先日、ある芸術関係の方と話していたら、「昔から日本芸術院の会員資格をめぐってはあまり宜しくない話が多い。調べてみるといい。」というご指摘を頂きました。よく知らない世界なので、もし間違っていたら申し訳ありません。


 間違ってはいけないので、確実なことから調べてみました。まずは法律と政令です。文部科学省設置法 の第32条に「日本芸術院」に関する規定があります。


(日本芸術院)
第三十二条  文化庁に、日本芸術院を置く。
2  日本芸術院は、次に掲げる事務をつかさどる。
一  芸術上の功績顕著な芸術家の優遇に関すること。
二  芸術の発達に寄与する活動を行い、並びに芸術に関する重要事項を審議し、及びこれに関し、文部科学大臣又は文化庁長官に意見を述べること。
3  日本芸術院の長及び会員は、政令で定めるところにより、文部科学大臣が任命する。
4  日本芸術院の会員には、予算の範囲内で、文部科学大臣の定めるところにより、年金を支給することができる。
5  日本芸術院の組織、会員その他の職員及び運営については、政令で定める。


 ちょっと驚きなのは、日本芸術院の会員になると年金が貰えるということです。年間250万円が支給されているみたいです。ちなみに、第二項第二号については、これまで発動されたことはないようです。


 そして、この法律に基づいて政令 があります。詳細はリンクを見ていただくとして、概ねこんな感じです。


● 芸術上の功績顕著な芸術家を優遇するための栄誉機関である。
● 会員百二十人以内で、第一部美術、第二部文芸、第三部 音楽、演劇、舞踊の三部からなる。

● 会員になるためには、関係の部会の過半数の推薦が必要。

● 会員は終身。


 そして、各部においては、それぞれ更に分科会があって、各分科会に割り当てられる会員の数の相場観はある程度決まっています(ココ )。驚きなのは「終身」だということですね。


 また、美術の世界では、大体、この会員になるためのルートが決まっています。まず、日展と芸術院が非常につながりが強いです。日展だけには限られませんが、大宗が日展系の人がみんな芸術院会員になります。まず、日展で入選を三、四度すると次は特選。特選を三、四度すると、今度は審査員になるように頑張る。審査員になると、次は芸術院賞を取る運動をする。芸術院賞を取ると芸術院会員になる運動をする。そして、芸術院会員になると次は文化功労者になることを目指し、最終的には文化勲章というルートになります。奇妙だなと思ったのは、文化功労者にも年金がありまして、これは年350万円で芸術院会員の年金と併給されるということです。


 この日本芸術会員のメンバーになると、それぞれの分野での格が上がりまして、特に第一部美術の方などは作品の値段が跳ね上がると言われています。多分、芸術院会員及び文化功労者として貰える年金よりも、そちらの方が金銭的に大きいはずです。


 ここまで来ると、大体の構図が見えてきます。私は内情をよく知りませんが、これだけの制度を見ていて「こりゃ、日本芸術院会員になるところで裏金が飛び交っても不思議ではない。」と感じました。力学的にそうなりやすい制度設計になっています。終身の現会員によって入会が決まるわけで、そこに入会すれば名誉と作品の格が上がり、それが収入に繋がるという共通認識があるのであれば、会員候補の方に対して推薦の際に見返りを要求したくなるはずです(もし、ご自身がそういう経験をしているのであれば尚更です。)。そういう構図を小説にしたのがこの本 です。また、こういう報道もあります( )。「1億積まないと、推薦してもらえないのか...」という気持ちになります。最近では、この裏金も巧妙になっていて、例えばその現会員の先生の作品を高額で購入するとかいった手法もあるそうです。


 昔の記事を見ていると、東京、京都、大阪あたりに「日展タクシー」なる存在があったことを見付けました。つまり、日展関係でのロビーイングをするために、日展の時期になると当該地域の芸術院会員のところを効率的に回るためのタクシーのことだそうです。ある意味専門性の高いタクシーですので金額は張りますが、効率的に回るために必要だったそうです。それは関係者の訪問を効率的にやる必要性があるのは我々の業界でも同じですけども、ちょっと生臭いなという気がします。


 仮に上記の推論が概ね当たっているのであれば、私は①選出方法、②終身制の2点は改革した方がいいと思います。折角の能力ある芸術家が芸術院会員になるためにロビーイングばかりやっていたら、日本芸術界にとって損失だと思います。


