そろそろ、TPP交渉が始まります。色々と言われていますが、この交渉は最後はコンセンサス方式ですから、どんな圧力が掛かろうともクソ頑張りするところは徹頭徹尾合意しないという気持ちを持つことは必要です。どうも、日本の国内には「押し切られるのではないか」ということが言われますが、押し切られるというのはこちらもそれで(渋々ながらでも)合意したということですから、その合意をしなければいいだけです。


 フランスは、ウルグアイ・ラウンド交渉では一旦欧州委員会が合意してきたブレア・ハウス合意を「ダメだ」と言って引っ繰り返しました。そして、当時のバラデュール政権は輸出補助金のところで同合意を若干押し返して、国内ではヒーロー扱いでした。今次、米EUの自由貿易交渉でも放送部門を除外することを欧州委員会に呑ませています(交渉手法として正しいかどうかはともかくとして)。あのうざったいまでの頑迷ぶりは時に見習う必要があるのかもしれません。


 ところで、何の根拠もない話ですけども、TPPの関係でちょっと気になったことがあります。それは日豪FTAの扱いです。ちょっと前に牛肉等の農産品で低関税枠を設ける方向で「大筋合意」と出たのですが、それを両政府が否定して、そのまま沙汰止みになっています。


 ちょっと穿った見方かもしれませんが、実は本件で世論のハンドリングを間違えたのではないかと疑っています。あれだけ複数紙が書いたということは、それなりに政府内の誰かがそういう話をしたのだと思いますし、それなりに根拠のある話だったはずです。本当は報道通り「大筋合意」だったのを、マスコミにすっぱ抜かれたせいで、日本国内で纏まりが付かなくなったか、オーストラリア側が立場を硬くしてしまったかで、大筋合意と発表することができなかったのではないかということです。


 世論のハンドリングというのは慎重に慎重が求められます。ウルグアイ・ラウンドの時も、日本のコメについての扱いの交渉内容が、韓国の東亜日報(だったと思いますが)にすっぱ抜かれて、日本政府はそれを否定せざるを得なかったということでした。私が知る限り、本当はその時点でコメのミニマム・アクセス+関税化を企図していたにもかかわらず、それを否定せざるを得なくなり、結果として勝ち取ったのは「関税化なしの特別扱い。ただし、輸入枠としてのミニマム・アクセスは加重。」というものでした。しかし、頭を冷やして考えてみれば、加重されたミニマム・アクセスが重荷になってしまい、5年後には再度見直しをして、当初企図していたミニマム・アクセス+関税化を選択しました。これによりコメ制度の改革が5年遅れたとボヤく改革官僚の話を聞いたことがあります。詳しい経緯はこのエントリー に昔書きました。


 それと同じようなことです。本来、今回の日豪FTAでは合意できていたものがすっぱ抜かれたせいでダメになったような気がしてなりません。私はTPP交渉入りの前に日豪FTAは合意しておくことがとても重要だと思っていました。いつも、茨城の福島伸享議員とその重要性を議論しあったものです。一応、(確立しているかどうかはともかくとして)TPPでは既存の合意されたFTA交渉の内容をリオープンすることはしないということになっています(アメリカがオーストラリアとの関係で、米豪FTAで守りきった砂糖の再交渉をしないために編み出されたものだとも言われています。)。ということは、ここで日豪FTAを合意していれば、少なくとも牛肉、乳製品、砂糖、小麦といったオーストラリアから日本への要望品目についてはピン止めすることが出来ていたはずです。


 日豪の部分だけでも一定の成果をピン止めしておくことがとても重要だったのに、それが出来ないままTPPに突入するということは、まだ日豪間でもTPPの場で農林水産品等で厳しい交渉があるのではないかなという気がするわけです。あまり望ましいことだとは思えません。


 単なる邪推なのかもしれません。私は内情をよく知らないので何とも言えません。確実に言えることは「TPP交渉入り前に日豪FTAで合意に至らずピン止めが出来なかった」ということでして、そこからの私の推量としては「世論ハンドリングに失敗したため」ということになります。


 ただ、その他の可能性としても「大筋合意にアメリカから何らかの横やりが入った」、「本当に大筋合意はなかった」というのもあるので、私の話は話半分くらいで聞いておいていただけるとありがたいです。