古くからの知己とメールでやり取りしていたら、モントルー条約の話になりました。これは1936年に締結されたボスポラス・ダーダネルス海峡の通過に関する条約です。なんと、この条約は日本も締結しています。国際連盟の理事国だったということがあります。ただし、サンフランシスコ平和条約で、日本がモントルー条約上享受していた権限は廃止されています。


 国連海洋法条約には、国際海峡制度というのがあります。国際的に使用される海峡の通過は出来るだけ自由にしようということで、通過通航権というものが認められています。日本にも、国際的に使用される海峡で24カイリ未満(つまり、沿岸国が12カイリを主張すれば公海部分がなくなる海峡)のものが5つあります。宗谷、津軽、対馬東水道、西水道、大隅の5海峡です。


 しかし、日本はこれらの海峡で12カイリを主張していません。領海法でこれらの5海峡については、領海の主張を3カイリに留めています(特定海域)。最近、隣国の軍艦がこれらの海峡を通過する度に「脅威だ」みたいな話が右派の方を中心に盛り上がりますけども、通過している海域は(日本が自発的に開けている)公海である可能性が高いです。私はいつも報道等を見ながら、「そこまで盛り上がるなら、何故、この特定海域制度に注目しないのだろうか。」と不思議でなりません。ただし、特定海域を止めて、国連海洋法条約上の国際海峡に位置づけたところで、自由な通航を保障する観点から軍艦の通航を制限できるわけではないのですが、分離通航帯を設けるとか、限られた中でも幾つかのツールがあります。気持ち的にも、隣国の軍艦がこれら5海峡における(しつこいですが、日本が自発的に開けている)公海を通過していることと、日本の主権の及ぶ領海を通過しているということには差があるかもしれません(あくまでも気分の問題なのでしょうが)。


 そんな中、世界には本来、国際海峡であるにもかかわらず、独自の通航制度を持っている海峡が幾つかあります。有名なものとしてはマラッカ海峡がありますが、歴史的に非常に興味深いのがトルコのボスポラス・ダーダネルス海峡であり、それを規律するのがモントルー条約です。トルコは国連海洋法条約上の以下の規定から、国際海峡制度の適用をガンとして拒否しており、今でも事実上モントルー条約が適用されています。


【国連海洋法条約第35条】

第三十五条 この部の規定の適用範囲

この部のいかなる規定も、次のものに影響を及ぼすものではない。

(略)
(c) 特にある海峡について定める国際条約であって長い間存在し現に効力を有しているものがその海峡の通航を全面的又は部分的に規制している法制度


 普通は国際海峡では軍艦の通過を拒否できませんが、モントルー条約では排水量総トン数が15000トンを超える軍艦(9隻以下)や8インチ以上の砲装備主要艦の通過は許可されていません。したがって、例えば最近、海上自衛隊に導入されたいずも型ヘリ搭載護衛艦は両海峡を通過して黒海に入ることが出来ません。ただし、黒海沿岸国については例外が認められており、主要艦(2隻の護衛艦の同行が可)であればこのトン数を超えるものでも通過できることになっています。しかも、主要艦や空母について定義があって、空母というのは「designed or adapted primarily for the purpose of carrying and operating aircraft at sea」というものを指すということで限定されています。この規定を利用して、ロシアは実質的に空母であると思われるキエフ級航空巡洋艦やアドミラル・クズネツォフを巡洋艦扱いにして、両海峡の通過を可能としています。


 では、日本でこういうことが出来るようになるかですが、少なくともモントルー条約相当のものを今から考えるのは難しいでしょう。上記の国連海洋法条約の規定にも当てはまりません。何か上記5海峡における軍艦の通過に制限をかけることが出来ないかなと思うのです。少なくとも両岸が日本の領土である津軽、対馬東水道、大隅の3海峡くらいは何とかならないかなと思い、これらの海峡を内水(領海基線の内側)扱いに出来ないかとも考えました。内水であれば、国連海洋法条約の規定の外になりますので、規制は掛け放題です。このアイデアを思いついた時には、「オレは天才だ!」と0.5秒だけ思いました。


【国連海洋法条約第三十五条】

この部のいかなる規定も、次のものに影響を及ぼすものではない。

(a) 海峡内の内水である水域。ただし、第七条に定める方法に従って定めた直線基線がそれ以前には内水とされていなかった水域を内水として取り込むこととなるものを除く。

(略)


 やっぱりダメですね。私のような猿知恵はきちんとフタがされていました。


 昔から問題意識を持ち続けている国際海峡と、日本特有の制度である特定海域の問題、そして、これら海峡における軍艦の通過、いつも何かいい知恵がないものかと猿知恵混じりで考え続けています。


 今日のエントリーは説明不足のまま書いたところがあります。分かりにくかった方、申し訳ありません。分かりにくいところはコメント欄でご指摘ください。