 最後に、上記の朝日新聞の記事にも紹介されている久保亘参議院議員(元蔵相)の質問のコピーを張りつけておきたいと思います。この質問の時期から既に40年近くが過ぎています。ここで描写されている状態から、日本の芸術界は変わったのでしょうか。今は相撲界、柔道界といった伝統のある分野でもコンプライアンスが問われています。いつか、爆発しなければいいけどと憂うるばかりです。


● 芸術院に関する久保亘議員の質疑
(1) 参-予算委員会第四分科会-1号 昭和50年03月29日
○久保亘君 (略)時間がなくなりましたけれども、もう一つ、基本的な考えだけお聞きしておきたいと思いますが、日本芸術院の改革について、これまで何回か国会でも論議がされたことがあるように伺っておりますが、いまの芸術院というのは、法律や政令に定める目的を十分に果たしつつあるのかどうかということであります。特に、日本芸術院は会員終身制をとっておりまして、そしてどなたか亡くなられるとその後を補充するというやり方になっておるようでありますが、この会員の補欠の選出などについてもいろいろと昨今取りざたされるような、余り芸術と無関係な、非常に反芸術的な問題があるように聞いております。この際、芸術院の徹底的な改革、あり方についての再検討等をするとともに、当分、芸術院会員の補欠の選任を中止をするというお考えはありませんか。


○政府委員(安達健二君) 日本芸術院は、文部省設置法なり日本芸術院令によりまして「芸術上の功績顕著な芸術家を優遇するために置かれる機関」、栄誉機関ということでございまして、その会員の選考あるいはまた、芸術院の行いますところの芸術院賞あるいは恩賜賞の選考というようなことが中心的な仕事になっておるわけでございます。
 そういうようなことにつきまして、日本芸術院の会員によるところのその運営というその考え方そのものは、やはり芸術家でもって自主的に行わせるという根本的な考え方は、やはり現在の状況からいたしまして、維持することが適当であるとまず第一点は考えておるわけでございます。
 それから第二点といたしまして、この会員の選考あるいは芸術院賞等の選出等につきましては、この運営上の問題といたしましても、ただいま御指摘のようなことがないように、芸術上の功績に従って、それにふさわしい人が選ばれ、賞を与えられますようなふうにいたすべきであるということで、このことにつきましてのいろいろな御批判等に対しましては、そういうことがないようということで、再三、毎回その申し合わせをいたしまして、金品等あるいは訪問等を受けないというようなことを毎年申し合わせをいたしまして努力をいたしておるところでございまして、その意味におきまして、ただいまお話のございましたように、補欠選任を一時中止をするというようなことは、なお早急にはそういうことにまで及ぶべきではないのではないかと考えておるわけでございます。


○久保亘君 あなたは、そういうふうに言われますが、実際には芸術院というのが、それじゃ、この法律や政令の定めるところに従って、芸術に関する重要事項を審議したり、芸術の発達に寄与する活動を行って、文部大臣や文化庁長官に対して建議を行ったり、そのような活動が実際に行われておりますか。


○政府委員(安達健二君) 具体的には、そういうような重要事項の審議のことは、従来もちろんないとことはございませんけれども、芸術院が本質的に栄誉機関であるということからいたしますると、やはりその芸術行政に対しまして深くかかわり合いを持たれるということは、必ずしも芸術院の本旨に沿うかどうかということについては、私はむしろその会員の選考、あるいは芸術院賞の選出というようなことを中心とする現在の運営の方がむしろ芸術院の実体に合うのではないかと、かように考えておるわけでございます。


