しばらく、TPPについては書きませんでしたが、「世間的にあまり取り上げられていないんだけど、実は重要なのではないかと思われること」があります。


 それは、これからの交渉の構造です。交渉入りの意向を伝えるレター をよく読んでみると、「保険、透明性/貿易円滑化、投資、知的財産権、規格・基準、政府調達、競争政策、急送便及び衛生植物検疫措置の分野における複数の鍵となる非関税措置に取り組むこと」は「TPP交渉と並行して」行われるということです。同様に、「自動車貿易に関する交渉」も「TPP交渉と並行して」行われるのです。


 この「TPP交渉と並行して」というのが一番良くないのです。まず、この部分での譲歩はTPPの多数国間での交渉成果のバランスでは考慮されないでしょう。他のTPP参加国からすれば、「それは日米で勝手に脇でやっている話」に過ぎないわけです。交渉全体の成果のバランスに組み込まれるなく、ここは正に日米FTAと同じ構図になってしまうわけです。


 私はずっと「日米FTAだけは止めとけ」と言い続けてきました。それは逃げ道がないからです。出来るだけ、多数国間のテーブルの上でやっていくことが大事だと思うからこそです。日米FTAをやると利益の出し入れがあまりにダイレクト過ぎるのですね。日米との経済連携をやるという選択肢を選ぶのであれば、TPPと二国間FTAしかありません。そして、私は多数国間のTPPの方が雨風をしのぐ手段があると言い続けてきました。


 しかし、現状は重要事項はほぼすべて完全に二国間交渉の場に引きずり込まれました。現職時代、国会で私は「(TPPではなく)日米FTA論者」に出会いました。それらの方々は、自分の希望したかたちが正に目の前に7割方実現しているわけです。今、この姿を見て、日米FTA論者はハッピーなのでしょうか。とてもそうは思えません。


 この「並行交渉(事実上の二国間交渉)」では逃げ道はありません。日米だけで向き合って利益の出し入れをするプロセスになります。何故、この点を皆指摘しないのかなと不思議でなりません。今回の事前協議妥結の中で、私が「一番良くない」と思った部分です。


 ただ、あえて言えば、「自動車貿易」についてはアメリカが一方的に日本市場に懸念を表明し、それに対する対応を並行交渉でやることになっていますが、「保険、透明性/貿易円滑化、投資、知的財産権、規格・基準、政府調達、競争政策、急送便及び衛生植物検疫措置の分野」については、そういうことにはなっていません。日本もどんどんこれらの分野でのアメリカの問題点を指摘して、成果を勝ち取ってくるようにしなくてはなりません。そのためには、国内の関係企業からのインプットが必要になるでしょう。アメリカでのビジネス上、これらの分野での障壁となっている点をきちんと洗い出して、交渉の場で制度改正を求めていく姿勢が求められます(厳密に言えば、自動車貿易でもそういうことが不可能とまでは言えないとは思いますが。)。


 何となく見過ごしがちなこの「TPP交渉と並行して」、これはとても要注意のフレーズです。