TPP交渉参加の件で与党を見ていると、一つ感心するのが「対外的に執行部批判をする議員がいない(いたとしてもとても少ない)」ということです。これは前与党とはかなり異なります。何が違うのかなと思って、自分なりに考えてみました。


● 支持率
 まあ、これが大きいんだろうなと思います。支持率が高ければ少々のことは呑み込めてしまうし、求心力が高いという要素が大きいのでしょう。思い返してみると、私が現職時代は政権支持率が高かった時期がとても短かかったので、特にそう見えてしまうのかもしれません。政権が上手く行く(行かない)ことと支持率が高い(低い)ということは鶏と卵みたいなものでして、両方相俟って進んでいくものだと痛感したものです。
 「支持率に右顧左眄しない」という政治家がいますが、そんなはずがありません。支持率が強ければ行動範囲は格段に上がることが分からない政治家がいるとしたら、それは相当にセンスのない人です。政治家は程度こそあれ、支持率を気にする生き物なのです。


● 与党であることの利点
 多分、民主党が与党時代に所属議員、特に政権内に入っていない当選期数が若い議員が「与党でよかった」と強く実感する機会は比較的少なかったのではないかと思います(野党を経験していないので、真の意味での比較はできませんが)。そのあたりの恩恵があまり感じられないと、「与党として団結して、与党に居続けなくてはならない」という心理が働かないのですね。
 ここは「与党のうまみ」みたいなものを感じさせる仕掛けが党内的に足らなかったのではないかと思います。そういうことをやろうとしなかったわけではありませんが、逆にとても分かりやすいかたちで対財界、対業界団体、対地方自治体で強気に出て、結局、それらの方々から反発だけが返ってきたこともありました。表現は難しいですが、与党であることのありがたみを実感できる「巧みなえげつなさ」が欠けていたような気がします。
 もう一つ、この流れで思ったことは、国政で政権が変わっても地方自治体レベルで(圧倒的)少数だと、そもそも国政で与党であることのありがたみを感じにくいということもあるように思いました。逆に自由民主党は地方議会での基盤が強いですから、国政与党であることの意味を強く感じることができる諸条件と体制が揃っているということなのでしょう。


● 党内コンプライアンス
 民主党内には、政党の論理とは別の論理で動く「党内党」のようなグループがありました。政党に対する忠誠心よりも、別の忠誠心が優先されるというのでは物事は纏まりません。その党内党グループが主流派にいる時は物事がそれなりに動きやすいのですけども、そうでなくなると、どんな議論をしようとも必ず混乱するのです。
 勿論、どんな組織にも内部に派閥的サブグループが生じるものです。そして、そのサブグループに対する忠誠心が生じるのも普通のことです。ただ、そのサブグループに対する忠誠心のベクトルが、本体グループに対する忠誠心のベクトルとかなり違う方向を向いてしまい、しかもそのスカラーが大きいということになってしまえば、政権維持が難しくなっていくのは否めません。


● 長幼の序
 これはあまり語られませんが、「長幼の序」のような文化が民主党には少し欠けていたように思います。一期生が期数の高い先輩を、平場で罵倒に近いような聞くに堪えない口調で、攻め立てていたことがかなりありました。私は外務省時代、色々と自由民主党の会議に出ていましたが、あんなシーンを見たことはなかったです。
 たしかに色々と不満を持ちたくなる先輩議員はたくさんいました。私も党内議論で相当に口煩い方でした。ただ、最後の最後のところで最低限の礼節みたいなものは持っていたつもりです。上下関係に囚われることなく、自由な議論の気風があることはとても大切なことです。ただ、矩を越えて、先輩や年長者に対する礼節を欠いた議論をする議員が散見されました。


 まあ、ここまで書いてみて、簡単に言うと「政権の求心力」、「党内集約のツール」の2点に集約されるのかなと思いました。もっと単純化すれば、とどのところ「支持率さえ高ければOK」という結論に行きついてしまいました。あれこれ書いたわりには、最後はとても単純なところに落ち着きました。