○久保亘君 あなたは文化庁の長官ですか。


○政府委員(安達健二君) はい。


○久保亘君 なら、そんなことを言われていいんでしょうか。日本芸術院令によって、日本芸術院の目的として私がいま申し上げたことは決まっておるんですよ。それを文化庁長官が否定されるような、芸術院というのは余りそんなことはやらぬ方がいいんだと、こう言われるんでしたら、まず、その政令から変えてきてください。
 それから、芸術院会員というのが、私は、昔のように芸術家というのは私は何も清貧でなければならぬとは思っておりませんが、芸術というのは、官製のいろいろな機関の中に組み入れられないで、自由に大衆の中で生き生きとして活動していくというところにその芸術の真の意義があると考えている。ところが、芸術院とか、日展とか、官製のものが非常に幅をきかしていまして、そしてボス的に、官僚的に、特に美術、絵画の部門などでは芸術家を支配する。そして、本当にいまから名もなきところから伸びようとする若い芸術家の活動に頭からおもしをかぶせるようなものになっていったり、それから、この芸術院会員になるということが、芸術家の精神を捨てても非常に経済的な利益を生むということから猟官運動まがいのことが懸命に行われる。この芸術院の存在そのものが、そういう意味では日本の芸術をスポイルしているんじゃないか、こういう気持ちがいたします。どんなことがあるんだろうかと思って実際に見てみましたところ、芸術院会員に就任する前の年と就任した年と比べますと、画家のその一号当たりの価格というのが大変な高騰を来すもんだということが年鑑等によって明らかになっております。たとえば、ある方は、就任前には一号五十万の絵をかいておられたのが、芸術院会員に文部大臣から任命を受けると同時に八十万になる。号三十万ということは、八号の絵をかきますと二百四十万とその値段が上がるということであります。そうすると、会員として年俸百二十万の年金をもらうというようなことが問題じゃなくて、芸術院の会員の資格によって経済的な利益が非常に多く与えられる。しかも、日展や芸術界全体に対してボス的な発言権が強化されるということになれば、私は、この芸術院会員の選任をめぐって余り思わしくない――いろいろつまらぬことを、選挙のときにやるのは政治家だけだと国民は思っておるのかもしれませんが、むしろ、芸術家の世界にそういう問題が持ち込まれている。しかも、そこに政治権力との結びつきなどもしばしばうわさをされる。こういうような状況になってまいりますと、芸術院はその芸術院設立の目的を遠く外れてきているのではないか、そして、そのことが本当の意味での芸術家の活動を阻害し、そして日本の芸術の真の発展に弊害をもたらしているんじゃないか、こういう感じがするので、芸術院のあり方について、大臣、抜本的なひとつ検討を試みられるおつもりはありませんか。


○国務大臣(永井道雄君) 芸術院に関連いたしまして、いまのような問題が仮にあるとすれば、これはゆゆしいことでありますから、十分に検討しなければならないと思います。ただ、芸術院自体におきましても、仮にも事前運動というようなものがあってはいかぬではないかというような意味での院長名の注意と言うんでしょうか、そういうものも、これは一番最近のものですと、四十九年に出ているのでございます。それで、やはりこの芸術院のような場合には、これは芸術ですから、政府があれこれ言うというよりは、やっぱりその芸術院自身の自主性というものを非常に重んじなきゃいけない。
 それから次に、いま経済的な問題で芸術院に政府が助けたりすることは、かえって芸術を、何と言うか、弱くしてしまうということをおっしゃいましたけど、これも、私は問題は二面あるように思うんです。つまり、それでは何にも政府が芸術院というふうなものに経済的に補助をしないで、全くそういう政府の責任を果たそうとしないで、一切民間に任せてしまうという形になってくると、やはり芸術家に対する国の責任というものを十分に果たし得ない面がある。ですから、経済的には政府としても応援をするけれども、しかし、この芸術それ自体のことは全く干渉しないでどんどん発展していくようにするというふうになるのが一番望ましいんだと思います。そういう角度からいって、必ずしも現状において満足すべきでないような問題も生じているおそれがあるというので、院長の方でもこういう注意を出しておられるわけでありますから、私はそういう御活動というものを見守りまして、それで芸術院自身の自主性によって一層よく本来の目的が果たされるように運営されるということを文部省としても考えていくのが一番妥当ではなかろうか、そういう考えでおりますが、しかし、御提起になりました問題というようなことは、私たち自身も十分に考えていくようにしたいと思います。


○久保亘君 最後に、東京都の美術館の運営などをめぐっても、やはりそういう官製の芸術、悪い言葉で言えば、芸術官僚を官製の芸術院が生み出している、そういうことによって、本当の意味での大衆の中に生まれる芸術というものの芽がつぶされる、こういうようなことを危惧して、芸術院解体論を唱えられる方もあるぐらいなんです。だから、私は、やっぱりこの辺で政府が芸術の振興のためになすべきこと、なしてはならないこと、そういうようなことを、現在ある芸術院というものを完全に肯定した立場で論ずるのではなくて、もう少し芸術と行政とのかかわりというものについて根本的に見直しをする時期が来ているんじゃないか、こういう気持ちがしているんです。そういう意味で大臣にぜひひとつ御検討を願いたいと思います。

(2) 参-文教委員会-9号 昭和50年05月08日
○久保亘君 関連して一、二点お尋ねいたしますが、学士院法による年金、それから文部省設置法に基づいて芸術院会員に支給されます年金と文化功労者年金とは性格的にどういう差がありますでしょうか。


