびました。

 現在、消費税の増税に際して、自動車関係諸税との整理の問題が大きくなっています。特に自動車取得税については「取得」という行為について課税されていることから、消費税との二重課税問題が常に上がります。

 現在、自動車取得税は本則3%+特例2%でして、税収は概ね2000億円程度。ただし、この税金は地方税でして、地方自治体からは「自動車取得税の廃止による減収分は国の責任で補填すべき。」という声が既に上がっています。

 そんな中、10月31日に総務省の有識者検討会で、(1)環境性能に応じた課税、(2)軽自動車税の増税といった内容の報告書が出ました。(1)については環境性能の低いものについては増税もあるのかなという気がします。いずれにせよ、こういった措置を取りながら自動車取得税の廃止に伴う減収分を補っていこうという方向性を強く感じます。

 これは与党側とも足並みがそろっています。以下は少し古い資料ですが、今年度の自由民主党税制改革大綱です。

【自由民主党・平成25年度税制改革大綱】
2. 社会保障・税一体改革の着実な実施
(3)消費税引上げに伴う対応
② 車体課税の見直し
(略)
イ 自動車取得税については、安定的な財源を確保して、地方財政への影響に対する適切な補てん措置を講じることを前提に、地方団体の意見を踏まえながら、以下の方向で抜本的な改革を行うこととし、平成26年度税制改正で具体的な結論を得る。
(イ)自動車取得税は、二段階で引き下げ、消費税10%の時点で廃止する。
消費税8%の段階では、エコカー減税の拡充などグリーン化を強化する。必要な財源は別途措置する。
(ロ)消費税10%段階で、自動車税において、自動車取得税のグリーン化機能を踏まえつつ、一層のグリーン化の維持・強化及び安定的な財源確保の観点から、地域の自主性、自立性を高めつつ、環境性能等に応じた課税を実施することとし、他に確保した安定的な財源と合わせて、地方財政へは影響を及ぼさない。

 総務省の報告書はこの大綱の方向性とほぼ同じです。太字下線部分の「他に確保した安定的な財源」が軽自動車税の増税と読めばいいだけです。

 これだけですと、ただの議論の現状解説にすぎないのですけど、私はこれとTPP交渉がとても重なって見えるのです。というのも、TPPと並行して行われている日米自動車協議で、アメリカは「環境対応車/新技術登載車」、「財政上のインセンティブ」という論点が上がっているのです。

 協議のTerms of Reference(TOR)では以下のようになっています。

○ 環境対応車/新技術搭載車:両国政府は,代替燃料又は代替エネルギー源を利用した自動車の貿易を円滑化することの重要性を認識し,無差別な取扱いを確保することの必要性を含む,これらの自動車の製造,輸入,販売及び使用に関連して生じる事項を取り上げる。

○ 財政上のインセンティブ:税制の運営に関する政府の主権的な権利を害することなく,財政上のインセンティブ又はその他の措置が,それらが両国の市場における競争条件に及ぼす影響に関連して,米国車(PHPを通じて輸入されたものを含む。)に対して差別的な効果を与えないことを確保するため,取り上げられる。

 そもそも論を言えば、このTORは交渉入りの際にアメリカ側から要求されたものであり、こういう協議をすること自体は「前払い」として出したものです。しかも、この日米協議は、両国の自動車貿易に関する問題点を協議する場ではありません。アメリカが日本の自動車貿易市場に対して持っている懸念について協議をするということで、一方的にアメリカから日本は攻め立てられるだけの場です。こんな協議の設置を前払いしたこと自体が、私には腹だたしくて仕方ないのですけども、もうこれは設置され、協議が始まっているので仕方ありません。

 そして、ここでアメリカが要求しているのは、アメリカの環境対応車が日本でよく売れるようにすべきということと、(これは読み取りにくいですが)軽自動車税の廃止です。アメリカで作っていない軽自動車に財政インセンティブが与えられて優遇されているせいで、アメリカ車が売れないのだ、という理屈です。まあ、アメリカの環境対応車が日本で売れるのか、という疑問はありますけども、もしかしたらアルコール対応車を買いやすくしろとかいうのかなとも思ったりします(それはアメリカのトウモロコシ業者へのプラスにもなる。)。

 私的には「アメリカ企業がきちんとしたマーケティングをして、良い自動車を提供すれば日本でもきちんと売れる。ヤナセと組んで、ベンツはきちんと売れているではないか。」と思いますが、アメリカは「世界で一定のシェアがあるのに、日本で売れない。」という事実だけを以て、日本市場は不公正という言い方をします。以前もブログに書きましたが、アメリカの言う不公正貿易というのは、とどのところ「数値目標的考え方」が背景にあるはずです。

 こうやって見ていくと、今、自動車取得税及び自動車税関係で議論が行われている裏にどうもアメリカの姿が見えてしかたないのですね。

 これをもう少し分かりやすく言うと、以下のような得失になるでしょう。

○ 日本政府:自動車取得税廃止による補填分の財源捻出。TPP交渉でのブレイクスルー。
○ 地方自治体:本来失うべき財源が国の責任で補填される。
○ アメリカ:軽自動車税の廃止(+環境対応車への減税)による、アメリカ車の日本市場開拓。

 皆、これでハッピーのように見えます。三方一両得?、いやいやそんなはずはありません。これはすべて軽自動車税の負担増になる消費者の負担で行われるものです。しかも、言い訳がしやすいのです。「アメリカに譲歩したな!弱腰だ!」という批判に対しては、「いえいえ、消費税増税に伴う自動車取得税廃止対応ですよ。」と言い訳が出来ます。

 一つ一つのテーマは関係省庁が異なっているため、ピンと来ないかもしれませんが、政権中枢で「この仕組みでやろう」という意思決定が動いているのではないかなと思います。上手いやり方だとは思いますが、私はどうも納得できません。自動車取得税廃止に伴う地方減収にどう対応するのか、対応しないのかという論点も含めて、良い知恵はないのですけど、こういうガイアツ隠しの手法で国内改革を進めていくのは、原則論として好きではないのです。

 エラそうに解説だけしておいて、最後は知恵不足でしたね。すいません、もう少し税制に詳しくならないといけないなと反省しました。すいません。