題を見て「何処だ、それは?」と思う方も多いでしょう。川崎、相模原、浜松、堺と我が街北九州です。しかも、北九州については、県庁所在地たる福岡市よりも9年も早く政令指定都市になっています。これは北九州市だけです。そのあたりの思いというのは、色々とありまして、NHKの支局が都道府県内に2つあるのも、日銀の支店が2つ以上あるのも北海道と福岡だけだとか、少し古い話になると国鉄九州総局は門司港にあったとか、結構な思いがあります。


 県と政令指定都市の関係というのは複雑でして、私にもよく分からないところがかなりあります。本来は県が持っている権限のかなりの部分が市に移譲されています。県に残されているのは、本質的には広域でやった方がいいものということになっています(警察、薬務、農業等)。とは言っても、何となく統一性なく、各中央官庁の都合によって決まっているんじゃないかなと思うところもあります。時折、「何故、これが県の権限になっているのだろう?」と思うことがあります。


 県庁所在地で政令指定都市だと、やはり色々な意味で県庁と政令指定都市役所が接点が深くなるのですけど、こうやって県庁所在地から離れたところにいると、県との関係は微妙なものがあります。政令指定都市として50年の歴史を持つ我が街にいると、福岡県や福岡市に対する独立の気風というか、対抗意識というか、そういうものは自ずと見て取れます。


 ここで話が飛びますけど、大阪都構想というのはこの県と政令指定都市の関係を整理しようという取組に見えます。現大阪市長が知事になったばかりの時、記憶が正しければ「御堂筋の再開発」みたいな(政令指定都市たる)大阪市に対するヴィジョンを語っていました。実際に知事として職務を始めてみると、そこには全然手を付ける権限がないことを知ったという悔しい体験をしたのが、結果として、その後の市長への転出、都構想へと繋がるきっかけになったのではないかと思います。福岡県知事が、天神地区再開発や小倉駅前再開発について主導権を発揮しようとしても、あまり権限がないというのと同じです。


 都構想というのは、この二重行政状態を政令指定都市の解体及び府(都)の権限回復・強化によって解決しようという取組だろうと思います。私はこの問題を提起しようとする現大阪市長の発想自体はとても貴重だと思います(下記の通り、結論は違うのですけど)。都構想が出てきてから、政令指定都市市長とその市がある道府県知事にインタビューをしてみても、「うちには二重行政はない」とか、「お互い上手くやっている」みたいなコメントが多いです。お互いを傷付けないようにしているのでしょうが、私から見ていると実態はそうではないと思います。勿論、権限は国の法令上切り分けられているので、切り分けられているという事実を以て「重複はない」ということになるのでしょうが、「それが本当に最適かつ効率的な方法か」というと、やはりそこには二重行政的なものがあると言わざるを得ません。「重複」、「二重」という言葉が適当ではないのなら、非効率と呼んでいいでしょう。


 私はこの現大阪市長の問題提起は大事にすべきだと思います。ただ、不満としては、大阪だけに話を限定していることです。本来、全国あちこちに同種の問題があるのです。それを御膝元だけで提起するというのは、全国政党の共同代表としては今一つパンチが弱いですし、広がりがないです。本当に二重行政が問題だと思うのであれば、全政令指定都市に戦いを挑むくらいの気概があってもいいでしょう。なお、都構想については「大都市地域特別区設置法」という法律は通っており、北海道(札幌)、埼玉県(さいたま市)、千葉県(千葉市)、神奈川県(横浜市、川崎市)、愛知県(名古屋市)、京都府(京都市)、大阪府(大阪市、堺市)、兵庫県(神戸市)は今、取り沙汰される都構想にチャレンジすることが出来ます(残念ながら福岡県と福岡市、北九州市は人口要件が不十分で無理のようです。)。


 ただし、問題提起自体はとても重要なものだと思いますが、私はこの問題を、政令指定都市を解体して、府(都)に権限を収れんさせるかたちで解決させることは現実的ではないと思っています。白地のキャンパスに絵を描いていいのであれば、都構想による特別区の設置は一つのアイデアだと思います。しかし、既に各政令指定都市には歴史と積み上げがあります。ましてや、県庁所在地にない都市になれば特別な矜持があります。


 我が街の方に分かりやすく話すと、都構想というのは北九州市を解体して、区を再編し、新しく出来た区は東京の23区的な扱いになり、そのヘッドクォーターは福岡県庁ということです。ちょっとピンと来ない方が多いはずです。今、話題となっている堺市も、政令指定都市としてはまだ7年くらいですけども、勘合貿易の拠点で東洋のベニスと呼ばれ、安土桃山時代には自治都市の地位を享受した等の歴史があります。おいそれと解体されて、大阪府(都)の傘下に入るということを良しとはしないでしょう。


 繰り返します。私は現大阪市長が提起していることはとても重要なことだと思います。しかし、その解決策を、政令指定都市の解体+府(都)への権限集約に求めるのは現実的ではないでしょう。私は真逆の政令指定都市の権限の更なる強化に努める方がいいと思っています。道府県庁側からすると面白くはないでしょうし、本来の行政の在り方からして、道府県の中に浮き島のように独立性の高い市があることがいいのかという議論はあります。ただ、現状においてはむしろ現状の政令指定都市制度を強化することで権限を市側に集約する方向の方が、二重行政の解消としては現実的だろうと思います。


 ただ、政令指定都市のみならず、中核市、特例市にもどんどん権限を委譲し、本当に道府県に残る権限を「真に広域でやらないといけないものだけ」に集約してしまえば、そこから道州制へはあと数歩ではないかと思うのです。現大阪市長は道州制を主張していたと思いますが、仮に大阪都が出来てしまえば、ある意味纏まりが良いので、多分そこから関西州には広がらないでしょう。都構想の先には道州制は全く見えてこないような気がするんですね。そのあたりの理論的アプローチで納得的なものはあるのかな、と思ってしまいます。


 政令指定都市選出で国会議員をやってしまうと、この権限調整に対するセンシティビティがとても上がります。結論は真逆でありますけど、現大阪市長の問題提起自体は本当に重く重く受け止めるべきものがあります。今後、そういう議論がもっと深まることを期待したいですね。