○政府委員(清水成之君) いま性格の点のお尋ねがあったわけでございますが、文化功労者年金法によります年金につきましては、御承知のとおり第一条にございますように、わが国文化の向上発達に特に功績顕著な者に与えると、こういう顕彰するため、こういう顕彰という性格でございます。それから学士院法並びに文部省設置法によります芸術院会員に対します年金につきましては、栄誉機関としての、栄誉という点が出ておるわけでございます。ただ、この学士院会員並びに芸術院会員はこれまた御案内のとおり国家機関に所属します非常勤の国家公務員ということになっておるわけでございます。そして先ほど来お話も出ておりますように、院賞あるいは恩賜賞等の選考なりあるいは会員補充の選考等の仕事もございますので、一部と申しますか、あわせ若干給与的な性格が入っておる、こういうふうに理解をしておるわけでございます。


○久保亘君 学士院、芸術院の会員に支給されます年金と文化功労者年金は併給されておりますか。


○政府委員(清水成之君) これにつきましては併給をされております。


○久保亘君 学士院や芸術院は国家の機関的なその役割りがごく一部分でありますが存在しておりまして、それに対する若干の報酬的な意味合いもあるということをお答えになりました。私もそう思っております。文化功労者年金というのは、これは全く年金を支給するための法律に基づいてやられているものでありますから、私はむしろ文化功労者の顕彰、それからこの人たちの日本の文化に対するその後の貢献というものを称揚する意味においては、文化功労者年金というのは年金によらずかなりな額の一時金を支給して、そして、その後の文化活動に大いにひとつ力を尽くしてもらう、その方がよいのではないか、それから学士院や芸術院の年金との併給の問題について考えてみまする場合にも、やっぱり文化功労者に対する顕彰というのは、功労者年金の十年分、二十年分に当たるものを一時金として支給することによって、日本の文化の向上に役立ててもらうというような考え方はどうなんだろうかと、これは別に私どもの党でそう考えているというわけではありませんけれども、併給の問題などを少し考えてまいりますと、そういうようなことは検討に値しないかどうかというような気持ちがいたしますものですから、大臣の御見解を承っておきたいと思います。


○国務大臣(永井道雄君) ただいま先生が御指摘になりましたように、文化功労者の場合には、将来の活動を励ますという意味合いを持たせてはどうかということですが、これはやはり意味合いとしては含まれていると思います。ただ、実質的に考えますと、そうなると非常に若い方々で、ある程度将来についてわからない方まで含めなければならないということも起こり得ますから、やはり奨励的なものであっても相当の仕事をされた方を選ばざるを得ないということは、やはり実質的な問題ではないかと思います。
 なお先ほど、粕谷先生がお尋ねになりました大衆文化に対する貢献の問題でありますが、これも非常に大事であります。数から申しますと、必ずしも多くありませんが、たとえば登山の槇有恒氏、それから柔道の三船先生、それから演劇では水谷八重子さん、杉村春子さん、それから文学で尾崎士郎さん、この方は亡くなった後でありますが、それから高見順先生、そういうふうな例もいろいろございます。そういうものを今後強めていくべきであるとかように思います。

(3) 参-文教委員会-15号 昭和53年06月08日
○久保亘君 (略)最近人間国宝とか、それから芸術院の会員とか、近くは私立大学の学長とか、こういう人たちの脱税が次々に国税庁によって明るみに出てきているわけでありまして、そしてこの脱税に対して追徴の措置がとられております。これは法律上いわゆる事件となるような犯罪としては取り扱われておりませんけれども、少なくとも私たちがこの国民一般の立場に立って考えれば、こういう人たちの間にかなり多額の、一般の庶民では考えも及ばないような多額の無申告、脱税があるということについては、決して軽視できない問題ではないだろうかと思うんでありますが、この芸術院会員とか、文化功労者とか、この種のものは、人間国宝にしてもそうでありますが、一度その地位を与えられれば、終身その地位が保全されることになっております。しかし、いずれもこれらの人が選ばれるときには、単なるその道での業績についてのみの評価でやられているのではないと思うんでありますが、人間としての芸術院会員とか、文化功労者とか、人間国宝とか、国家的な、何といいますか、誇りとも言うべき立場の人たちを選定するに当たっては、当然にこれらの人たちの人格とか、そういうものも十分検討の上、いままで指名されてきたと思うのでありますが、この点については文部省としてはどう考えでおられますか。
 それから、この終身の待遇になっている者について、これらの人たちが人間的に指弾せられるべきこと、あるいは犯罪を犯したというような場合には、その身分はこれは返上さぜられるべきものなのかどうか、それはどうお考えになっておりますか。


