TPPの交渉が始まりました。情報が出て来ないのは、そもそもそういう取り決めの下やっているものであって、政府を攻め立てるのも酷です。情報公開法でも、不開示理由として「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」というのがあります。この範疇ではないかと思います。


 見ていると、諸外国との温度差を感じます。たしかに大きな交渉であることは言うまでもありませんが、作業部会の構成を見ていると、それ自体はよくある経済連携協定のものと差がありません。メディアを見ていると、他の参加国はそれくらいの温度感でやっているのではないかなというふうに思います。日本だけが特別な盛り上がりを見せていることは意識の高まりとして悪いとは思いませんが、100人も交渉団を送り込んでいることは多分違和感を持って受け止められていることでしょう(交渉テキストや議事録は東京でも読めます。)。そして、「始まったこと」、「情報が出て来ないこと」だけを報道するために100名近い報道陣が行っていることも「ちょっとねぇ」という気分になります。


 ところで、このTPPをめぐる議論の中で、慎重派の方に聞いてみていまだに一度として明確な答えがない問があります。それは「アメリカとの経済連携協定に反対ですか?」というものです。単に「TPP」の部分を「アメリカとの経済連携協定」に置き換えただけの質問です。


 今、世界の通商に関するパラダイムが転換しているのだと思います。かつてのようにWTOを中心とした多角的貿易交渉を行うことが私は一番いいと思いますが、正直なところ、WTOドーハラウンド交渉には推進力がありません。そういう中、現行のWTO協定は既に土台としての位置付けになっており、そこに各国がめいめいに自由貿易のネットワークを張っていくという、いわばカオスの状態に入っていっているのが現在のパラダイムだと思います。


 これは非常に動的な世界ですが、これから更にある程度進んだところで世界の通商体制についての相場観が収まりを見せてくるような気がします。世界の国の数が増えるわけではないので、自由貿易のネットワークが張り巡らされたところで、その中から共通認識のようなものが拾い上げられてくると私は見ています。かつて、経済連携協定に積極的でなかったアメリカがEUとまで交渉を開始するようになったというのも、パラダイムを大きく転換させていっていると見ていいでしょう。WTOを真ん中に置くのではなく、WTOを土台として考えて、その上に多種多様な経済連携協定の積み上げを行っていくというパラダイムの転換をすべき時は既にやってきています。


 そういう中、「日本はアメリカとの経済連携協定に反対ですか?」という問になります。もう少し行くと、「TPPとアメリカとの経済連携協定との違いは何だと思いますか?」ということです。多分、具体的な答えは出て来ないはずです。「関税の撤廃率が高い」、しかし、そもそも論として自由貿易協定というのはそういうものです。これまでの日本の締結した経済連携協定がスタンダードでなかったという方が事実でしょう(ただし、私は100%撤廃はあり得ないし、守るべきものを厳選した上で守っていくべきとの立場です。)。


 私が知る限り、「アメリカとの経済連携協定」に真正面から反対する人はあまり多くないと思います。であれば、二国間でやるよりも複数国間でやった方がより良いはずです。今回のTPP交渉開始に際して、アメリカとの自動車等の個別協議が入ってきました。あれが正にアメリカとの個別FTAの姿です。あれを良しとする人はそうそういないでしょう。アメリカとの経済連携に反対でないのであれば、徹頭徹尾、TPPのような複数国間協議でやっていくのが正しいと思います。


 WTOの場で世界共通のルール作りを真正面からやっていくのはなかなか難しい時、世界の通商のルールはある程度地域毎に作っていかざるを得ません。正しい表現かどうかは自信がありませんが、世界のスタンダード作りの「競争」が行われているといってもいいかもしれません。そこに日本が背を向ける選択肢はないはずです。


 これまで何度も書いたことの繰り返しでしかありませんが、頭の整理としてもう一度纏めてみました。