山本最高裁判事(前内閣法制局長官)の集団的自衛権に関する発言がかなりの議論を巻き起こしています。


 ただですね、仮にこの発言要旨 が正しいのであれば、山本判事は微妙ではあるけどもかなりのサインを送っているようにも読めるんですね。一番ガチガチに言うなら、「現行憲法の解釈上、集団的自衛権はすべからくダメ」でいいのです。ただ、発言の細かいところが分からないので判断が難しいです。内閣法制局長官クラスになると、一言一句に意味が込められます。議論の機微がよく分かっていない方が要約すると、その意味が反映されないおそれがあります。


 読み解くべきポイントは、「解釈変更は難しい。だけど、内閣の決断はあり得る」ということと、「地球の裏側まで行くような(完全な)集団的自衛権であれば憲法改正でやるべき」の2点です(複数の社が「完全な集団的自衛権」と書いているので「完全な」という表現を何処かで使っている可能性が大です。)。


 本当にガチですべての集団的自衛権を拒否したいのであれば、「解釈変更は不可」、「(すべての)集団的自衛権は憲法改正でやるべき」でいいのです。むしろ、そうなっていないところを読み解く報道が一つもないのは不思議でなりません。


 「我が国自身に対する武力攻撃に対して、必要最小限度で反撃をするための実力の装備(自衛隊)を持つことは許される」、「地球の裏側まで行くような(完全な)集団的自衛権を実現するためには憲法改正をした方が適切」、どれもその通りです。政府答弁で言うと、以下のようなものですが、これにチャレンジできる人は少ないのではないかと思います。

【現在の政府の見解(平成十五年七月十五日・衆議院議員伊藤英成君提出内閣法制局の権限と自衛権についての解釈に関する質問に対する答弁抜粋】
憲法第九条第一項は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と規定し、さらに、同条第二項は、「前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と規定している。
しかしながら、憲法前文で確認している日本国民の平和的生存権や憲法第十三条が生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を国政上尊重すべきこととしている趣旨を踏まえて考えると、憲法第九条は、外国からの武力攻撃によって国民の生命や身体が危険にさらされるような場合にこれを排除するために必要最小限度の範囲で実力を行使することまでは禁じていないと解され、そのための必要最小限度の実力を保持することも禁じてはいないと解される。
我が国がこのような自衛のために行う実力の行使及び保持は、前記のように、一見すると実力の行使及び保持の一切を禁じているようにも見える憲法第九条の文言の下において例外的に認められるものである以上、当該急迫不正の事態を排除するために必要であるのみならず、そのための最小限度でもなければならないものであると考える。


 古代ローマ法以来、「例外は限定解釈する」となっています。例外が拡大解釈されれば、規範本体がダメになっていきます。そして、今の憲法上は、自衛のための実力の行使及び保持は例外的な位置付けです。私は上記の政府見解には、あまりチャレンジすべきではないと思います。


 最近も書きましたが、私は「今の解釈では集団的自衛権と位置付けられているものの中にも、急迫不正の事態を排除するために必要で、かつ最小限度なものがある」と思っています。代表的なのがいわゆる「四類型」と言われるものです(他にもあるでしょう)。私はそういうものを日本が行使できる自衛権の範疇から排除すべきではないと思っています。


 それを踏まえた上で、私が「これでいいんじゃないか」と思う新政府見解は以下のようなものです。結構、気にいっています。


【既存の政府答弁に私が加筆・修正したもの】 

 我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第九条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため、又は国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行う活動のため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解している。おり、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであつて、憲法上許されないと考えている。


 これくらいであれば、山本判事の「内閣の決断」の範疇に入れられるのではないかと思います。我が国の防衛と国際貢献のために「必要最小限」というところで、少しだけ解釈の枠を広げるだけです。そこで認められるのは「完全な集団的自衛権」ではなく、「必要最小限」という縛りの掛かった部分だけです。


 山本判事は、既存の内閣法制局見解から、若干、いやかなりの譲歩を見せていると思いますけどね。よく読めば、集団的自衛権を全否定していないのです。これまでであれば、それだけで大問題だったのです。


 「一番極端な集団的自衛権の例を出しつつ、そういう集団的自衛権全体は憲法改正でやるべき。そうでない部分について解釈で対応できるかというと難しいけど、最後は内閣の決断。その時は内閣法制局長官が助言する。」・・・、ちょっと穿ち過ぎですかねぇ。