○国務大臣(砂田重民君) 芸術院会員、その候補者の選挙に際しましては、芸術上の功績顕著な芸術家について、芸術院で選挙をなさるわけでございます。日本芸術院は、国が「芸術上の功績顕著な芸術家を優遇するための栄誉機関」でございますので、その会員は、先生御発言のとおりに終身となっております。その退任につきましては、会員みずから申し出、総会の承認を経てこれを認めることができることとされております。これは日本芸術院令第四条に書かれております。
 また、文化功労者年金法におきましては、長年にわたりまして「文化の向上発達に関し特に功績顕著な」文化功労者を顕彰するための終身年金を支給すると規定されておりまして、欠格条項等については特別の定めはございません。


○久保亘君 欠格条項において定めがないということは、たとえば芸術そのものの評価において、芸術院会員として推薦をされるに足る、あるいはその手続で、会員の投票によって決まったということでもって、たとえその人にかなり重大な問題があっても、それは問題なく指名されるものか、業績だけで。それはどうなんですか。
 たとえば数千万の脱税を行ったことが明らかになっておる場合に、その人がいま改めて初めて芸術院会員に推挙されようとしておる場合に、大臣はこれをどうされますかということを聞きたい。


○国務大臣(砂田重民君) 芸術院がそういう方を芸術員会員に指名されることはよもやあるまいと考えております。


○久保亘君 指名されることがよもやあるまいと考えられるような立場の人が、現に芸術院会員である場合に、これはやむを得ないことだということになりますか。


○国務大臣(砂田重民君) 先ほどもお答えをいたしましたように、芸術院会員になられるような方は、もう子供ではありません。御自分のなさったことは御自分で事の善悪、御判断ができるはずでございます。
 そこで、芸術院令の第四条、先ほど申し上げましたように、みずからの意思によってというふうなことが書かれているものだと考えます。
 私自身の感じといたしましては、芸術院会員であられる方が脱税等の問題を起こされた、きわめて遺憾なことだと考えます。そして、芸術院会員としての身分をどうなさるか、これは御本人がやはり出処進退明確になさるべき筋合いのものであって、やはり芸術院会員というものは多数の国民がそれだけの功績を認められ、その文化、芸術活動というものを評価されているわけでございますから、御自身の御判断で、出処進退いずれをとられましても、そのことによって、またとられた御行動が、国民から容認をされるのか、あるいは批判をされるのか、本来的に持っておられた芸術活動というものが否定をされるのか、それは私は国民の御判断にまつべきであると、そのことはやはりそういう栄誉ある地位を得られた方、大人なんですから、自分で御判断あってしかるべきだと、こう考えます。


○久保亘君 芸術院会員というのは文部大臣の任命ですね。そして一たび任命を受ければ終身の制度となっておりますが、しかし、私は文化功労者についても、芸術院会員についても、これは国家が年金を支払っておるんです。そうでしょう。支払っておりますね。芸術院会員に対しては年金と呼んでおるのか何か知りませんが、芸術院会員というのは単なる名誉称号じゃありませんね。名誉職じゃありませんね。文化功労者も単なる栄典だけではありませんね。毎年支払われておりますね。幾らですか、いま。


○政府委員(吉久勝美君) 文化功労者の方に対しましては、年額といたしまして二百八十万円でございます。なお、芸術院会員の方に対しましては百七十五万円というのが本年度の金額でございます。


