TPPを始めとする自由貿易協定(FTA)の議論をする際に、とても疑問に思っていたことがありました。それは「攻めどころのはずのもので、とても弱気の議論をしていること」です。私が現職の時代にはとても多かったです。というか、(関税の所はともかくとして)ルールの所は大半が攻めどころになるはずです。典型的なのが「政府調達」です。


 日本ほど既に政府調達のところで開放度の高い国はありません。国のみならず、都道府県から政令指定都市までが入るのみならず、独立行政法人、国立大学法人、NTT、郵政、JRみたいなところまで、一定額以上の調達は、WTOの政府調達協定において締約国間で開放されています。同協定は米欧+韓国、イスラエル、カナダ、スイス、香港、台湾等が加盟しており、中国は加盟申請中です。


 自由貿易協定でこれを取り上げることについて、よくあった弱気の議論は3つでした。


① 国際競争入札に付される基準額が下げられると、そこに外資が入ってきて、地場の企業の仕事を奪うのではないか。
② 国際競争入札になると、公告等の英訳の手間が増えて地方自治体の負担増になるのではないか。
③ 対象機関が増えてしまうのではないか。


 ①については、今の基準額の水準で参入していない外資企業が、基準額を下げたら入ってくるのでしょうか。正直なところ、基準額が下がったところで、そこにのみビジネスチャンスを見いだして、日本の市場に新規に入ってこようという外資企業が全くイメージできません。ということで、あり得るとしたら、今、既に日本に足場を持っている外資企業が小規模なものにも入ってくるということになります。それは普通の国内で現在ある競争のレベルを大きく上回るものとは、あまり思えません(ただし、ここは争いのあるところであというのは承知しています。)。


 ②については、既に一定の定型化がされていて、政府調達協定の対象である我が北九州市でもそこまでの手間になっているようには思えません。最近、政令指定都市になった岡山、相模原、熊本あたりで、この件がとても重荷になっているという報道にも出くわしたことがありません。


 ③については、日本は既に対象機関が広過ぎるくらいでして、少なくともNTTとJRについてはさっさと政府調達協定の対象から外すべきですし、郵政も民営化の進展に伴い、外していく方向で検討すべきです。逆にアメリカの州の内、たしか30州前後しか調達を国際競争入札にしていなかったと思いますし、日本の政令指定都市相当の自治体でも全く開放されていないところがたくさんあります。昔、ニューヨーク、シカゴ、パリ、ロンドンあたりで調べてみたのですが、政府調達協定の対象になっていない自治体が非常に多くて驚いたことがあります。


 私からすると、少なくとも民主党内ではとても奇妙な議論が罷り通っていました。普通であれば、諸外国でどの程度の政府調達の開放がなされているかを調べた上で、それと日本の実行を比較し、日本のレベルに到達していないところを攻め上げる発想に立つべきですが、全然そうではなくて、「日本の市場に外資が更に入ってきて、国内企業が排除されていくのではないか。」という視点ばかりがクローズアップされていくのを奇異な気持ちで聞いていました(私は反論していましたが少数派でした。)。「ロンドン、パリ、ニューヨークの公共工事に日本のゼネコンが入っていきたいから、しっかり交渉で取ってこい。」という檄を飛ばす姿が見たかったですけど、ついぞその声を聞くことはできませんでした。


 日本の報道を見ていると、TPPやFTAでとても弱気な議論が多いです。しかし、特にTPPは他国の制度を日本並みにまで高めるというフェーズが多いはずです。日本国内に何処か蔓延しているこの弱気、どうにかならないのかなと思います。