TPPとは別枠で行われる日米の二国間交渉が行われました。あまり情報が流れては来ないので何とも言えませんけど、一つ気になったのは、日本側からアメリカに求めたものが少なかったという内容の報道でした。この二国間交渉に関する、両国の前提となる大使間のレター では、自動車についてはアメリカが日本の制度について懸念を表明して、それに対する対応を検討する場ということになっていますが、それ以外の非関税措置についてはそういう一方的な表現にはなっていません。


 以前、同僚であった福島伸享前議員がとても面白いことを言っていました。私の理解するところでは、「日本の経済界はこういう他国の制度について、あまり政府に対して制度改善を求めることをしない。それは『どうせ、政府に頼んでも外交交渉で取ってこれない。ならば、他国の制度に自分から適合していった方が早い。』ということで、他国の制度に自分を合わせていく。しかし、アメリカやEUはむしろ、そこを産官一体となって政府間交渉で取りに来る。これは経済学的に言うと、マクロ経済とミクロ経済の中間くらいにある話であり、この狭間のところへのアプローチが日本は弱い。」ということだったと理解しています(間違っているかもしれませんので、文責はすべて私です。)。素直に慧眼だと思いました。


 経済界は「TPP推進」ではあるけども、そこから細かく何を取りにいくのかということについては、政府へのインプットが少し弱いような気がします。「自由貿易は最終的には良いことだ」というマクロのところで止まってしまっているとまでは言いませんが、腹一杯に要求を出していくことをすべきだろうと思います。今回の交渉で取り上げることができるかどうかは微妙ですが、例えば、鉄鋼業界が長年苦しんでいる「アンチダンピング課税」について、極めて強硬な姿勢を取るよう政府に圧力をかけることはあっていいはずです(なお、同課税については30年以上続いているものがあります。30年以上ダンピングしたら、そんな会社は潰れるよ、と私は思うのですが。)。


 「既にアメリカの制度に日本企業は適合してきているから、もう制度改正で頼むことはない。」ということなのでしょうか。そこまでやった日本企業の努力は多とすべきですけども、どう考えても、不合理な制度がまだまだたくさんあります。逆に、日本が今攻め立てられている自動車の各種制度は、すべて内外無差別に適用されているものです。「軽自動車に対する軽減税率」がおかしいといった主張がありますけども、国際貿易の本筋のルールで言えば「あなたが日本仕様に軽自動車を作ればいいでしょう。米国産でも軽減税率は適用されるのですから。あなたの日本市場への浸透努力不足を非関税障壁と呼ぶんじゃない。」と反論すればいいもののはずです。しかし、そういう国際貿易ルールといった部分を超えて、要求してきているのがアメリカの手法です。


 一般論で「自由貿易の便益」を説くのではなく、マクロとミクロの狭間にある制度論のところにもっと降りていって、どんどんアメリカの非関税措置について、場合によっては内外無差別の原則のところを乗り越えてでも要求していく姿勢があるべきだと思います。その基礎となるのは、経済界からの様々なインプットです。


 「どうせ、取れないだろうから」といったペシミズムの先には何もありません。「●●を取るまでは絶対に妥結してくるな」という強いメッセージを出すのが農業界だけである必然性は全くないのです。経済界からその強いメッセージが出して、時にはそこに議員を絡めつつ、政府の交渉ポジションを支えに行くアプローチを確立すべきではないかと思うわけです。アメリカは頻繁に「議会がこれではウンと言わない」、「自動車業界からの強い要望だ」といったエクスキューズを使いながら交渉に臨みます。同じくらい強気の立て付けを産官共同で考えてほしいと思います。


 交渉参加までは、日本と他国の立ち位置はイコール・フッティングではありませんでした。こちらが入れてもらう側、既存参加国はそれを審査する側でした。しかし、今は違います。すべての交渉はコンセンサス方式です。日本さえコンセンサスに入らなければ妥結しない類のものです。交渉に立つ鶴岡首席、大江代理、森大使を強気で支える体制が求められます。