○久保亘君 これ両方兼ね備えている人は両方から支給を受けますね。


○政府委員(吉久勝美君) おっしゃるとおりでございます。


○久保亘君 そうすると、それはみずから決すべきものだと言われるんですが、国民の側からすると、その数千万の脱税の行為が行われた方に対して、芸術院会員であり、文化功労者であるゆえをもって、年間四百五十五万の、直接支給されるものだけでそうですね。そうすると、これはみずから決すべきものだということだけでは済まない問題になってくるんじゃないかなという感じがするんであります。それから、任免権者である文部大臣として、やっぱり大人だからということではなくて、この種のものについては必要な勧告措置なり、そういうものはあるべきではないかという感じがするんであります。私立大学の学長の場合とはちょっと違うんでありますね。これは国家が一つの地位を与えているんであります。財政的な裏づけをして地位を与えている。その場合にはそういうことだけではいかぬのじゃないでしょうか。
 それから、この芸術院というのについては、従来も国会でも何回か議論されてきたところでありまして、芸術院は果たしてその設置の目的に沿うようなものになっているのであろうかということは、われわれ素人ではなくて、芸術家の人たちからもしばしば意見が述べられております。芸術院会員に当選をするために、かなりの政治家も顔負けぐらいの買収供応のようなことがあるということは、これは新聞にもその種の問題が取り上げられたこともあります。私はそういうような仕組みの中で、それから会員にしてもらうために投票権を持っている人たちに対して何をやるか。個展が開かれると、そのときに高くその人の作品を買うことによって、自分を推薦をしてもらうというような行為もあったようなことが書かれたこともあります。私はそんなことから考えていくと、今度の方のいわゆる脱税事件というものは、あらわれるべくして出てきたんであって、特殊な事件なんであろうか。そういう点で、芸術院の見直しがいま求められる段階にきているんじゃないか。芸術院会員になることによって、作品の価格が急激に上昇するとも言われております。画家の場合には号当たりの値段がうんと上がるわけです。だから、相当な運動をやっても、芸術院会員になるということは経済的にも引き合うと、こういうことが言われるに至っては、私は芸術院の名に値しなくなるのではないか。こんなことを考えるのでありますが、今度の事件を契機にして、私はやっぱり芸術院そのものを見直すということが迫られているんじゃないか、こう思っているんですが、大臣、私が申し上げていることは、何か今度の事件を問題視して、非常に何か話を大きくして言っているんだということにしか受けとめられませんか。これはもう相当長い間論議されてきた問題なんです。


○国務大臣(砂田重民君) 確かに文部大臣が任命をするわけでありますけれども、芸術院長の上申に基づいてやることでもあり、芸術院令というものをやはり尊重をしてまいらなければなりません。ただ、やはり私もそっち側へ座りますと同じようなことを言うだろうと思うんですが、文部大臣としてお答えのできるやっぱり制約がございます。察していただきたい。ただ、このような問題が起こらないように、また、日本の文化、芸術の最高峰、やはり日本文化の象徴でもあることでございますから、芸術院というものの存在が、国民の目から見て真の意味の権威のあるものであっていただかなければ困ります。芸術院とも私は協議をいたしまして、検討をいたしますとだけはお答えをしておきたいと存じます。


○久保亘君 わかりました。大臣が非常に明確な意思をお答えくださったと思って、ぜひひとつ芸術院が国民のために、芸術院にふさわしいものであるように、その構成も、それからその会員の選ばれ方も、それから会員になられた方を国民が見る場合にも、そうあってほしいと思います。
 私がぜひこの際、今度は時間がありませんからお尋ねできませんけれども、いままで終身制度の芸術院会員を、途中で辞任された方が何人もあるんです。横山大観さんも、菊池寛さんも、そのほか画家の川端さんとか、日本画の小杉さんとか、何人も著名な芸術家が途中で辞任されております。この辞任の理由は一体何だったのだろうか。一説によれば、芸術院のあり方に対して、批判の行動として辞任された方もある、こう聞いておるんであります。私は文部省は、数多く、終身で、しかも、国家から一定の恩典も保障されているこの会員を、しかも、芸術家としては芸術院会員という肩書きが非常に大きな意味を持つにもかかわらず、途中で辞任されている方が何人もあるということについて、今度これを調べておりまして非常に不思議な感じがいたしました。これらの人たちが芸術院会員を辞任されたのにはどういう理由があったのか。恐らく文部省としては、当時そのことについては理由も把握されたと思うのです。そのことを一遍お調べいただいて、もし差し支えなければ御報告を願いたいと、こう思っております。個人の名誉にかかわるようなこともございましょうから、ここで報告できない部分もあるかと思います。しかし、私は少なくとも芸術院に対して一つの批判的見解を持って辞任された方があるとするならば、そういうものがどういうふうに芸術院に生かされてきたのか、そういうことについてもぜひ調べてみたいと、こう思っているのでありますけれども、文部省は記録をたどられれば、戦後の分だけでもかなりありますからすぐわかると思います。ぜひお願いをしておきます。
 きょうは時間がありませんから、大臣が芸術院の問題についてきちっとした対応をおとりになるということでありますから、またいずれそのことについてお話をお聞かせいただくということにいたしまして、きょうはこれで終わります。