中国の習近平国家主席が最初の外国訪問で、ロシア、タンザニア、南アフリカ、コンゴ共和国に行くことになりました。


 これを見てどう思うかということですが、まあ単純に「中露関係というのは紆余曲折はあるけど、やっぱり重要なんだな」ということは感じます。世界史を学ぶと、シルクロードが流行らなくなったのは海洋航路が発展したため、といったことが言われます。中世から近代まで大陸国家から海洋国家への流れがありましたが、陸路も海路も充実してきた現代においては、ランドパワーとシーパワーの関係をどう見るかというのは現代的にもとても面白いテーマです(明示的にではないものの「自由と繁栄の弧」の議論とかなり重なり合ってくるかなとは思います。)。ハルフォード・マッキンダーというイギリスの学者が「これからは大陸国家の時代だ」的なハートランド理論を唱え、地政学的にユーラシア大陸をどう見るかという壮大なテーマが提示されたのが19世紀末から20世紀初頭に至る頃です。そういう視点からも、ユーラシア大陸の大半を占める両国が「ああ、やっぱり」と思えるくらいの関係であるということは示唆的です。


 あと、南アフリカはBRICSの首脳会合に出るわけですから、訪問先を選ぶ際に二国間関係とは違った考慮材料が存在してます。ただ、アフリカに行くのであれば、BRICS首脳会合があろうとなかろうと、習近平は南アフリカには行ったでしょう。むしろ、ここで注目しなくてはならないのは「最初の訪問先の大半がアフリカである」という事実です。勿論、南アフリカ以外にタンザニア、コンゴ共和国に行くということはとても興味深いです。


 元々、中国の国家主席や首相、国務委員クラスはよくアフリカに行きます。日本の政治家とは比べ物にならないくらいアフリカに行きます。昔であれば、台湾(中華民国)との国家承認取り付け競争があったという事情もありました。中国はどんなに小さい国でも、中華人民共和国を国家承認している国には大使館を置いていましたし、折に触れ要人が訪問してきました。10数年前までは、台湾との国家承認争いで札束合戦をやると北京の方が若干劣勢だったということもありまして、大使館を置いて継続的な関係を築いておかないと台湾から承認を持っていかれるという問題がありました(今は札束合戦をやっても負けなくなりました。逆に台湾側がどんどんひっくり返されて劣勢なくらいです。)。


 それ以外にも、国連や諸国際会議の場でアフリカを味方につけておくことの意味を中国はよく理解しているということもあります。54ヶ国の大票田で、一国一票的な制度を採用している国際会議ではアフリカが賛成しないものはそもそも成立しにくいです。途上国グループの代表的な立ち振る舞いをすることが多い中国はアフリカを味方につけておかなくてはならないのですね。


 勿論、資源の問題もあります。資源を確保しようとする中国のなりふり構わぬ姿勢は特にアフリカで顕著です。ある意味、アフリカ側からすると「人権とか耳当たりの悪いことを言わずに取引してくれるし、代金代わりに(欧州が売ってくれない)武器をくれたりする」というのはありがたいところがあります。中国人が進出した先で、劣悪な労働条件を現地住民に強いている等の問題を起こしていることはありますけど、中国として資源確保の観点からアフリカとの結びつきを強めるという方向は絶対に変わらないでしょう。


 しかし、そんな中、何故メモリアルな最初の訪問先がタンザニアとコンゴ共和国なんだろうかと思います。タンザニアの大統領はジャカヤ・キクウェテ。2005年就任ですので、大統領としては古株とまでは言えません(ただ、タンザニアの大統領制は2期10年と決まっているので任期はあと3年弱しかありません)。東アフリカの古株・重鎮系を訪問したいのなら、ウガンダのヨウェリ・ムセヴェニでしょう(1990年代はアフリカの星と言われていた大統領です。今は一党独裁の長期政権で少しくすんだ感じがしますが。なお、ウガンダは日本よりも政界への女性の進出が進んでいます。)。しかも、タンザニアは周辺と比べて、そこまで資源がジャンジャン出る国でもありません。オフショアで天然ガスが出るのと、金やタンザナイトが産出されるのが特筆されるくらいで、そこまで大資源国ではありません。


 ただ、たしかにキクウェテ大統領は、私的には今のアフリカの首脳の中で最も期待感の高い人物です。大統領就任前は外相を10年くらいやっていましたけど、その時大湖地域の紛争処理で活躍したことで名を馳せました。中国が何故タンザニアを選んだのかを知る由もありませんが、(ケニアがゴタゴタ続きの中)東アフリカの安定勢力としてのタンザニア、そして名君の呼び声高いキクウェテ大統領に注目したと仮定するならば、その選択は「なかなか通だね」と思いたくなります。


 そして、コンゴ共和国。こちらの大統領のドゥニ・サスー・ンゲッソーは相当に古株・重鎮系です。1979-92と1997-現在の期間ずっと大統領をやっていますから、単純計算でも28年以上は大統領です。これだけ長いのは、西部・中部アフリカでは他にはカメルーンのポール・ビヤくらいです。サスー・ンゲッソーは下野している間(1992-97)の大半を、当時の大統領のパスカル・リスバと内戦を繰り広げていましたし、まあ、何処か血生臭いところのある大統領です。


 コンゴ共和国には石油が出ます。あまりよく知りませんがダイアモンドも出るというふうに聞いています。ただ、習近平が石油目的で訪問するならもっと石油の出る国は他にもあります。中部・西部アフリカ(大半が仏語圏)の中で重鎮系の大統領を選んだのかなという気がしないわけでもありません。一般論として、アフリカ諸国間には「長老政治」の文化があり、内政的には少々ろくでもない首脳であっても長く務めている人の意見が大事にされます。例えば、アフリカの何処かで紛争が起こると、大体にして古株・重鎮系の大統領が調停役になることが多いです。そもそも、中国はアフリカ諸国の内政には不干渉ですから、中部・西部アフリカでは純粋に古株・重鎮系を選んだのかなとも思いたくなります。


 まあ、よく分からない中、あれこれと書きました。多分、私の稚拙な見方は外れているんじゃないかなと思いますが、中国の奥の院で決まっていることですからこれは誰にも検証できません。いずれにせよ、押さえておくべきは習近平の最初の訪問先がアフリカであるという事実です。日本の首脳クラスが、就任早々アフリカに行くことは想定されないということを考えれば、その差は歴然としています(日本では小泉総理クラスの長期政権になってこない限り、なかなか総理のアフリカ訪問の機会はありません。)。